ずいぶんと長いタイトルになってしまったが,7月に発売のレイルNo.111は,全篇が20系寝台客車だったNo.110から一転して,さまざまな話題の寄り合い構成となった.このように変幻自在な組み立てができるのも,レイルのとりえのひとつだと思っているわけだが.

最初は荒井友光さんが撮影された昭和30年前後の国鉄名古屋駅と名古屋機関区,そして稲沢機関区の情景である.
 荒井さんといえば,古くからのモデラーにはお馴染みの名古屋模型鉄道クラブ(NMRC)の創立メンバーの一人であり,長らく会長を務められたということで,お馴染みの名前だろう.模型製作に勤しむ傍ら,実物の写真も熱心に撮影しておられたということは,これまで,あまり知られていなかった.平成20/2008年に亡くなられたのち.そのネガは名古屋レール・アーカイブスのメンバーによって整理,デジタルデータ化されていたのが,今回,同会とご遺族のご厚意でレイルへの掲載が叶ったものである.
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上り“はと”の機関車付け替え風景.関ヶ原を越えて到着した宮原機関区のC62 29から,東京機関区のEF58 64にバトンタッチする.傍らにはEF56が姿を見せている.機関車,とりわけ蒸気機関車にとって,この時代の名古屋駅はもっとも華やかだった一時期といえるだろう.昭和29/1954年2月 写真:荒井友光

荒井さんの写真の本領が,地元に密着した名古屋市電や名古屋鉄道にあることは百も承知の上で,あえて初回に名古屋駅とその周辺の情景を採りあげたのは,読者にとって広く興味と関心を持っていただけるは,やはり“国鉄”であろうという思惑からだった.
 次回(もうまもなく発売だ!)は,名古屋市電,それも昭和19/1944年撮影の記録も含まれる“戦時下の名古屋市電”と題して,新造直後の連節車2600形や灰燼に帰する直前の名古屋市街地風景を存分にお目に掛けることになっている.その次には名古屋鉄道の個性溢れる車輛たちが待ち構えている.引き続いて楽しみにお待ちいただきたいと思う.
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“青大将”になってからの特急“つばめ”編成.二重屋根の展望車と軽量構造のナロ10という,客観的にはアンバランスな取り合わせの編成だった.荒井さんは新旧の客車にも広い関心をお持ちで,木造車から新型車まで,多くの写真を撮影しておられる.それらも,しかるべき解説を加えた上で,順次お目に掛けたいと考えているところである.昭和32/1957年11月9日 写真:荒井友光

二番目は“国鉄線を走った小田急ロマンスカーLSE”.国鉄線を走った小田急といって,SE車による高速度試験…というのは,さすがに遠い歴史の世界である.一方で昭和57/1982年の初冬に実施されたLSEこと7000形の走行試験は“ついおとといのこと”と思っていたのだけれど,気がついてみれば37年もの時間が流れていたのだった.今回,いつも“蒸機の時代”に美しい写真を寄せてくださっている相澤靖浩さんから“実はあの試運転に添乗していたんです”というお話が寄せられて,自分のネガを引っ張り出してみたら,なんと,どんぴしゃりで相澤さんが乗車してられた列車を写していたことが,判明したのだった.そこで,37年目にして沿線と車中の両方からの試験風景レポートが実現した次第.当日配布の貴重な記録もあわせて堪能していただきたい.
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根府川の鉄橋を渡る小田急7000形LSE.その先頭車展望席に,相澤さんが座ってられたわけである.上り113系電車がすれ違った記憶は薄れていたのだが,相澤さんのレポートによって,記憶が甦ったことである.写真:前里 孝

三番目は外国…ドイツの動態保存名パシフィック機01原形デフ機のレポートである.荒井さんの写真を掲載するに際してもお骨折りいただいた服部重敬さんが,永年に亘って追跡してこられた原形デフ機2輛.その2輛がこの春に実施された重連運転の情景を加えてお届けした.うち1輛は,40年前に当時の東独から買い戻されて西独では大型機の動態保存の先駆けとなった機関車なのだが,残念なことに,今期で火を落とすのだという.重連運転は,その惜別の意味が込められたのだろうか.
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印刷ではモノクロでの掲載となったが,ここではカラーでお目にかける,チューリンゲンの丘陵地帯を走る01の重連.2輛目の01 118が40年前に東独から買い戻された機関車である.フランクフルト鉄道歴史協会の管理下で動態保存されてきたが,全般検査費用を捻出できず,残念ながら火を落とすことになった.オーバーローン(Oberrohn)ーエッテンハウゼン(Ettenhauzen) 2019年5月11日 写真:服部重敬

四番目.
それは室戸台風による鉄道の被害.とりわけ瀬田川橋梁での列車横転事故の歴史的検証である.著者は高見彰彦さん.
 瀬田川橋梁上を走行中の急行7列車が強風により機関車と客車2輛を除いて脱線転覆した事故について,その発生時点での記録と,復旧の模様を種々の史資料から再構成した力作である.事故はあってはならないものだが,その記録は,決して等閑にしてはならないものであることを,改めて思わされた次第.
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橋梁上で横転,上り線の橋桁に支えられることによって転落を免れた急行7列車の客車たち.高見さんの資料発掘に対する情熱と,丹念な現地訪問による裏付け調査の努力に敬意を表します.所蔵:高見彰彦

そして締めくくりが,公式写真に見る国鉄客車の第14回目である.ひとまず今回で最終回ということになっているが,今後,所蔵写真の整理が進んだ時点で,これまで採り上げることができなかった形式をお目に掛けることができるものと思う.乞うご期待!
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優等客車由来の戦災復旧車の1輛,イコライザー式のTR71をはいたオハ77 2である.TR73を使った荷物車は荒井友光さんの写真にも登場する.写真約500枚,3年半,14回に及び解説を加えてくださった藤田吾郎さんには感謝申し上げます.写真所蔵:レイル編集部

ということで,次のNo.112も,すでに印刷に取り掛かっている.10月21日に発売の予定である.どうぞよろしくお願いします.

※と,いう原稿を9月の下旬に用意していたのだが,時局の話題が立て続けで,レイルに関しては忸怩たる思いの毎日だった.[まだですか?]という問い合わせも何件かいただいてしまったし,高見彰彦さんからは[その後調べていたら9600の最初の廃車機が,室戸台風事故に併せて採り上げた飛越線事故の当該機だったことを発見したから,加えて紹介して欲しい]旨のお便りをいただいた.
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9600形最初の廃車(機関車表調べ)29623の廃車理由は今まで判明していなかったのではないかと思います。
 事故機が29623だと判明した資料は国会図書館デジタルコレクションで読む事ができます。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1242851/183
(タイトル: 保線講話会記録. 第19回  著者:鉄道省工務局 編


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とのことである.

※最新のレイルNo.112は第一テーマを“国鉄交直流特急電車の顔”として来週の週明け10月21日頃には発売の予定である.こちらもどうぞよろしくお願いします.