ある一定以上の年代の蒸気機関車ファンならば,“糸魚川のドコービル”あるいは“活白ドコー”という言葉を,一度や二度ならず,再三,耳にされたことだろう.
その正体は,その頃,北陸本線糸魚川駅の西北あたりにあった東洋活性白土という工場と糸魚川駅を結んでいた専用鉄道(蒸機の時代No.95で同線の模様を紹介)に在籍していた,謎の機関車のことである.現役としては昭和30年ごろに福島の協三工業で製造されたBタンク機が働いていたのだが,機関庫の中に大切に,しかしひっそりと保管されていたのが,件の“ドコービル”である.
このドコービル機は,時折,同好の士の要望に応えて引き出されるだけだったから,青空の下で観察できた人の数は限られた.
昭和53/1983年に同社が解散してから,協三工業製の機関車は糸魚川市に寄贈,現在は糸魚川駅構内の“糸魚川ジオステーション ジオパル”という施設内で保存展示されている.
一方ドコービルの行方はといえば……というのが,このレイルNo,129での物語の始まりである.
以来幾歳月.2023年12月16日,永年に及んだ復元作業の努力が実り,ドコービルは大勢の人たちの前で元気よく走った.建設初期の東洋活性白土専用鉄道以来のことだから,何年振りになるのか……もしかしたら,この機関車が一般の人たちの前で走るのは,初めてのことなのかもしれない.
場所は千葉県成田市の“成田ゆめ牧場”.
復元作業に汗を流したのは羅須地人鉄道協会の熱心なメンバーたち.
この日の模様は,珍しくレイルの予告ともなった,昨年12月28日付のここで,ほんの少しだけだけれど,ご紹介した.
12月16日の模様を1月下旬発売のレイルに掲載するというのは,レイルにとっては,まったく異例のスピードである.しかも年末年始を挟んでの工程は,とてつもない急回転だった.僕自身が忙しいのはさておき,無事に出来上がったのは,デザイン,DTP,印刷,製本と,大勢の人たちのご協力の賜物以外の何物でもない.
平成12/2000年7月8日,ゆめ牧場の機関庫で始まった,動態復元のための解体作業.ここからほぼ四半世紀の歳月を要したことになるが,“動態保存に完成という言葉はない”のだから,これからも歴史が刻まれることになる.写真:羅須地人鉄道協会(相場二郎)
その復元の記録を執筆してくださったのはメンバーの一員である高橋卓郎さん.機関車のパートごとに,実にこまめな記録を披露してくださった.
糸魚川のドコービルがいつどのようにして趣味界に知られるようになったのか,などのエピソード紹介に際しては,これまた各方面の皆さんからの絶大なご協力を得ることができた.これは,ひとえに高橋さんの熱意とお人柄によるものである.それら写真や図版を発見して,“懐かしい!”とひとごちてくださった読者も多いことだろう.
そして,宮田寛之さんからは,日本における“ドコービル系機関車と東洋活性白土1号機”という趣味的論文をいただいた.
本家フランスから来着した機関車から,日本国内の各メーカーで製造されて人知れず土木工事に従事していた“ドコービル系”機関車たちに至るまでの系譜を纏めた論というのは,これまでになかったのではなかろうか.
また,宮田さんの膨大なコレクションから選り抜かれた,健気に働く彼女たちの記録写真は,まさに圧巻のひとこと.ぜひともレイルを実際に手に取って,その迫力を感じていただきたいと思う.
糸魚川時代に倉地光男さんが実測された図と,正村修身さんが作成された,今回の復元に際しての実測図を並べて掲載することができたのも,宮田さんと高橋さんのおかげである.
と,いうことで,本文ページの約8割が,この機関車の話題となったレイルNo.129である.
令和5/2023年12月16日午前8時30分.ポートレート撮影のために車庫前ホームを通過するドコービル.ホームのベンチに腰掛けて見守るのは,この活動の立役者の一人でもある,杉 行夫さん.写真:前里 孝
そして締めくくりの14頁では,藤田吾郎さんが西武鉄道多摩川線で走った客車たちの写真と図面を披露してくださった.No.125“保存された鉄道院400形機関車”の補遺でもあるのだが,いわゆるマッチ箱級の客車たちの写真や形式図が,これほどまとまった形で発表されることも,数少ないこと.“珠玉の”という形容がそのまま当てはまる趣味的研究の一例であり,客車ファンには見逃していただきたくない一篇である.
西武鉄道多摩川線で使われ,同社4号機に牽かれた客車たちの中から,ハフ1(左)と二代目ハ2(右).この写真は昭和10年代撮影のようだが,第2次世界大戦後までこのような客車が多摩川線には走っていたのである.写真:鈴木靖人
この一文を書いているまさに今日,次のNo.130の構成と校正に目途が立った.
内容は,とれいん4月号の予告広告で既にお知らせしているが,第一テーマは,ヒギンズさんの私鉄写真,第二テーマは“お城と鉄道”.そして第三テーマが新資料が盛り沢山の暖房車補遺.4月下旬の発売を,ご期待ください.
