旧新橋停車場での企画展は,毎回,すぐに展観したいテーマばかりなのだけれど,練馬から新橋までの道程は遠く(!),気づいたときには会期終了……ということも少なくない.
  昨年12月11日から始まった“成田へ―江戸の旅・近代の旅”も,子供のころには“成田山といえば京阪沿線の香里園にあるもの”と思いこんでいた僕にとっ ては,興味ぶかい,しかし知らないことが多そうな展示会になりそうで,すぐにでも行きたかったのだけれど,ようやく訪問できた次第.

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旧新橋停車場に併設されているビアダイニング.いつの日にか,ここで明治の昔をしのびながらビールと料理に舌鼓を打ちたいと思っているのだが,この日も営業時間外の訪問だった.

いつもの階段をあがりつつ壁面を見れば,小さなウィンドウの中に,“成田への風景”の数々が.
 そして入り口の扉が開くとそこには大きな埴輪と奈良時代の古い屋根瓦.“成田には長い歴史があるんだよ”と語りかけてくれる.
 展示室の壁面は反時計回りでその歴史を辿る.“成田への道”の根源である成田山新勝寺の歴史も,もちろん細かく綴られていて,歌舞伎の市川宗家の屋号が“成田屋”である理由が,初代團十郎の新勝寺への信仰によるものであることなども,ここで知ることができる.

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入り口から見た展示室のほぼ全景.“成田”と埴輪との結びつきは,多くの人にとって以外であるに違いない.

そして近代.日本鉄道,成田鉄道,総武鉄道,そして京成電車といった固有名詞がたくさん出てくるようになって,ここの読者のみなさんは,なんとなく安心するに違いない.
 千葉駅が二つ存在する,不思議な鉄道路線図や,初詣客を誘致するために成田鉄道が作製した“汽車賃大割引”のチラシ,“あの時代”を今に伝えてくれる昭和20/1945年9月に作成された駅長お手製の列車時刻表…….

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京成電車の存在は,成田への道にとって,ある意味,国鉄より重要かもしれない.レイルやとれいんでおなじみの大庭幸雄さんや長谷川明さんも写真で協力.

こ れらの資料展示は,鉄道博物館の所蔵品が多いのは当然として,各方面からの協力によっておおいに充実した内容となった.戦後の京成電車の写真では大庭幸雄 さんや長谷川明さんが協力しておられるし,古い絵葉書では,地元の趣味人でもある白土貞夫さんのコレクションがたくさん.
 鉄道そのものだけではなく,鉄道を取り巻く,さまざまな“モノ”にもスポットライトをあてている.その一つが駅弁の貴重な掛け紙.焼物の醤油差しも展示されており,それは,思わず“欲しい”と叫びたくなる可愛らしさだった.

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焼物の醤油差し.千葉駅万葉軒の駅弁に添えられていたものといい,昭和40年代にも存在していたという.僕はその存在を,初めて知った.

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鉄道博物館からは,1/15のC58の展示模型と,初代N'EXこと253系の展示模型も参加していた.とりわけC58は,実物の新造時の姿を今に伝える貴重な模型である.

ほんとうにここの企画展は,いつもいつも,どのテーマでも,初めて知ることが多くて,どうしても鉄道中心となりがちな“知識”の領域を,限りなく拡げてくれる.それは今回も同じであった.
 会期は3月17日(日)まで.入場無料.“ついでを作って”でも出掛ける価値のある,間違いなくお薦めの企画展である.


※展示室内は撮影禁止です.ここに掲載した写真は前もって許可をいただいて撮影したものです.

旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」
〒105-0021 東京都港区東新橋1-5-3
電話 03-3572-1872
開館時間 11:00~18:00
    (入館は閉館の15分前まで)
休館日 毎週月曜日(ただし祝祭日の場合は開館し翌日休館)と2月23日(土)