石川光陽(いしかわこうよう)という名前に,聞き覚えのある方は,ここの読者にどのぐらいおられるだろうか.
 知られているのは,第2次世界大戦中の東京で,空襲による被害状況を写真で記録した人としてだろうか.
 本職は警察官.けれど写真に関しても素人ではない.福井県生まれながら東京九段の写真館で修行した経歴を持つという.警察入りしたのも,その写真術を見込まれてのこと.交番勤務は1日のみで,あとは写真撮影が仕事だったという.
 撮影した写真の点数は,平時の東京風景の方が多いはずだが,世に知られるのは“空襲カメラマン”としてであり,これまで,空襲被害以外の写真を目にするチャンスは多くなかった.
 ところが,用事があって東日本鉄道文化財団をお邪魔したおり,壁に貼られたポスターに“石川光陽”の文字と,東京駅駅前の東京市電の写真を見つけてしまったのだった.“あれ?”と思って尋ねてみたところ,本来は東京駅ステーションギャラリーでの展覧会だが,現在は休館中なので,12月7日から旧新橋停車場の鉄道歴史展示室を使って開催されるのだという.

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東京駅の駅前広場に佇む東京市電.4桁のうち1と5の数字を読み取ることができる.昭和10/1935年ごろの情景だという.

昭和初期の東京の情景をスナップした写真家は他にも何人かいて,例えば師岡宏次さんは,自動車にも興味をもって東京の町を撮影した.その一端は二玄社から“オールドカーのある風景”と題した写真集に収録されている.
 電車に興味をもってスナップし続けたのは,我々にも馴染みぶかい杵屋栄二さん.市電や省電や各私鉄と人々の生活をからめた写真は,第一級の記録といえよう.

今回の石川光陽さんは,そのふたりの,どちらとも異なるカメラアイを持っていたはずであり,どのような光景を見ることができるのか,大いに興味をそそられる.

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昭和10/1935年ごろの上野駅改札前.画面中央柱の向こう,遠くにみえる機影はC51だろうか,それとも?

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道一杯に咲き乱れる桜の下を行く東京市電.やはり昭和10/1935年の,三番町あたりの風景だという.

今 開催中の“日光道中”とは違い,企画にはまったく関与していないので,全部で80点が展示されるという写真の中に,汽車や電車がとのぐらい含まれているの か,全く知らない.けれども,3つのセクションのうちの第1章のタイトルが“交通と乗物”だというのだから,期待していいのではないだろうか.今からオー プンが楽しみである.

期待といえば,“日光道中”展は,11月21日のフィナーレを迎えるに際して,なんだかサプライズが用意されているそうである.既に観覧した人も多いだろうが,この週末,見納めしておくのも,悪くなさそうである.

※このブログに掲載した写真は,企画展紹介を目的として東日本鉄道文化財団の了解を得ています.東日本鉄道文化財団に無断での複写転載などは固く禁じられています.ご注意ください.