関東鉄道といえばかつては常磐線の取手,佐貫,土浦,石岡の各駅から路線が出ていたものだが,今では取手からの常総線と佐貫からの竜ヶ崎線のふたつだけになって,いささか寂しくなってしまった.
 けれど,両路線ともに地元の人々の気軽な足として欠かせない存在であり,とりわけ常総線の取手と水海道との間は,純粋の私鉄としては極めて珍しい(日本唯一?)の非電化複線区間であり,昼間時間帯でも10分に1本という都会地の電車も顔負けの頻発ぶり.
 車輛への投資も積極的で,とりわけ平成5/1993年の2100形から2000,2200,2300,2400形と展開されたシリーズは,新潟鐵工所(現在の新潟トランシス)の標準設計をベースにしながら,随所にオリジナル仕様を取り込んで,なかなか興味深い車輛群である.とれいん誌でも平成10/1998年1月号で,地方鉄道気動車今昔特集の一環として,MODELERS FILEとしてまとめたことがあるから,ご記憶の方も多いだろう.
 この2000系列はその後5000形へと移行し,今回,久し振りの新型車として5010形が登場することになった.5100ではなく5010というところが,いかにも微妙であり,どこが新しくなったのかと興味津々,ご案内のままに,久し振りの水海道訪問となった次第.
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営業運転開始記念のヘッドマークを取り付け,出区して行く5000形と並んだ5010形.同じようにみえるが,車体塗色だけではなく,実は各所に違いがある.モデラーの目ならば,きっとすぐに気づかれることだろう.平成29/2017-2-25


変更の主題は,エンジンにある.今回,床下に釣られているのはコマツ製のSA6D125-HE2形.定格出力は350PS.
 台車はボルスタレス式のNF01HDとNF01HT.前者が下館方で動力台車,後者が取手方で付随台車で,これは5000形と同じ.
 しかし一般の目には,なにより車体塗色の変更がもっとも気になるところ.今回の色は“関鉄ホワイト”を車体上半分に配し,下半分には鬼怒川と小貝川の青,その間に,大地に波打つ稲穂をイメージした黄金色のラインを足洗っている.両端扉の脇には筑波山うをイメージしたマークがついている.
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室内はロングシート.照明はLED.24V電源の気動車だけに,燈具の選定には制約が大きく,客室端部の20W型は新開発の製品だという.一般部腰掛の表地は青から赤に変更.一風変わった形の吊り手は,どこで見たのかと記憶をたぐってみたら,静岡鉄道のA3000形と同形であった


24V電源といえば,前照燈が旧来のシールドビームであるというのも,それに起因している.電車で一般的な100Vタイプが使えないのだという.
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運転室.マスコンは横軸,ブレーキは縦軸の2ハンドル式.機器配置類を含め,5000形と変わるところはない.


今回の新造は,元国鉄キハ35系を置き替えるのが目的.
 取材当日,7年ぶりの訪問となった水海道の車両基地を見渡しても,かつて大勢力を誇っていたキハ35系の姿は1輛の廃車体が見えるだけで,あとはみんな2100形以降の新車ばかり.今や昭和52/1977年製のキハ310系と,昭和57/1982年製のキハ0形が最古参となってしまったようである.
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取材当日は,5010形デビュー記念イベントの開催日でもあった.その来場者を出迎えるための臨時列車に仕立てられたキハ001と002のユニット.


常総線といえば,かつて貨物列車牽引用として機関車が在籍し,貨物輸送廃止後も工事列車牽引は新造車搬入のためにDD502という日本車輌製のセミセンターキャブのディーゼル機関車を保有し続けている.今では新車搬入も気動車牽引となり,もう出番はないのだけれど,歴史的車輛として大切にされているのを,確かめることができた.
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角が丸いキャブが独特の表情を醸し出している.車籍はあるものの,実際には軸受などのメタル整備が困難で,本線に出る機会は失われて久しい.


かつては日本系金属蒲原に同形機があり,それは西濃鉄道に譲渡されたものの早くに廃車.同系機としては関東鉄道鉾田線にDD901という名前で凸型機が存在したけれど,これもまた解体されているから,この丸いキャブは,今や貴重な存在なのである.末長く保存していただければと思う.

ということで,ほんの数刻ではあったが,気分的には久し振りに車庫訪問を“楽しんだ”週末となった.