より洗練された東海道新幹線用車輛としてJR東海が開発を続けてきたN700S系電車が,いよいよ7月1日から営業運転に投入される.
 この電車については,性能確認編成の落成時報道公開を松本正敏さんがレポートしてくださっているのを皮切りとして,豊橋まで試乗した時のことなどをここで,また本誌では初の東京駅乗り入れを2018年8月号の,豊橋までの試乗記を2019年12月号の,Coffee Cupで記すなど,折に触れて紹介してきた.
 今年に入ってから,いよいよ量産編成が落成しはじめたので,間近で観察できるチャンスを今か今かと待ち構えていた.4月の初旬に浜松工場で報道公開を実施するというご案内をいただいた時には,すぐさま申し込んだものである.ところがこれは,COVID-19騒ぎのあおりで開催直前キャンセルとなってしまった.“営業運転が始まってしまうよぉ”とじりじりしていたら……6月13日に東京と新大阪の間で実施の報道試乗列車にお声掛けいただいた.間髪入れずに申し込んだのは,いうまでもないことである.

ということで,とても長いレポートが出来上がった.
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朝10時,多くの報道陣が出迎える中,東京駅19番線に到着するN700SのJ3編成.性能確認編成と同様の,LEDの前照燈で遠くからでもN700Aと区別することができる.

性能確認編成の落成から2年での量産開始という時間の流れは,ずいぶん短いようにも感じるが,その間には8輛編成での走行試験,360km/hまでの高速運転試験,非常用蓄電池での停電時の自力走行試験など盛り沢山のメニューをこなした上で量産仕様が決定された.
 8輛編成での走行試験というのは,このN700Sを汎用車輛として展開することが考えられているためで,システム的には12輛,8輛,7輛,6輛での運転が可能とされている.輸出仕様の開発も念頭に置かれている.

取材は4つのグループに別れて進行した.僕が属した班は,まずグリーン車から始まった.
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グリーン車腰掛.腰掛などの仕様は性能確認車と変らないように見える.背擦りの途中に横一直線の光が当たったように見える表地の織り方は極めて個性的である.

客室の防犯カメラは両車端部に加え,天井にも1輛当たり2基または4基が設置された.壁面の非常通話装置も加わり,さらに運転指令から客室へ直接の案内放送も可能として,安全性のさらなる向上に,大いなる努力が注がれている.

普通車のリクライニング機構は背摺りと座面が連動する方式となり,快適性が格段に向上している.交流100Vの電源コンセントは全ての席に装備されている.
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フルリクライニングした状態の普通車腰掛.座面も動いているのが隣席との比較で解るだろう.コンセントは肘掛先端,リクライニングレバーの下に取り付けられている.

車椅子スペースは11号車に2台分を確保,その東京方車端部には大型車椅子対応トイレや多目的室も設置されている.喫煙室は3,7,10,15号車に.通常のトイレは従来通り奇数車に設置されている.公衆電話も引き続いて12号車デッキに設けられている.
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車椅子スペースは2台分が用意されている.腰掛下部には固定用ベルトが収納されている.

各号車で新しいのは大型荷物置き場.1,11号車を除く奇数号車のデッキには独立したスペースが確保されている他,各車の客室端部腰掛背面も,正式に特大荷物置き場に指定された.
 これらはいずれも事前予約制とされている.3辺合計が160センチを超す(ただし250センチ以内)の荷物について,指定券購入と同時に申し込む制度が今年5月20日にスタートしている.なお事前予約がない場合は,税込み1,000円の手数料が必要となる.
 ちなみに類似のサービスは,欧州大陸各国の優等列車でも導入が進められている.
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普通車客室後端の特大荷物置き場.前端となる場合にはこの表示は腰掛の下に隠れる.5月20日以降,自由席には特大荷物を持ち込むことができなくなっている.
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3輛のグリーン車の真ん中に位置する9号車の東京寄りデッキ.画面右側(山側)にはトイレが2室並ぶ.左(海側)は手前から男性用トイレ,洗面所,特大荷物置き場である.

さて,JR東海としてはN700Sそのものだけではなく,アルミ材料のリサイクルについて日本初の手法を実行していることも,アピールしている.
 それは“アルミ水平リサイクル”と銘打たれており,車体の構体として使われていたアルミ合金を溶解したうえで再度,車輛の構成部品として採用するものである.これまでも東京地下鉄などで研究開発が進められてきたが,今回は,高速鉄道車輛として初めて,押出成型により車輛の部品を製作したものである.具体的には,N700Sの荷物棚とその下のパネル材に使われてているという.
 この説明が,運転中の列車内……まさに活用された材料による製品を目の前にして行なわれた.
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アルミ合金の“水平リサイクル”について説明する新幹線車両課の伊東係長.“水平”というのは,押出型材に使われていたアルミ合金材を,鋳物などに移行させず再び押出型材として利用することを意味するのだという.

伊東さんはなにかにつかまることもなくパネルを指し示し,手ぶりを交えて解りやすく語ってくださった……アクティブサスペンションや車体傾斜システムの効果を,このような場面でも実感することができたのである.
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車輛を解体して発生した破砕片と,そこから成分を選別して精製したビレット,そして再び押出成型されて出来上がった荷物棚.

7月1日に予定されている営業運転開始時点では4編成が運用に充当され,今年度中には合計12編成が投入される予定である.さらに来年度と再来年度にはそれぞれ14編成の製造が計画されているという.なお性能確認車(J0編成)は今後も各種試験のために使われることになっている.
 N700Sの運用はN700Aと共通なので,1ヵ月前の座席指定券発売時点では選択することができない.けれども,運転開始初日を除いて…混雑防止のためというのが理由…,前日にはウェブサイト(ツイッター)などで運用状況を公開する構想があるという.

……と,取材しているうちに12時39分,定刻に新大阪着.10時12分に東京を発車してから,僅か2時間27分後のことである.これでも“最速”ではない.東京を6時に出発する“のぞみ1号”は2時間22分である.3時間10分で“早いっ!”と喜んでいたのは遠い昔のこととなった.

新大阪駅到着後はホーム上で新幹線鉄道事業本部副本部長である上野昌幸さんへのインタビューが行なわれた.各社から質問が相次いだが,僕が抱いていた素朴な疑問“700系はN700,N700A,N700Sと変化してきましたが,700という数字に思い入れというか,そのようなものをお持ちなのでしょうか”に対しては,ちょっと苦笑いしながら“初めからこうなると考えていたわけではないですけれど,少しずつ改良を重ねて進化してきたことを示しているわけで,今ではふさわしいものであると思ってます”という意味のお答えをくださった.なるほど,である.

既に紙数は大幅に超過している.最後の基本スペックを……編成定員1,323名(うちグリーン車200名).編成出力17,080kW,動力構成4輛ユニット2T(両先頭車)14M(全中間車),最高速度は東海道区間=285㎞/h,山陽区間=300㎞/h.起動加速度2.6km/h/s,という数字が公表されている.

さて,僕はいつ,営業列車に充当されているこの電車に乗ることができるのだろうか!

※2020.06.15:一部誤字脱字修正