新型通勤車は12年ぶりだそうである.4000形が登場してからもうそんなに時が流れてしまったのかと,ちょっと感慨にふけりそうになった.しかし,まずは限られた時間内で,ニュースはもちろんのこと,MODELERS FILEのためにも各部分の写真を撮影しておかねばらない.今週月曜日11月11日午後,小田急電鉄多摩線唐木田の車庫でのことである.
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新宿方から見た小田急電鉄5000形第1編成.川崎重工製である.残念ながらこの日は見ることはできなかったが,列車種別・行先表示装置はフルカラーLEDである.

編成は新宿方からクハ5050(Tc1)+デハ5000(M1)+デハ5100(M2)+サハ5150(T1)+サハ5250(T2)+デハ5200(M3)+デハ5300(M4)+サハ5350(T3)+デハ5400(M5)+クハ5450(Tc2)の5M5T.
 正面は3000形以来の非貫通.ただし形状はがらっと変わって,大きな丸味を与えられた上にスラントノーズに裾あたりで折り返している.これまでの小田急通勤車にはなかったデザインである.地下鉄には乗り入れないので,最大幅は限界一杯の2,900mmで裾を絞っている.これは8000形以来の寸法となる.
 窓下のストライプは,これまでのインペリアルブルーに加え,明るいアズールブルーを加えてイメージチェンジをはかっている.
 側面に回って気がつくのが側扉周辺.日本車両のブロック構造ステンレス鋼製構体に特有の外観である.実際,日本車両総合車両製作所川崎重工の3社により共同で設計され,川崎重工からはレーザー熔接が,総合車両製作所からは構体隅柱のオフセット衝突対策が採り入れられているとのこと.
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電動台車は日本車両のNS-102.GSEこと70000形で採用された日本車両の新技術による台車である.付随台車はNS-102T,先頭台車はNS-102TAである.

日本車両の新技術というのは,2017年12月7日のここで“第5回鉄道技術展で見てきたこと”と題して記したブログでご紹介した“側梁は一体成型・ハットプレス構造,横梁は上下分割・モナカプレス構造”という台車である.熔接箇所を減らし,剛性を高めたのが大きな特徴である.3社からのプレゼンテーションを受け,日本車両製のこの台車を,5000形の統一台車として採用することにしたのだそうだ.

主制御装置は三菱電機製のSiC適用2レベルVVVFインバータ1C4M方式で,すべての電動車の海側に取り付けている.補助電源装置はデハ5100とデハ5300の山側にIGBT素子のSIVを取り付け.電動空気圧縮機はデハ5000,デハ5200,デハ5400の山側にクノール製のオイルフリーレシプロ式を取り付けている…外観が変わっているので,内部にも変化があるのかもしれない…….

さて室内.広幅車体のメリットを活かし開放感溢れるデザインを採用している.その手段のひとつとして荷物棚や腰掛の袖仕切りに強化ガラスを多用し,室内燈は川崎重工製の薄型の埋め込みタイプLEDを使って,より広い空間を演出している.ちなみにこのLED,全車に設けられている優先席部分は電球色として他の部分と区分している.
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明るい壁面や天井と木目調の行け面とのコントラストが印象的な客室.オレンジの腰掛け表地も,これまでの小田急通勤車にはなかった,画期的な色遣いである.1輛当たり防犯カメラを4台と空気清浄機を8台ずつ取り付けているのも,小田急通勤車では初めてのこと.
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強化ガラス製の袖仕切り.扉付近に立っている乗客の背中や髪の毛などが腰掛けている乗客と接触してトラブルとなるのを防ぐために仕切を高くするのが近年の傾向だが,これまでの不透明の材質では客室が暗くなってしまうため,ガラス板を使って明るさを確保しているわけである.

運転室は左手操作式マスコン・ブレーキハンドルをメインとし,その前にモニターを3台取り付けている.正面のモニターにはブレーキ管とブレーキシリンダー圧力計,速度計などを,右手のモニターには編成の状態などを表示する.
 車輛の状態などは,70000形までのTIOSに対してN-TIOSと名付けられた,JR東日本ではINTEROSと呼ばれる車輛情報管理装置の機能の一部である.ちなみにTIOSはTIMS相当の情報管理装置である.
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運転席とその周辺.運転席前のモニターは3面.左手壁面のメーターは電圧計.日除けは巻き上げ式ロールカーテンである.

今年度はこの第1編成のみで,来年度には5編成が追加されることになっている.製造所は第1,2,5,6編成が川崎重工,第3,4編成が総合車両製作所である.日本車両製は再来年度以降に登場の可能性がある.
 注目の営業運転開始時期だが,来年3月の予定と発表されている.複々線を駆けめぐる姿を早く見たいものである.

※2019.11.15:N-TIOS関連一部修正