今回のレイルは,なにしろ伊香保電車.
 最後まで木造の2軸単車だけで運転されていたことで古い電車ファンには有名な存在だったのだけれ ど,その“最後”というのが昭和31/1956年.ほとんど60年前のことになる.明治20年代に開業した馬車軌道が改軌の上で電化されたのが明治43 /1910年のことだから,現役として走っていたのは50年に満たない.既に廃止されてからの時間の方が長くなっているのだ.

なぜ今,そんな伊香保電車がメインテーマになるのかといえば,それは今年2月6日付けのここで“甦った伊香保電車”というタイトルで,そして5月8日には“伊香保電車27号のお披露目”としてご紹介している通り,地元の医師である平形義人さんが長らく大切に保存してこられた27号電車の車体と,豊橋市内線301号の台車が合体し,伊香保温泉で保存展示されることになったから.

蒸気機関車の復元保存工事については,苦労話がいくつかのレポートされているが,電車の復元保存についての記録は,驚くほどに少ない.
  蒸気機関車のような圧力容器…ボイラー…はないが,とりわけ木造車ではデリケートな木工細工が欠かせないし,腐らないよう,長持ちさせるための工夫も必要 だ.ましてや今回は台車との合体や失われた部品の再生など,とにかく小さな電車1輛を復活させるためにも,こんなに手間が掛るのだということを,再認識し ていただきたいと思ったのが,大きなテーマとした理由なのである.筆者は,最初から最後まで深く関与された,東武博物館名誉館長の花上嘉成さん.この人以 外には,あり得ない.

花を添えてくださったのが,地元のベテランファンである田部井康修さん.レイル87号での碓氷峠に 続いてご協力をいただいた.驚いたのは,現役時代の写真を27号に限定した(カラー写真が必須の表紙と,保存場所を行く現役時代の伊香保電車の2点以外 は)にもかかわらず,10頁以上のグラフを,情緒溢れる写真で飾ってくださったこと.使い切れなかった写真も少なくない.

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のどかな渋川駅前風景.27号と31号が仲良く並ぶ.27号の車輪間にはマグネットブレーキが見えるが,31号には見当たらない.全車が最後まで装備していたわけではないのだろうか.側溝の蓋には碓氷峠のラックレールが.写真:田部井康修

一方で台車を提供してくれることになった豊橋鉄道301号の写真は,名古屋の堀 幸夫さんが提供してくださった.地元豊橋のベテランファンだった白井良和さん撮影の写真も編集部の所蔵品から見いだし,ご遺族の了解を得て掲載できたのも,とても嬉しいことだった.
 さらに幸運だったのは,米本義之さんが,名古屋市電時代のそのものズバリの140号を名古屋駅前で撮影しておられたこと.車体改造後ではあるものの,これで,ほぼ起承転結.

第2テーマは,河村かずふささんの長野原線と小海線撮影記.伊香保と同じ群馬県の鉄道ということで,時期を揃えたものですが,長野原線…吾妻線のダム工事に伴う新線切り替え期日が,編集作業中に決定,発表されたのだった.
 C58の牽く80系電車や,控え車としての戦災復旧車など,貴重な写真が満載.併せて切り替え区間の新旧線路図や,昭和35/1960年当時の列車ダイヤなどの資料も掲載している.

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ごく近い将来には水没する第二吾妻川橋梁を渡る貨物列車.定期貨物列車はC11の牽引だった.長野原には転車台があったが,渋川にはないのでバック運転が行なわれていた.写真:河村かずふさ

そ して第3のテーマは,レイルには久し振り…現在の体裁になってからは初めてかも…に登場の佐竹保雄さんによる,三陸鉄道南リアス線完全復旧の記.C58が 現役だった時代に通った山田線大槌付近の思い出とともに,現代の三陸鉄道とその周囲の人たちと佐竹さんご夫妻との繋がりを,数多くの美しい写真とともに 語ってくださった.佐竹さんご夫妻の間での趣味の楽しみ方も,初めて公開された.貴重な記録である.

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運転再開の喜びに溢れる南リアス線吉浜駅.入ってくるのは祝賀列車.佐竹さんご夫妻の,この鉄道とその周囲の人たちとのおつきあいが,画面に満ち溢れている.写真:佐竹保雄

外国の話題は,大石真裕さんから寄せられた,ドイツでの新たな動態復活機01の重連運転と,ボン近郊のリッゲンバッハ式登山電車ドラッヘンフェルス鉄道の訪問記.迫力一杯の写真とともにお楽しみいただきたい.