レイルもいよいよ90を数えることになった.
 今回は,巻頭から約6割がC11.ちょうど1年前のC12に 続いて正村修身さんが纏められた,形態観察.C11という機関車は,C12よりもさらに身近な機関車だったにもかかわらず,これまで体系的な形態観察がほ とんどなされてこなかった.あまりにも“当たり前の存在”であったことに加え,ごく一部を除いて華やかな活躍がなく,やや地味な存在だったこともあるのだ ろうか.
 さらには,長い期間にわたって多くの数が製造されただけあり,誕生から終焉までの全てを追うことはなかなか難しい.そこで今回は“製造時の”に限っての観察となった.
 しかし,それでも,いただいた原稿を拝見すると,これまで気づかれてこなかったポイントが数え切れないほどに挙げられていて,改めてC11という機関車のバリエーションを認識させられることになった.レイルNo.86に引き続いて,その観察力とご苦労には本当に頭が下がる.
  さてそんなC11.僕にとっても子供のころから身近な機関車ではあった.なれそめ,阪神間に住んでいた中学生時代のこと.当時,福知山線の旅客列車の多く は気動車かDF50の牽引が主体だったけれど,朝の篠山口発と夕刻の篠山口行きがC57,そして一部の篠山口折り返しがC11の担当で残っていて,尼崎と 大阪の間ではC11とモハ51やモハ54などと競走が演じられることもあったのである.今もって悔しいのは,そのシーンをカメラに収めることができなかっ たことである.
 その数年後には,片町線の貨物列車という存在に気づくことになる.放出にあるツカサ模型に通うようになったから.当時,毎日2往 復が設定されていて,今はなき片町駅まで奈良のC11が姿を見せていたのである.このC11は,昭和47/1972年まで活躍が続き,しばしば撮影に出掛 けたものである.当時既に“SLブーム”ではあったが,沿線に同志の姿を見かけることは,ほとんどなかった.

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放出駅を発車する,C11 315牽引の奈良行き貨物列車.ツカサ模型とは駅を挟んで対角線状の踏切から撮影.連なる貨車はワム90000にワラ1(ワム60000?)が主体でワム 80000は1輛だけ.しんがりはヨ6000.今では駅も周辺の情景も一変してしまっている.昭和47/1972年2月5日

C11 といえば,子供のころに憧れたのがトビー模型店の製品.端正な2次形を丹念に作り上げた佳品だったが,ついに手にすることができなかった.その製品に付属 のナンバープレートは,C11 36だったと記憶している.形式なしの戦後仕様のプレートであり,製品も戦後の姿だったわけだが,その機関車の製造時の姿も,今回,川崎車輌の写真を掲載 することができた.

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新造時のC1136.キャブ下端と側水槽下端のラインが一直線に揃っているのがなんとなくスマートに感じられて,今でも好きである.所蔵:編集部

1 次形と2次形のC11に見られる特徴は,ボイラーに沿って取り付けられた円筒形の部品.これが給水温め器であることは鉄道模型趣味誌誌上での解説によって 知っていたが,その方式である“重見式”を,“じゅうけんしき”と読むのか“しげみしき”と読むのか,長い間の疑問だった.考案者の人名で“しげみしき” が正解だと知るのは,しばらく後のことである.

今回は,いつになく自分自身の写真をたくさん使ってしまった.いわゆる“手前味噌”である. しかしそれらの中で,正村さんの本文中に含ませていただいたC11 247は,日立製作所製の補強付き輪心を持つC11の現役時代の姿,しかも動輪が保存されている機関車ということで,ちょっと価値があるのではないかと 思っている次第.

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ただ1輛残っていたC10を見たくてはるばる訪問した宮古.幸いにしてC10が働く姿は存分に堪能できたし,組立暗箱での撮影にも成功した.そこで当日は火 が入っていなかったC11も撮影することになったのは,僕がお願いしたのか,それとも“せっかくだから写していかんか”といわれたのか,記憶は定かでな い.けれど,C10でわざわざ引っ張り出してくださったものであることは,写真を見ればよく判っていただけることだろう.昭和47/1972年8月28日

河村かずふささんの広島電鉄は,昭和37/1962年の8月5日(原爆記念日の前日!)の,約半日のスナップである.しかし,その短い時間の間に,実に効率よく代表的な車輛を記録しておられるのには,脱帽するしかない.
 同時に捉えられた国鉄の車輛たちも,個性溢れるものばかり.とりわけ,EF61と153系電車の間に組み込まれた控え車オヤ35のカラー写真はきわめて少ないもののようである.しかも,密連を取り付けた側の妻が観察できる.必見!といえよう.

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広電の中ではちょっと重い感じの400形を広島駅近くで撮影.今このあたりは,線路の付け替えプランの策定中.どのように変化するのだろうか.写真:河村かずふさ

今回の外国は,大石真裕さんによる,ヴィーン近郊のシュトラースホフと南ドイツのノイエンマルクト・ヴィルスベルクにある蒸気機関車博物館.かの地での蒸気機関車保存の一典型を味わっていただければ幸い.