京浜急行電鉄の1000形といえば,昭和30年代から連綿と作り続けられた,赤に白帯の名車……であるのには違いないのだけれど,現代の京急1000形は窓廻りが白のアルミ合金製でシーメンスのインバータを採用して……というのもちょっと前までの常識であって,最新の1000形はステンレス鋼製で一部に赤のラッピングを施し……だと思っていたら,昨年から登場したグループは,ステンレス鋼製ながらもほぼ全面ラッピングされている.
 と,気がついてみたら最初の1000形は既に本線上に姿はなく,新しい1000形も気がつけばステンレス鋼製車輛のほうが数が多くなった.
 なるほど,歳月の経つのは早いものだと独りごちていたら,9月に入って間もない頃,“新1000形1次車(1001号編成)更新車発表会ご取材のご案内”という知らせをいただいた.
 改めて歴史を繙いてみれば,その1次車がデビューしたのは平成14/2002年のこと.本誌では初代1000形と合わせて平成15/2003年9月号で詳細をご紹介した.その後の増備車もその折々の“いちぶんのいち情報室”の他,平成19/2007年5月号では“MODELERS FILE 京浜急行電鉄 新1000形 六次車 ステンレス色になった京急電車”をお届けした.さらに平成25/2013年6,7月号では6輛編成を“MODELERS FILE FRAGMENT 京浜急行電鉄 新1000形”としてまとめるなど,逐一,その発展ぶりをお伝えしてきた.ということで,アルミ合金製がデビューしてから,今年で15年を経過したことになる.
 だからまぁ,大規模更新が行なわれても不思議はないわけだ.

ということで久里浜の京急ファインテック久里浜事業所へ出向いたのが9月17日の朝8時.折りしも接近中の台風18号に伴う雨と風による中止や延期を心配したけれど,無事に開催.拭っても拭ってもレンズに“まとわりつく”雨粒と戯れながらの撮影となった.
Q7A_7020
外観でまず目に入るのは,正面非常扉の横にマスコットキャラクター“けいきゅん”が貼られたこと.前照燈と尾燈,急行燈がLED化されたこと.各連結面寄り側窓が一段下降式の開閉可能窓になったこと,そして先頭車の最初の側扉とい2番目の側扉の間の側窓が二段化されて上半分が下降式で開閉可能となったこと.

LEDはいずれもコイト電工製で,側面幕板部の表示装置や戸閉表示燈,非常表示燈も併せて取り替え.前照燈は最近採用例が増えている花形タイプ.室内燈も同じコイト電工の直管タイプに交換された.

前照燈は,他と同じ花形タイプだが,色は黄味が強いタイプとされていて,在来のシールドビーム球との違いを少なくしているのが特徴.
Q7A_6898
全ての車輛の連結面寄り側窓は一段下降式で開閉可能となった.他の窓に比べてガラス取り付け面が外板から引っ込んでいることが判るだろう.写真は付随車1003.
DSCN4029
床下で最も大きな変化は主制御装置の交換.シーメンス製から三菱電機製のMAP-194-15V296になった.

詳しい機器構成などは現時点では明らかにされていないが,主電動機も交換されている.
 編成は更新前と同じく,浦賀方から品川に向けて
1001(Muc)+1002(Tpu)+1003(Tu)+1004(Mu)+1005(Ms)+1006(Ts)+1007(Tps)+1008(Msc).
Q7A_6911
客室の見通し.天井や内張り,床材をすべて新品に交換している.腰掛では袖仕切りを最新新造車と同様に大型化,腰掛中間の握り棒を曲線形状に変更した.室内燈は直管タイプのLED燈に取り替え.側扉上の車内案内装置を液晶に変更.

目立たないところでは側扉上に開閉表示燈を新設し,そして側扉そのものを交換して戸先の黄色帯を張りつ景色から印刷に変更している.貫通扉もステンレス製新1000形と同じ傾斜式戸閉装置付きに取り替えている.
Q7A_6967
両先頭車の車椅子スペースに非常梯子収納箱を新設した.二段式開閉可能側窓の様子も判る.

接客設備ではこのほか,排気扇と排気扇インバータ装置を撤去している.
 運転室に目を移せば,表示燈や計器燈をLED化,遮光板を下降式の遮光幕に変更している.
Q7A_6975
運転室.見た目はあまり変化していないが,空調操作箱を浦賀方の乗務員室にも設け,非常ブレーキ操作時の自動放送装置の新設などが実施された.窓ガラスの結露と雨粒の様子から,この日の天候を察していただけることだろう.写真全部 京急ファインテック久里浜事業所 平成29/2017-9-17 前里 孝

ということで,見た目以上に大きく変化した新1000形更新車.なによりも,いわゆる“ドレミファ・インバータ”でなくなったのが一般にも判りやすい変化だろう.
 この第1編成は,既に今週はじめから営業運転に投入されている.これからも更新担当の京急ファインテックの手によって,一定のペースで更新工事が進むだろうから,お目に掛かるチャンスも増えて行くことだろう.“ドレミファ・インバータ”が減少するのは淋しいことではあるが.