僕にとってのライブスチームの記憶といえば,今や遠い昔ともいえる程に時間が経った,昭和40年代の始めのころまで遡る.
 鉄道模型趣味誌誌上に,米国から大阪の松下電産(ほかのグループ会社かもしれない)にお勤めの米国人が作ったという7インチ半だったかの機関車が発表されたのだった.この機関車と作者には,何年か後に弁天町の交通科学館で邂逅を果たすことになる.
 もうひとつは,やはり鉄道模型誌誌上の広告で見た,スエチカライブの機関車.45mmゲージのC62である.
 でも,その頃の僕は16番モデルに夢中になっていたし,そもそもお金も場所も,残念ながら問題外の存在でしかなかった.
 それから幾歳月.自分て初めてライブスチームの機関車を工作することになったのは昭和59/1984年のこと.小川精機のクラウスを組み立てることになった時である.
 とれいんに記事を連載するため,すなわち仕事である.とはいえ,種々の仕事が重なり合っている平日の昼間に,機関車を組み立てているヒマなどあるわけがない.勢い,夜間や週末の作業となる.そこで編み出した(?)のが,“やぐらゴタツの上でライブスチームを組む”だった.受け狙いでも何でもなく,単に実用上の問題からの行動であったわけだが,それをそのまま記事にしたら,とてもウケがよくて,そのお蔭かどうか,連載途中でクラウスは品切れ状態となってしまったと,後になって聞かされたことである.

それからさらに幾歳月.縁あって,ライブスチームの取材は,社の中で専ら僕の担当となったわけである.
 そういうことで(どういうこと?),こないだの日曜日,6月4日に,千葉の蘇我駅にほど近い,“ハーバーシティ蘇我”敷地内にある“花の駅そが”での,蘇我ミニトレインクラブによる月例ミニSL運転会で,新製品の披露運転を行なうという連絡を小川精機の北田さんからいただいて,駆けつけたのだった.

製品は,いわゆる木曽のボールドウィン.製品名にはどこにも木曽という固有名詞は出てこない,あくまでも“BALDWIN B1タンク機”である.だから置戸でもどこでもよいわけだけれど,独特の火の粉止め付き煙突や国鉄標準タイプをそのまま使った前照燈など,木曽赤沢の森林鉄道記念館で保存されている1号機そのもの.

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久し振りに訪問した“フェニックスレイアウト”は,丁寧なメンテナンスのもと,多くの来訪者があり,外周エンドレスを使った乗車会では列が切れることはなかった.

お披露目運転はクラブメンバーのための内周エンドレスで行なわれることになっていたのだが,その前に…このレイアウトは京葉線の電車から眺めることができる…しかもその線路は敷地の北側.順光線での撮影では,京葉線の高架橋が背景に入ってしまうわけで,どうしよう…と選んだのが,敷地中央部の築山を背景にするしかない.ということは,朝の早い時間帯がベスト.ということで,開場前の30分間をポートレート撮影のために割いていただいたのだった.
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ハイ,ポーズ! 背景の樹木や草木の緑が濃すぎると黒い機関車が融け込んでしまうし….というところで選んだ場所がここ.右後方には京葉線の架線柱が,左後方にフィットネスクラブの建物が写り込んではいるけれど,まぁこのぐらいアウトフォーカスになっていれば不自然さはない.それにしてもまだ9時なのに,コンクリートは早くも初夏の日差しに熱せられていて,そこに寝そべっての撮影は,ちょっとつらかった.
DSCN2653のコピー
いつもながら,極めて丁寧な設計と工作によるパーツの数々は,惚れ惚れしてしまう仕上がり.自作派のファンには物足りないかもしれないが,工作も楽しみたいがなにより走らせたいというライブスチーマーには小川精機の製品は最適.

そして午後の走行タイム.朝のうちは少し残っていた雲は完全に消え去って,ただただ暑い.暑いのはよいのだけれど,煙が出ない.煙が出なくてはスチール写真では走っているのかどうか,わからない.となれば,勢い“流し撮り”に走ることになる.けれど16番や0番ほどではないにしても,実物よりはるかに小さな機関車をうまく流し止めるのには,いささかの腕のほかに,たくさんの幸運を必要とする.ましてや極小の動輪のロッドの動きを追って…….
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ということで,写し止めたうちの1枚が,これ.

そうそう,この日は“ボールドウィンがやってくる!”というので,メンバーの 吉岡 潔さんは5インチゲージの酒井ワークスディーゼル機を,岸田 弘さんは45㎜ゲージのボールドウィンを持参して,“小川精機製ボールドウィン”の披露に花が添えられた.
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小川精機のボールドウィン(左)を出迎えた45㎜ゲージのボールドウィン(中),そして酒井の10トン機.

好天に恵まれた一日,じっくりと触れた小川精機の新製品.詳しくは今月発売の,とれいん誌上でご覧いただければ幸いである.

ハーバーシティ蘇我「花の駅そが」
主催:蘇我ミニトレインクラブ
住所:千葉市中央区川崎町51-1
会場:花の駅そが
料金:無料
日時:毎月第1日曜日 (1 7 8 11月は休み) 10時から12時,13時から15時