去る12月29日深更から今週はじめの1月7日の早暁にかけて,JR東日本は山手線でE235系を使い,3度に亘ってATOの走行試験を実施した.
 そのうちの,1月6日の深更(正確には日付が変わって1月7日の午前2時前)から午前4時頃までの間に山手線を2周する試験の模様が報道公開されるというので,喜び勇んで参加してきた.

※とても長いです.最後までおつきあいくださいますよう.

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東京総合車両センターから出庫して大崎駅へ進入するATOの試験列車.この日の編成はトウ24が使われた.

ATO(自動列車運転装置=Automatic Train Operation).ちょっとでも鉄道の保安装置に興味のある方なら,耳に馴染み深い言葉だろう.発車から停車まですべてを自動制御し,究極的には無人運転の実現,ということになる.
 我が国での開発の歴史は古く,昭和30年代半ばまで遡る.名古屋市交通局の地下鉄東山線で地上と車輛に装置を搭載して実際の列車での試験を行なったのが最初だといわれている.続いて1962年には東京の営団地下鉄日比谷線でも本線での試験が実施された.国鉄では鉄道技術研究所(現在の鉄道総合技術研究所)構内で101系電車に装置を搭載してループ線を周回させたという記録がある.
実用化はといえば,1976年の札幌地下鉄東西線での全面採用が印象に残るが,実はそれ以前,大阪万博の会場内で集会運転を行なっていたモノレールが無人運転を実現しているから,システムとしてのATO実用化の最初は,1970年ということになるかもしれない.

1980年代に入ると,各地に開業した新交通システムでの採用や,地下鉄新規開業路線への導入が相次ぐ.一方では札幌市東西線のように,ATOからATCへとシステムを変更する路線も少なくない.
 ということで,これまでのATOは必ずしも全能の神ではない,ということのようである.
 そんな中,JR東日本は中期ビジョンの中でATOの実用化と,さらに無人運転(ドライバレスと呼んでいる)を5段階でプランニングしている.今回の試験運転はその一環というわけである.
 この日は,ATOの試験と同時に,運転士が走行中に情報を得やすくするためのヘッドアップディスプレイの試験も実施されていた.

報道陣は,2週するうちのどこかで1回,2駅区間で乗務員室に立ち入っての撮影が許されることになっていた.その順番は受け付けのときの抽選で決まる.僕が当たったのは2周目の日暮里から鶯谷を経て上野までの間であった.
 それまでの約1時間半は,3号車で待機ということでヒマ…なはずではあるのだが,実際には顔見知りの各社取材陣と情報交換したり,普段は目にすることができない,電車が走っていない時間帯の各駅のホームの様子を観察したりで,時は瞬く間に過ぎ去った.
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午前2時39分の東京駅5番線.生まれて初めてみる,そして今後もなかなか体験できない後継である.昼間には施工しづらいホームの補修がコツコツと行なわれていたのが印象的だった.
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考えることはみんな同じとみえて,あるTVクルーは暗幕を張って深夜の山手線沿線風景撮影にいそしんでいた.

そしていよいよ順番が巡ってきた…その前に田端と日暮里の間で,運転室背面に用意された大型ディスプレイでヘッドアップディスプレイに映る情報と,運転士が装備しているウェアらブルカメラからの前面展望を見学.説明してくださるのは執行役員鉄道事業本部運輸車両部担当部長の得永諭一郎さん.
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このあたり(指が示す先)に置かれた,コンバイナーと呼ばれる半透明のプラスチック板に,ヘッドアップディスプレイの画像が映るんです.視野角が狭いので,なかなか撮影は難しいですが.そこでご用意したのが,下の小さなモニターです.今は田端と西日暮里の間を時速70キロで走行中ですね.と,得永部長.
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ヘッドアップディスプレイの外観 試験構成.提供:JR東日本

アイボックスとは,運転士が虚像全体を見ることができる範囲のことをいう.表示する情報は、列車情報管理装置INTEROSから得ている.運転士が見る表示は,前方約20m程度を想定しているという.この距離であれば,前方注視状態からほとんど視線を動かさずに情報表示も確認することができるのだという.

と,説明を聞いていたら,列車はいよいよ日暮里に到着.初めて乗り込む(車輛の報道公開では運転室内部が公開されなかった)E235系の運転室で,ATOによる運転の体験である.
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運転士の右手に見える緑色のボタンが出発スイッチ.両手とも手休めに添えられているだけで,どのレバーも操作していない.背景の跨線橋が流れていることで列車は走行状態にあることがわかるだろう…

と,言葉で説明するより,動画を見ていただいた方が,観覧に状況を理解していただけるだろう,ということで……鶯谷の発車時に,コンパクトデジカメに備えられた動画撮影機能を,ほとんど初めて使ってみたのが,この画像である.

話は少し戻って日暮里と鶯谷の間.運転士の後ろに回ってヘッドアップディスプレイの撮影に挑戦.狭い視野角の中で,なんとか映像を捉えて撮影したのが,この写真である.
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本来見えるべき情報のうちの一部しか見えていないが,それでも速度計の円弧がはっきりと判るだろう.

上野駅で名残惜しくも運転台から出て,2号車との連結面付近で速度制御のグラフを映し出したモニターの見学.より自然なパターン作成をめざしているとのことだが,実際にはまだまだ,熟練運転士の運転の方がずっとスムーズな走行であるようだ.特に各種制限や遅れ回復などでは.
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所定より10秒早着のパターンで運転中,御徒町停車に向けて減速中の状況を説明したくださっているのは,運輸車両部車両技術センター所長の菊池隆寛さん.JR東日本が目指しているのは,その時々の状況に応じて走行のパターンを作成できるシステムの構築だそうである.
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最後にお目にかけるのが,ATOの基本パターン図と,位置検知用地上子.ホームドア用の地上子から停車駅情報を受信し,停車時にはTASC(Train Automatic Stop Control=定位置停止装置)の車上子によって停止位置までの距離を正確に把握しながら停車するのである.提供:JR東日本

ということで,今回の体験談は,随分長くなった.それでもまだまだ説明しきれていない.現実に開発すべき項目は,もっともっとあるはずである.
 得永部長は最後の質疑応答で“ATOの実用化は具体的にいつ,ということは申し上げられないが,できるだけ早く,とは考えている”.ドライバレス運転は“その次のステップです”と答えておられた.
 さらに具体的な導入路線についても未定であるとのこと.山手線は導入し易いように思えるのだが,環状運転であるが故の課題も多いそうだ.
 ちなみに12月29日の試験ではトウ07編成に日立製のシステムを搭載し,今回のトウ24編成は三菱製のシステムを試験したとのことである.いずれも仮設であり,通常の営業運転では運転室をのぞき込んでも,普通のE235系の運転室が見えるだけであるそうだ.車上子も既設のものを使っているから,床下機器などにも一般編成と変わりはないそうである.

 開発が着実に進むことを,大いに期待したい.