昨年の春,35年振りに台湾を訪問した.実り多い取材旅行だったが,成果発表の第一弾として,今月発売のとれいん9月号台湾鉄路管理局の,“普悠瑪”ことTEMU2000型電車をお目に掛けた.

この“普悠瑪”,豊川の日本車両で製造され,名古屋港まで甲種輸送されたことで日本国内のファンからも注目され,とれいんの“いちぶんのいち情報室”で採り上げたことがある.
 機構的な特徴は,台車の空気バネを利用した車体傾斜式を採用していること.接客設備ではユニバーサルデザインが大幅に拡充され,デザイン面でも前頭部のユニークな造形やこれまでに例のないカラーリングなど,話題が満載…….
 と,いう話は聞いていたものの,その現物はどうなのか……初めて遭遇したのは3月24日の夕刻,松山駅において,であった.

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松山駅から発車寸前のTEMU2000型“普悠瑪”.列車は花蓮行き.編成は奇しくも第1編成だった.それにしても,台北駅のひとつ東隣り松山駅.かつては 鉄道工場が隣接した巨大な地上駅だったのが,いまや台北市内地下区間の一部となって,ご覧のような駅に変貌した.地上には高層の商業ビルが建設されてい る.

車輛写真撮影はその翌朝,配置区である樹林(Shulin)で行なった.駅から遠いことは,前の日に車窓から確認できて いたので,駅前からタクシーに乗車.“機務段(Chiwutuan)へ”といえば,すぐに理解してもらうことができた…でも到着した入り口には“調車場 (Tiaochechang)”とある.ちょっと不安になったが,手配の窓口になっていただいた鉄路管理局の人の名刺を守衛さんに示したところ,しばしの ちに案内の人が来てくださり,邱 國松(Chiu Kuosung)段長(区長)を紹介された.名刺には“台北機務段”とある.これで判ったのが,ここは台北機務段の樹林調車場なのだということ.
 こちらが撮影したい項目……編成外観から各部分,そして真横写真まで……を事細かに説明したところ,すべてこころよく許可をいただくことができた.もちろん,客室や運転室の観察も含めて.

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本誌で使ったのとは別角度の編成写真.こちらもこの車輛の特徴はうまく引き出せたとは思うのだが,写真を選ぶ段になって,背後の架線柱が気になり,今回は不採用.

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この調車場は縦貫線の線路に沿っている.通過する列車にも興味津々なのだが,気を取られているわけには行かない.唯一,合間にスナップしたのがこの列 車.EMDのディーゼル機がGE製の電機に牽かれている.後尾は“ワフ”.別の日にも同じ時間帯で運転されていたから,定期的な回送列車だろうか.その日 はディーゼル機がR50型で,その後ろは“トキ”と“ヨ”.画面奥では“南樹林”駅の新設工事がたけなわ.2015年12月には開業予定とのことで,駅か らとても便利になる.

それから約1年.図面や参考資料の入手は困難を極めた,図面では,なんこうの手を大いに煩わせることになった.そして資料は,今回の企画に協力してくださった方から,日本鉄道車輌工業会の会報“車両技術”の掲載記事を教えられ,それを図書館で閲覧することができた.
  そのお蔭で,この電車について,これまでにない詳細な趣味的解説記事に仕上げることができた……本が出来上がってきて愕然.形式図に付した形式名が,なん と寸法線にかかってしまっている.なんてことだ…制作途上でのパソコンモニター画面で図面の範囲を見誤り,そしてプリントした際の確認が不充分だったこと によるものだった….加えて,“頁の綴じ目側一杯まで掲載した編成図が,もう1輛別の車輛があるのではないかと紛らわしい”というご指摘を,早々にいただ いてしまった.
 まさに“画龍点睛を欠く”.以後,さらに注意せねば,である.

機務段訪問の翌日には,これも車窓から目星をつけていたポイントで屋根上を撮影,さらに別の日には宜蘭線の山中へ,列車写真撮影に出向いた.
 そのたびに“惚れなおし”である.こんな魔力をもって僕に迫って来た電車,これまでに,なかった.
 次回は是非,乗客としてこの電車を味わってみたいと願っている.

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激しいスコールの合間,車体を大きく傾けて三貂嶺(Sandiaoling)のトンネルに飛び込む花蓮行き“普悠瑪”.基隆河に沿って走るこの辺り,“台湾 の武田尾”と呼ぶ日本のファンもあるほど,往年の福知山線渓谷風景と通ずるところが多い.けれど,後補機付の貨物列車もあったりして,“迫力度”はさらに 上かもしれない.廃線跡や線路付け替え跡もあるし…….

※ここでの固有名詞のローマ字表記は,台湾や香港などで一般的なウェード式によっている.