時間は瞬く間に過ぎ去り,近鉄青山町の車庫でマルーン…ではなく漆メタリックに輝く“楽”こと20000系電車の写真を撮ってから1週間が経ってしまった.

その“楽”がデビューしたのは1990年のこと.こちらも,あっという間の30年だった.
 その頃,団体列車運用に特化した車輛は他の鉄道会社でも数多く制作されたが,“独創性”という点でこの電車に勝る存在は,ほとんどなかったように思う.
 黄色と白というユニークな出で立ちも特徴のひとつ.1978年の30000系以来の“VISTA CAR”ロゴマークも,ひときわ輝いていた.
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今年2月,“ひのとり”撮影取材のためのロケハンで遭遇した“楽”.僕にとっては,これがオリジナル仕様での最後の出逢いとなった.三本松-赤目口 2020-2-2

そして半年後の9月4日,青山町の車庫では一変した“楽”の姿に驚くことになる.
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新しい装いは“漆メタリック”.各車に描かれていた榊 莫山によるロゴは,新デザインに模様替えした.

車体各所には煌きを表現したアクセントが散りばめられているほか,大阪,京都,奈良,伊勢志摩,名古屋をイメージした伝統色を大胆にあしらって華やかさを演出している.
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2号車側面には大阪をイメージした灰桜色の青海波を描いている.側扉右脇には“楽”の新しいロゴマークが.側扉の窓は増設されている,

内装も大幅にリニューアルされた.
 最大の目玉は両先頭車に用意された“楽VISTAスポット”だろう.
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階段状に配置されていた腰掛を全部撤去してフリースペースとし,“楽VISTAスポット”と名付けたものである.正面も両側面も大型の窓ならではの眺望を満喫することができる.床に置かれたソファは両先頭車でデザインが異なる.写真は1号車.

先頭車の階下もフリースペースで,分割することが可能なスツールやクッションを置き,靴を脱いで寛ぐことができる空間とした.
 連結面寄りにはサロンスペースを設けている.この部分の側窓は床近くまで拡大された.
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名古屋・宇治山田方先頭車の階下フリースペース.運転室側からと出入口扉側の両方から出入りすることができる.

中間車の座席スペースはシートアレンジを変更し,各腰掛管にテーブルを新設してピッチを91cmから121cmへ大幅拡大した.両先頭車は98cmである.
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向い合わせにすれば,間にテーブルを挟んで団体旅行ならではの賑やかな旅となる,中間車の座席スペース.当面は両端を除いて一方向に固定して運用されることになっている.

このリニューアルした“楽”こと20000系電車,近鉄では9月19日から27日の各週末6日間に,大阪上本町と五十鈴川の間で1日1往復,ツアー方式での運転が企画した.“利用券”を購入すれば誰でも乗車することが可能であるが,ゆったり楽しむことと,
COVID-19への対応の一環として実際の定員164名に対して70名分の発売としたこともあり,残念ながら9月8日の発売日当日に,予定数が販売完了となってしまったようである.あとはキャンセルが出るのを待つことになるのか?

近いうちに誌上でも詳しい紹介記事を掲載の予定である.乞うご期待!

※2020.09.14:階下フリースペース写真説明一部修正