先週は山崎祐也さんの写真展をご紹介したが,今回は雑司が谷での写真展.雑司が谷……といえば,もしや?と思われる方も少なくないだろう.多分想像されたとおり,三愚舎ぎゃらりーでの“鐵樂者展”.金澤 忠,蔵重信隆,杉 行夫,野口信夫さんの4人展で,昨年は台湾の鉄道をテーマにした“台湾鉄路局蒸気機関車写真展”だった.
今年は“ナローテンダー機の走る鉄路”と銘打って,あした8月19日から9月4日まで開催される.そこで,設営に大童のさなか,このブログのためにお邪魔してきた次第.
うかがうのがちょっと早すぎたようで,会場内はまだ写真の掲示が完了していなかったけれど,おおよその雰囲気はつかむことができた.
会場前の通り.“三愚舎ぎゃらりー”はいずこに……クリーニング屋さんの向こう側がそうである.
レイル79号では,ほんのわずかな点数ながら“誌上展”として作品を紹介しているから,お持ちの方は併せてご覧いただければ幸い.
台湾,中国大陸,朝鮮半島に点在したナローのテンダー機を追った記録写真は,生の力で見るものに迫ってくる.中には近年のデジタル処理ならではのお遊びも含
まれているが.どこにその遊びが秘められているのか,探してみるのも一興.写真は現役時代の台湾台東線.画面下方に見えるのは,1970年代の台東線の乗
車券の数々.
1960年代から1970年代にかけて,日本国内ではいわゆる“SLブーム”がたけなわだったが,その動きを横
目に,あるいは背を向けて外国を訪問し,鉄道情景を記録した人たちの数は多くない.外国旅行が不自由だったという時代背景もあるが,なにより,まだ日本国
内には多くの機関車が健在だったから.
それでもなお外国へ旅立った人たちは“日本にないもの”を求めて止まなかった.ある人は多気筒機のサウン
ドを,また別の人は大直径動輪から得られる速度を.そのほか,さまざまな機関車が世界中に棲息していたのである.もちろん,それらを取り巻く人々や風景
は,絶対に日本では得られないものだったわけである.
今回はそんな中から,ナローながら炭水車を持った機関車たちをテーマに選んでの写真展というわけである.機関車も,それを撮影した人たちも各者各様.そんなコンビネーションを楽しむことができる.
朝鮮鉄道向けミカドの組立図と,杉さんが纏められた,大正から昭和にかけて“大陸”がいかに日本国内の機関車メーカーの経営に影響を与えていたかを示す表など.
鉄道趣味の楽しみは写真だけではない.撮影してから何十年も経って,初めて知る時代背景というものもある.廃線となった路線の現状を求めての“今と昔”もあれば,各種資料を引っ張り出しての考察もある.この写真展が,単なる写真展で終わらないのはその点である.