レイル75号は,春の74号とその前の73号は“京阪ロマンスカー史”,そして72号71号は,湯口 徹さんの“私鉄紀行 黒潮と小さな汽車の通い道”だったから,通常の形態での発刊は,昨年秋の70号以来9ヵ月ぶりということになる.

今回は巻頭グラフに,国鉄日光線の電化前後を採り上げてみた.今思えば,この頃が日光線がもっとも輝いていた時期といえよう.国鉄では電化前に準急“日光”を気動車化し,東武の5700系や1700系,1710系に対抗した.
 さらに東北本線の宇都宮電化に合わせて日光線も電化することを決定し,157系という,準急用ながらも特急電車の系列名を持つ車輛を開発し,東京駅と新宿駅の両方から日光へと観光客を運んだのだった.掲載した本島三良さんと黒岩保美さんの写真から,当時の空気を感じ取っていただければ幸い.
 日光への旅の歴史を語ってくださったのは,東日本鉄道文化財団の学芸員である河野真理子さん.折りしも8月 3日から旧新橋停車場では,企画展“日光道中”が開催される.川野さんはこの企画展の主任担当者である.ぜひとも足を運んでいただきたい.

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杉並木の脇を行く準急“日光”.かつて鉄道ピクトリアルに発表された,黒岩さんの名作のうちの1枚.157形は本島さんの撮影になるカラー写真を表紙に掲載している.

2番目は,西田川炭坑の歴史とそこに働いた機関車たち.田川と石炭というキーワードから頭に浮かぶのは筑豊だが,実はこれは山形県庄内地方のお話.2輛のB6と1輛の汽車会社製1B1,そして1輛のナスミス・ウィルソンの1B1が登場する.話が少し込み入っているのだが,じっくりとお読みいただければ,今は忘れ去れた東北地方日本海沿岸の炭田について理解していただけることだろう.

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隅野成一さんが撮影しておられた,田川炭坑のナスミス・ウィルソン.もと東武鉄道14号機(二代目).全景と珍しい三角形の銘板は,本文をご覧いただきたい.

3番目は河村かずふささんの“淀橋電車”.旧西武鉄道が建設し,東京都に買収されて地下鉄丸ノ内線の延長開業とともに姿を消した,新宿と荻窪を結んでいた路面電車の,昭和20年代の物語である.
 電車そのものや昭和20年代から30年代前半にかけての東京郊外の風景にも大いに興味をそそられるが,モデラーである筆者ならではの観察の結果として,トロリーポールのオフセットの話が新鮮.目から鱗が落ちる読者も多いことだろう.

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荻窪に停車中の木造2000形.ダブルポールは車体の左右に均等割りで取り付けられているが,張られている架線は,1本が線路中心線上,もう1本が偏倚しているのが判る.

そして“テルハ 補遺”.“テルハ”という器械についての,恐らくは日本で初めての解説が,レイル70号において,佐藤博紀さんにより試みられたわけだが,その後に集まった写真や貴重な図面,補足調査によって明らかになった新事実などを収録した.前回と同様,結果として,昭和30年代から40年代の全国の国鉄駅と車輛の風景を併せてご覧いただくことにもなる.

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直方駅のテルハ.停車中の列車を牽くのは梅小路で保存中のD50 135.今回の補遺では気仙沼駅など支線区にもテルハが存在したことが明らかになっている.この写真の撮影者は筆者である佐藤博紀さん.