旅と宿は,切っても切れない深い縁がある.船会社や飛行機会社,もちろん鉄道会社が宿を経営することも,古今東西,例が多い.
 10年ほど前にロンドン市内のターミナル駅を巡ったおりにも,多くの駅の敷地に風格のあるホテルがあった.
 西ドイツでは第2次世界大戦後に“連邦鉄道ホテル(Bundesbahn Hotel)”として各地の中央駅に展開,1982年に“インターシティ・ホテル(InterCityHotel)”となり,1987年にはシュタイゲンベルガー・ホテルグループが大株主となって運営が委ねられ,現代に至っている.

なにしろ僕のような,写真撮影のために大荷物を抱えての旅では,宿は駅から近いに限る.少しぐらい安い宿があっても,荷物のためにタクシーを使ったりしたら,それだけで大出費.結果的に駅のそばの宿が,安上がりということになる.

日本で駅の上のホテルといえば,鉄道省直営として始まった東京ステーションホテルが代表的存在だが,僕にとっては,筑豊の蒸機撮影時に何度か利用した小倉ステーションホテルが馴染み深い.当時の国鉄がどのぐらい関与していたのかは判らないが,とにかくステーションビルの上にあって,便利さは一番だった.

JR各社は発足後,それぞれの路線でホテル事業を展開しはじめたが,ユニークだと思ったのがJR九州
 なんの取材の時だっただろうか,オープンして間もない頃の“ホテル ブラッサム福岡”に泊まろうとして驚かされた.
  なにしろ,チェックインカウンターがテーブルで,客もスタッフも椅子に腰掛けるというスタイル.そういうの,僕は初めての体験だった.お洒落というか, ちょっと気恥ずかしいというか.他の印象も好ましかったので再訪したいと思いつつ,その後は博多に泊まることがなくて果せていない….

と……ここまでは,実はイントロダクション.

本題は,そのJR九州のホテルが東京,それも新宿に進出するという案内を,JR九州ホテルズからいただいたこと.
  僕たちの仕事内容では,鉄道会社からの案内は,鉄道そのもの,それも車輛が中心となる.今回のような案内は珍しい.その珍しさと,“ホテル ブラッサム福 岡”のことが強く印象に残っていたものだから,今度はどのように独自性が発揮されているだろうか,という興味から出掛けてみた.以下はその印象記.

MT-20140807-01
ホテルの玄関とは思えないデザインのメインエントランス.新宿駅の南側,甲州街道(国道20号線)からさらに南に1本入った道に面している.実はこのホテル のすぐ隣りのビルには,カメラレンタルの事務所があって,以前からお馴染みではあった.南南東へ200メートルほど歩けば,そちらにはJR東日本の本社が ある.

MT-20140807-02
別府の竹細工や薩摩切子や八代のイグサ……,インテリアの随所にも,九州ならではの素材や品物を見ることができる.写真はロビー壁面に埋め込まれた飫肥杉. 南九州以外に住む人で,“飫肥”を“おび”とすぐに読むことができるのは,鉄道好きか,木造船や木造建築に造詣の深い人だけかもしれない

MT-20140807-03
最上階の16階とその下の15階にだけ1部屋ずつのプレミアムツインルーム.西北の角にあり,すぐ近くには新宿中央公園の緑が,天気がよければ遠くに秩父か ら上州,下野の山を望むことができる.バスルームはそんな景色や夜景を楽しむことができるガラス張り.ウォークインクローゼットも備えて広さは38平方 メートル

MT-20140807-04
シングルルームも,部屋面積18平方メートルの広さ.ベッドはセミダブルサイズ.バスルームの壁面はユニットバスのプラスチックそのままではなく化粧張りが施されていて,居心地がよい.残念ながら,今流行の“トレインビュー”は難しいが.

MT-20140807-05
1階のロビー横にはレストランとして“赤坂うまや 新宿”というお店がある.JR九州の直営店で,九州ならではの素材をふんだんに使ったメニューがセールス ポイント.こちらはホテルに併設ということで朝昼夜とも営業.さらに10時から18時の間は喫茶だけでもOK.写真は,ずらりと並んだ朝食用の品々.カウ ンター上のかごに入っているのは,筑豊本線沿線の内野にある直営農場から出荷される新鮮な卵.

という“ホテル ブラッサム新宿”は,あした,8月8日にオープンする.僕自身がここに泊まるチャンスはなかなかないだろうが,“うまや”は,東京にいながらにして,九州に思いを馳せることができる場所になるかもしれない.“ボンタンアメ”の味とあわせて.