秩父鉄道沿線には何度も通っている.とれいん平成20/2008年10月号の本誌で特集を組んだ際はもちろんのこと,それ以前の平成18/2006年5月号では国鉄165系改め3000系と西武鉄道から譲り受けて急行電車用に改造した6000系を紹介している.12系客車は平成24/2012年6月号だった.元東急8090系の8500系は平成25/2013年6月号で紹介した.
 鉄道を離れ,釜山神社という山の上のお宮さんへの初詣や,秩父地域一帯でしか売っていないお酒を買い求めるための訪問も数知れない.
 ところが2020年に限っては,山の空気を味わいたいと思いつつもチャンスは巡ってこず,気づけば秋となった.
 今年は“SLパレオエクスプレス”の運転がない.C58 363が全般検査を受けているからである.その代わりに電気機関車が牽引していることも承知していた.“いちぶんのいち情報室”でお伝えしているとおり,このところ秩父鉄道の電気機関車がとてもカラフルになっているから,それらが12系客車を牽くシーンは,ぜひとも記録しておかねば…とも思ってはいた.
 それがつい先週,何気なく秩父鉄道のウェブサイトを眺めていたら,画面に“ELパレオエクスプレスの運転は9月27日まで”というお知らせがあった.
 気づいてしまったからには行かねばならぬ.ということで,天気図を睨み付けて決めた訪問日が,本当の最終日,9月27日であった.

秩父鉄道では全線乗り放題の“秩父路遊々フリーきっぷ”を発売している.羽生から三峰口まで片道と,あと少し乗れば“元が取れる”値段である.長瀞以西に限定すれば,もっと安い.そして西武鉄道沿線の住人のためには,西武の割引運賃とセットになった“秩父フリーきっぷ”も用意されている.僕が後者を握りしめていたのは,いうまでもないこと.

さて当日.お昼前に御花畑の駅に到着した僕は,どこで写そうかと三峰口方先頭車に陣取って沿線の下見.そうしたら武州中川の駅に到着時,構内が橙色の花で覆いつくされているのが見えた.それっと飛び降りたのだけれど,同じ思いだったのだろうか,何人かの同好の士も席を立った.
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橙色の花に包まれるようにして武州中川を通過する“ELパレオエクスプレス”.先頭は赤い506.2輛目はピンクだから504だろう.ゆっくりゆっくり走る列車を見送る駅員さんの姿が印象的だった.

さてこの橙色の花,形はコスモス(秋桜)に似ているのだけれど,こんな色のコスモス,僕は見た記憶がない.
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これがその花のクローズアップである.雰囲気に共通点は多いけれど,花びらの付き方が違うような気がするし,葉というか茎も異なっているんじゃないかと思う.

疑問の解明は帰宅後のこととして,ひとまず続行列車で三峰口へ向かうことにする.けれどやってくるまでには間がある.そこで少し駅の観察…….
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時の流れが止まったようなホームと上屋.画面左手は普通の貨物側線で,今でも木材がたくさん置かれているから,なんだか貨物扱いが続いているような雰囲気.右手にはかつて,石灰石の積み込み場があり,山懐までインクラインの線路が敷かれていた.

この石灰石運搬の線路は,昭和50年代のとれいん誌上で松井大和さんが記事にしてくださっている.最近では平成28/2016年3月号(通巻495号)で信沢あつしさんが“線路は続くよいつまでも”のテーマとして採り上げておられる.
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駅本屋も,少なくとも僕が記憶にある昭和50年代から,なにも変っていないように思える.秩父鉄道の,ほとんどの駅はこの武州中川と同じように,昔の面影を自然な形で保っている.少なくとも昼間は無人駅になっていないこともあって,趣味的にはとても好ましい状態といえる.

そして三峰口.
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“ELパレオエクスプレス”は,既に機回しを終えていた.今度は504が先頭に立つ.

以前から何種類かの異色機は存在していたものの,このところで急速にカラフルになったのは,今年の夏に開催されるはずだった東京オリンピックのためなのだそうである.
 そのオリンピックの聖火リレーコースにこの地域が含まれており,秩父と親鼻の間では客車で聖火を運ぼうという企画がたてられ,その牽引機として色を増やしたという.
 現在のバリエーションは,302が水色,502が黄色,504がピンクに白帯,505が緑色と白帯,506が赤色である.加えて201が黒にデッキ周辺警戒塗装となっているが,これは“SLパレオエクスプレス”をサポートするのにふさわしい色,ということのようである.
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広々とした転車台の周辺.昨年春まで“鉄道公園”として展示されていた機関車や電車や貨車たちは,きれいさっぱり消え去り,この夏に“SL転車台公園”として再整備されたから.秋には正式オープンの予定である.

復路の列車は武州日野の近くの鉄橋で撮った.その頃から空に雲が急速に増えたものだから,秩父駅の売店に立ち寄って長瀞の酒蔵で醸造された酒を仕入れ,御花畑から飯能行き直通列車に乗って帰路につくこととした.
 こうして久し振りの秩父行を終えたわけだが,家では宿題をこなさねば……と,調べてみたところ,よく知られているコスモスとは,出自は同じメキシコなど中米であり,同属ではあるものの別種であって,交配のできない関係にあるという.和名はキバナコスモスといい,その名の通り,もっと黄色い花をつける種もあるようだ.大正期に日本へ渡来しているらしいが,ではなぜ,これまで僕の印象Jに残っていないのだろうか.それがちょっと不思議.こちら方面も探究をはじめれば,奥の深い世界に誘い込まれそうである.