かねて“いちぶんのいち情報室”でお伝えしている通り,東武鉄道の野田線用新型車60000系電車が日立製作所笠戸工場で落成し,先週の金曜日に野田線の車輛基地がある七光台(ななこうだい)で報道関係者に披露された.
  野田線の電車といえば,僕のもっとも古い記憶は,3200系や5400系の車体更新車3000系の時代.昭和50年代半ばだろうか.当時の七光台は,ただ 車庫があるだけで周辺は一面に雑木林が広がる,鄙びた風情だった.その後,7800系更新の5000系式で大型化され,一時的に日比谷線乗り入れ用だった 2000系を改造した車輛も入線したが,いずれもあまり縁がなく,時折,大宮や柏の駅を通過する際に車窓から眺めるのみだった.
 現在の主役である8000系に統一されたのがいつごろだったか,記憶は定かでないが,10年ほど前のことだろうか.
 いずれにしても“新造車”が野田線にはいることはなかった.だから,今回の60000系構想が発表された時には,東武が好きな人でも多くが驚いたようだ.

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柏方から見た60000系の第1編成.LED式の前照燈が目新しい.色遣いもあいまって,これまでの50000系一族とは印象が大きく異なるが,中身もいろいろ変化しているようである.南栗橋車両管区七光台支所 平成25/2013-5-10

さ てその60000系.基本は50000系に始まる日立製作所の“A-Train”シリーズである.だから,FSW接合によって得られる滑らかな仕上がりの アルミ合金車体や側窓,側扉など側面の造作は50000系と共通点が多い.しかし前面は,非常扉が片側に寄せられていて,というのは同じながらも後退角を 与えられ,前照燈や尾燈のケースはスマートなデザインとなり,加えて正面窓下がブルーに彩られていることによって,印象が大きく変っている.側面も色彩に 関しては5000系とは全く異なっていて,幕板部に青の帯が入り,各側扉の両脇に若草色の縦帯を入れているので,50000系とは大きく異なっている.
 ちなみにこの青は東武グループのテーマカラー“フューチャーブルー”であり,若草色は“ブライトグリーン”と名付けられている.
  編成は8000形と同じ6輛.柏方から大宮・船橋方に向かって61000形(Tc1)+62000形(M1)+63000形(M2)+64000形 (T1)+65000形(M3)+66000形(Tc2)の3M3T.62000形と65000形の大宮・船橋方にパンタグラフを装備している.
 最高速度は120km/h,主制御装置はIGBT素子を使ったインバータ方式,補助電源装置もIGBT素子のSIV.ブレーキは全電気指令式.

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貫通扉が全面ガラスとなって見通しがよくなった客室.車椅子スペースが増え,優先席の掴み棒に黄色のコーティングが施されているのも目新しい.貫通扉には沿線各市の花や花木をデザインしてアクセントとしている.

客 室に目を移せば,やはり50000系とは同じようで違う.車椅子スペースが増えたこと,優先席のつかみ棒に黄色のコーティングが施されたことなどに気づか されるが,もっとも大きな変化は,照明がLED化されたことだろうか.全面ガラス張りになった貫通扉も目新しい.その扉には,各車ごとにアクセントとして 野田線沿線8市の花や花木がデザインされている.
 客室では,東武鉄道としては初めて無線LANを利用することができる.対象はauとWi2のユーザー.後者はパソコンもアクセス可能.
 定員は先頭車が133名,中間車が146名.編成合計で850名となっている.

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その一例.61000形の貫通扉には,さいたま市の市花であるさくらとその周りを舞う蝶があしらわれている.

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運転室.T型ワンハンドルマスコン・ブレーキレバーは野田線の電車では初登場.液晶画面にメーター類を映し出すグラスコクピットは野田線の車輛では初採用.

運転室は50000系と同じ,しかし野田線では初めてのT型ワンハンドルマスコン・ブレーキレバーが目に入る.50000系と異なっているのは,計器類が,いわゆるグラスコクピット化され,2面の液晶に速度計や電圧計が表示されるようになったこと.
 非常扉は,前面に与えられた後退角に関する寸法が異なるだけで,構造的には50000系と同じである.

その他,詳しく観察してみれば,50000系とは異なる点に次々と気づかされる60000系.営業運転開始は6月中旬の予定とのこと.だとすれば,そろそろ,乗務員訓練のための,昼間の試運転が本格化しそうである.

※2013.05.16:形式修正
※2013.05.17:グラスコクピットに関する記述を修正(30000系の東上線転属車で既に採用されているので“東武初”ではない).
※2013.05.21:ガラス貫通路の説明修正.