その正体は,その頃,北陸本線糸魚川駅の西北あたりにあった東洋活性白土という工場と糸魚川駅を結んでいた専用鉄道(蒸機の時代No.95で同線の模様を紹介)に在籍していた,謎の機関車のことである.現役としては昭和30年ごろに福島の協三工業で製造されたBタンク機が働いていたのだが,機関庫の中に大切に,しかしひっそりと保管されていたのが,件の“ドコービル”である.
このドコービル機は,時折,同好の士の要望に応えて引き出されるだけだったから,青空の下で観察できた人の数は限られた.
昭和53/1983年に同社が解散してから,協三工業製の機関車は糸魚川市に寄贈,現在は糸魚川駅構内の“糸魚川ジオステーション ジオパル”という施設内で保存展示されている.
一方ドコービルの行方はといえば……というのが,このレイルNo,129での物語の始まりである.
以来幾歳月.2023年12月16日,永年に及んだ復元作業の努力が実り,ドコービルは大勢の人たちの前で元気よく走った.建設初期の東洋活性白土専用鉄道以来のことだから,何年振りになるのか……もしかしたら,この機関車が一般の人たちの前で走るのは,初めてのことなのかもしれない.
場所は千葉県成田市の“成田ゆめ牧場”.
復元作業に汗を流したのは羅須地人鉄道協会の熱心なメンバーたち.
この日の模様は,珍しくレイルの予告ともなった,昨年12月28日付のここで,ほんの少しだけだけれど,ご紹介した.
12月16日の模様を1月下旬発売のレイルに掲載するというのは,レイルにとっては,まったく異例のスピードである.しかも年末年始を挟んでの工程は,とてつもない急回転だった.僕自身が忙しいのはさておき,無事に出来上がったのは,デザイン,DTP,印刷,製本と,大勢の人たちのご協力の賜物以外の何物でもない.
平成12/2000年7月8日,ゆめ牧場の機関庫で始まった,動態復元のための解体作業.ここからほぼ四半世紀の歳月を要したことになるが,“動態保存に完成という言葉はない”のだから,これからも歴史が刻まれることになる.写真:羅須地人鉄道協会(相場二郎)
その復元の記録を執筆してくださったのはメンバーの一員である高橋卓郎さん.機関車のパートごとに,実にこまめな記録を披露してくださった.
糸魚川のドコービルがいつどのようにして趣味界に知られるようになったのか,などのエピソード紹介に際しては,これまた各方面の皆さんからの絶大なご協力を得ることができた.これは,ひとえに高橋さんの熱意とお人柄によるものである.それら写真や図版を発見して,“懐かしい!”とひとごちてくださった読者も多いことだろう.
そして,宮田寛之さんからは,日本における“ドコービル系機関車と東洋活性白土1号機”という趣味的論文をいただいた.
本家フランスから来着した機関車から,日本国内の各メーカーで製造されて人知れず土木工事に従事していた“ドコービル系”機関車たちに至るまでの系譜を纏めた論というのは,これまでになかったのではなかろうか.
また,宮田さんの膨大なコレクションから選り抜かれた,健気に働く彼女たちの記録写真は,まさに圧巻のひとこと.ぜひともレイルを実際に手に取って,その迫力を感じていただきたいと思う.
糸魚川時代に倉地光男さんが実測された図と,正村修身さんが作成された,今回の復元に際しての実測図を並べて掲載することができたのも,宮田さんと高橋さんのおかげである.
と,いうことで,本文ページの約8割が,この機関車の話題となったレイルNo.129である.
令和5/2023年12月16日午前8時30分.ポートレート撮影のために車庫前ホームを通過するドコービル.ホームのベンチに腰掛けて見守るのは,この活動の立役者の一人でもある,杉 行夫さん.写真:前里 孝
そして締めくくりの14頁では,藤田吾郎さんが西武鉄道多摩川線で走った客車たちの写真と図面を披露してくださった.No.125“保存された鉄道院400形機関車”の補遺でもあるのだが,いわゆるマッチ箱級の客車たちの写真や形式図が,これほどまとまった形で発表されることも,数少ないこと.“珠玉の”という形容がそのまま当てはまる趣味的研究の一例であり,客車ファンには見逃していただきたくない一篇である.
西武鉄道多摩川線で使われ,同社4号機に牽かれた客車たちの中から,ハフ1(左)と二代目ハ2(右).この写真は昭和10年代撮影のようだが,第2次世界大戦後までこのような客車が多摩川線には走っていたのである.写真:鈴木靖人
この一文を書いているまさに今日,次のNo.130の構成と校正に目途が立った.
内容は,とれいん4月号の予告広告で既にお知らせしているが,第一テーマは,ヒギンズさんの私鉄写真,第二テーマは“お城と鉄道”.そして第三テーマが新資料が盛り沢山の暖房車補遺.4月下旬の発売を,ご期待ください.
※2024.03.22:冒頭写真の撮影日付と撮影者名訂正
※2024.03.23:現役時代の東洋活性白土専用鉄道を掲載した蒸機の時代No.95を追記