我々鉄道模型界では既に普及著しいLED照明だが,ようやく“いちぶんのいち”の世界にも本格的な進出が始まった.
 ドイツあたりでは,随分前にLEDライトを装着した電気機関車の写真を見たことがある.日本でも,JR東日本の試験電車“MUE-Train”の中の1輛にLED室内燈試験車がある.小田急では室内燈の一部としてロマンスカーに採用している.
  LED照明の特徴は,消費電流が小さいことや,白熱球に比べると耐久性があるなどが挙げられる.一方では,光源を直接見ると目が痛いとか,発熱量が少ない ためレンズ面に付着した雪や氷が融けなくて困るとか,総寿命は長くても経年で光量が落ちてくるというような欠点もあって,一時は標識燈類にLEDを採用し ながら,増備車で白熱球に戻した鉄道会社もあった.
 それがこの12月から,西日本では阪急電鉄が新造の神戸線9000系9002編成の室内燈をLED化,17日から営業運用に就役させた.東日本ではJR東日本が,山手線のE231系500番代のうちの1編成(550編成)をLED室内燈に改造して,この18日から営業運転を開始した.
 JR東日本では20日にその編成を報道公開したので,その時の写真をお目に掛けよう.
  実は室内照明って,写真ではなかなか難しい.フィルムのころには,ポジフィルムだと蛍光燈照明は緑色に被ってしまうので,色温度の強度が高いネガカラーを 使おう,とか印刷段階で色補正を掛けるという対策が必要だった.デジタルカメラになって,その問題は大幅に解消したけれど,今回の取材では,カメラが自動 的に色補正してしまったら,違いが解らないじゃないか……と.どうしたらいいのか,悩みながら現場である品川電車区…ではなく山手電車区…でもなくて東京 総合車両センターに向かったのだった.

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地下留置線に用意されたE231-500系の550編成.昼間の取材だから太陽光の影響が……という悩みはこのセッティングのお陰で解消した.

この550編成には,二種類の燈具が使われていて,1~6号車は燈具そのものを専用品に交換したタイプ.7~11号車は従来の燈具を活用し,蛍光燈のような管状に仕上げたLED照明装置を装着したタイプ.なお1号車は,東京駅において品川方の車輛である.
 興味深かったのは,専用の燈具を使うタイプ.カバーを開くと……,なんと.基板に多数の四角いLEDチップが並んでいて,模型メーカーが製品化しているLED室内燈パネルそのものではないか.開発はグループ会社の東日本トランスポーテック
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専用燈具を使うタイプのカバーを外したところ.たくさんのLEDチップが並んでいるのが判るだろうか

室内全景の撮影は,いろいろ工夫して,例えばホワイトバランスを,オートのほかに晴天や曇天,白熱球や蛍光燈などに切り替えてみた.その後にモニターと実際の光景を見比べてみたのだけれど,なんだか,結局,オートでの撮影が一番現実に近いような気がする.

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従来の燈具を活用したタイプの客室全景.今回のLED照明の開発にはJR東日本のグループ会社である東日本トランスポーテックが大いに関与していて,管形燈具にはそのロゴが印されていた.トランスポーテックブランドというわけである.

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模型では,表から見たときの色が気になるところ.それを比べてみるには……と思って,車外からこの550編成と,折りしも隣りにいた501編成のドアガラス を通して比較してみたのだが…….左がLED化された550編成7号車.右が蛍光燈のままの501編成7号車.内装の経年変化もあるだろうが,このぐらい には違ってみえる

色にせよ形にせよ,模型が実物を先取りして……ということが少なくない昨今だが,室内照明でも,ようやく現実が模型に追いついてきたようである.今後を注目したい.

※2010.12.23:小田急が室内燈の一部として既に採用していることの補足と,decoさんからご指摘の,1号車の向きの訂正をいたしました.