10月に発刊したレイルNo.108
 巻頭では,京都駅と梅小路周辺の鉄道情景を,小寺康正さんのアルバムから,有名撮影地ではない,普段着の京都を感じさせてくれる情景の数々をご披露いただいた.
 西宮に住んでいた中学生にとって,京都は遠い地であったけれど,“万難を排して”でも訪問したい地でもあった.それはもちろん梅小路機関区.美しく手入れされたC57や,出来上がったばかりのDD54に対面できたのは昭和43/1968年3月のことだった.
 ほどなく興味を持ちはじめた機関車履歴簿というものを,梅小路機関区の検修事務室でいろいろ教えてもらいながら閲覧させてもらっていたら,“ぼく,なにしらべてんの?”と声を掛けてくださったのが,折りしも機関区にやってこられた小寺さんだったのである……お互いに“あぁあの時の”となったのは1年以上経ってからのことだが.
 そんな思い出も含めてのグラフ構成は,実に楽しい作業だった.梅小路を訪問したことのあるファンならばみんなが通ったであろう中央卸売市場の七条通りや丹波口駅の風情などを,存分にお楽しみいただければ幸いである.登場する機関車はC51からC57,8620をはじめとする蒸気機関車機関車だけでなく,東海道本線全線電化とともに姿を見ることができるようになったEH10,さらには山陰本線で試用された各種ディーゼル機関車も含まれる.さらに加えて京都市電も登場する.
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扇形庫の前にたたずむC51225.最終配置は亀山なので,そちらの印象が強いが,昭和30年代半ばまでは山陰本線で使われていた機関車である.昭和33/1958年4月4日 写真:小寺康正

続いては,その京都と大津付近の線路遺跡を訪ねる楽しみ.
 届けてくださったのは,京都在住の福田静二さんと貝塚恒夫さん.東海道本線の付け替え跡から,開通以来140年を経て今なお現役として鉄道輸送を支え続けている施設類まで,丹念に訪ね歩いた結果の現状レポートである.
 逢坂山隧道付近を東の端として,現在の奈良線稲荷付近までの間,大正期まで東海道本線のルートの一部だった.今の山科経由にくらべると随分距離が長いが,それは急勾配とちょうだいトンネル掘削を避けるための次善の策だったのである.そのあたりの経緯も,極めて解りやすい稿に,仔細に述べられている.
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京都周辺の東海道本線の遺構としてもっとも有名なのが,この逢坂山トンネル東口だろう.昭和40年代までは草生していたが,今では綺麗に整備されて見学することができるようになっている.写真:貝塚恒夫

三番目は,インターネットオークションで入手した古いアルバムに遺されていた,昭和初期の吹田や鷹取とその周辺の鉄道情景.そのアルバムを柱として,高見彰彦さんがその頃の吹田や神戸市内の線路の様子を綴ってくださいました.
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昭和9/1934年の吹田機関庫.大阪大学からの実習生を受け入れた時の記念写真であるという.所蔵:高見彰彦

この稿によって,今回のレイルは図らずも大津から京都大阪神戸と“三都物語”ならぬ“四都物語”の体を成したことになる.
 D50やその他の蒸気機関車も興味深いが,高見さんにとって最大の興味の大正はドイツから輸入したDC10とDC11の2輛のディーゼル機関車.さまざまな資料によって,これまで語られることの少なかったこの2輛の機関車について,考察されている.

四番目は,西 和之さんのトラス橋.No.107でご紹介した上越線の水上と湯桧曽の間を走るED16の写真.その傍らに写り込んだトラス桁の道路橋に目が止まった西さんが,その出自を荒川橋梁と探り当て,さらには同じ荒川で使われていた他の桁の転用先の現況もレポートされたのである.
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今もなお現役として使われている,東十条駅傍らの道路橋.先年までは新鶴見操車場を越す道路橋にも生き残っていたが,架け替え,一部のみ保存となった.写真:西 和之

そして,結果的に連載となった国重要文化財に指定のED4010についての解説.今回は日光電気軌道…東武鉄道へ払下げられてから保存となるまでの経緯を,小野田滋さんに詳しく解説していただいた.
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東武鉄道ED4001,元の国鉄ED406.のちの東武鉄道ED601である.この機関車は早くに廃車となり解体されてしまったが,もう1輛のED4002,後のED602が昭和43/1968年まで残って,国鉄に引き取られて保存されることになったのである.昭和28/1953年8月 写真:園田正雄

今回指定の2輛のうち,ED4010については今回で完結.1月に刊行予定のNo.109で,いよいよED161についての解説を掲載することになっている.お楽しみに!

連載の“公式写真に見る国鉄客車”第11回目は,急行列車用3等車として昭和20年代に量産されたスハ43とその緩急車スハフ42,スハフ44,オハフ45である.

と,記している今日は12月27日.今年の僕のブログは今年の最終回.みなさん,どうぞよいお年をお迎えくださいますよう.
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とれいん新年号での東武鉄道撮影取材の途上,姫宮近くで見た夕景.関東平野の,特に冬の日暮れどきには,独特の風情があるように思う.なぜそう感じるのかは,自分でも解らないのだけれど.この日の入りが,新しい年の元気な日の出に繋がりますように.