もう9月も末となった.週が明ければ10月!ことしもあと3ヵ月である.7月に上梓したレイルNo.103の紹介もできないうちに,No.104の印刷所入稿になってしまった.まったく時間の経つのが早すぎて…….

4月発売のNo.102では,東急電鉄…正しくは横浜高速鉄道…のこどもの国線という路線を軸に組み立てることになった.それに対して,今回のNo.103では,我が国最初の連節車である京阪電鉄の60型“びわこ”という,車輛を主軸にした切り取りとなった.
 寄せてくださったのは大阪は守口車庫のそばがご出身という中山嘉彦さん.もう1年以上も前にお問い合わせをいただいて以来の大作が,ようやく纏まったということになる.
 それにしても驚いたのが,豊富な参考文献.よくもまぁ,これだけの本を,しかも外国語の書物を読破されたものだと,本当に感心するしかない熱意である.
 編集部では,“びわこ”が活躍中の,“ナマ”の姿.西尾克三郎さんが守口と四宮で撮影された鮮明な形式写真は,写真集“電車の肖像上巻”で目にされている読者も少なからずおられるかとは思うが,この電車にとっては欠かすことのできない姿として収録した.
 その西尾さんの写真で“謎”なのが,台車単体の写真.西尾さんの台帳では昭和7/1932年に守口での撮影ということになっているのだけれど,その時点ではまだ“びわこ”は完成していない.西尾さんの次の守口訪問は昭和24/1949年なのだが,そうすると,背後に移っている500型がカウキャッチャーを取り付けているのが符合しない.ということで,撮影年が不明なのである.すごく大胆な想像をするなら,昭和7/1932年に台車だけ先行して開発されていて……ということになるのだが.
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いろいろ周囲の“風景”から推して昭和10/1935年頃の撮影と想像している,“びわこ”用連節台車の写真.守口車庫 写真:西尾克三郎

西尾さんがご健在ならば,ぜひ,確かめてみたいところなのだけれど,もう30年以上も,おそかりし,である.

戦後の写真で,“いつかは!”と温めていたのが,三宅恒雄さんの撮影による複々線区間を疾走する63.
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暑い夏の日の午後,天満橋の駅を覗いてみたら,“びわこ”が停車していたことに気づいて,大慌てで複々線区間へ出て撮影したというのが,この写真だという.この次のカットでは,600型とすれ違うシーンも展開されている.昭和32/1957年8月のことである.写真:三宅恒雄

それにしても,よくぞ,カメラを携えておられたものと思う.それも,ライカ判ではなく,セミ版である.鉄道趣味人の鑑といえよう.
 そして,“びわこ”がお客様を乗せて大阪市内まで顔を出したのは,おそらくはこの頃が最後だったと思う.京津線の80型を四宮まで牽引するために,昭和39/1964年の片町(今の天満橋と京橋との間)に停車中の写真は,レイルNo.74“京阪ロマンスカー史(下)”に収録しているが.

さて,中山さんの稿のハイライトは,これまでの“びわこ”開発の端緒が米国のインターバン車輛だったという定説を覆していること.詳しくは,ぜひともレイルをお買い求めの上で,じっくりとお読みいただきたいと思う.

今回の二番目の稿は,電車としては初めての,国重要文化財に指定された(9月15日付けで正式に官報で告示),鉄道院ナデ6141と東京地下鉄道1001号電車.その意義を,小野田滋さんに解説していただいた.
 今まで,知っているとばかり思っていたこの2輛の電車も,改めて調べてみると,判らないことがいくつも出てくる.とりわけナデ6141は,東京地下鉄道1001号が日本車輌による美しい車体組立図が存在するのに対して,窓寸法も入っていない国鉄形式図が残されているに過ぎなかった.
 今回の指定に際して現物が実測され,付属資料としてその結果を反映した図面が添付されているとのことで,特に文化庁のご協力を得て誌面に紹介できたから,モデラーには喜んでいただけるものと思う.
 その図面を眺めていてもっとも大きな疑問だったのは車輪径.公称864mmに対して実測813mmというのは,あまりにも小さい.
 そこで,実際に鉄道博物館で観察してみて驚いたのが,次の写真.
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“松葉スポーク”だったのである.客貨車用としては数多く使われているのを見ているが,はたして電車にも使われていたのだろうか.恐らくは新品時838mmの車輪のタイヤが減って813mmというのなら,納得できそう.真相はいかに?

続くのは,新澤仁志さんの“9900・D50にまつわる謎 補遺”.今回のご調査で,D50の動輪軸バネが下バネから上バネに変更された区切りの番号が,ほぼ確定できたと,思う.一方では,新たな謎の提議もある.まったく愉しみの種は尽きないものである.

最後は,第6回目となった“公式写真に見る国鉄客車”.今回はちょっと地味なところで,鋼体化客車.地味ではあるけれど,戦後復興の輸送を支えた立役者でもあるこの系列から,三等車,合造車,荷物車をご紹介している.

というところで,最初に記した通り,次のNo.104が,既に印刷行程へと進んでいるところ.メインテーマは京王電車の初代5000系の活躍とその現在の姿の対比…….とれいんで新5000系をいち早くご紹介したのに連動したともいえるが,実際にはほぼ偶然の結果でもある.写真に加えて図面や資料もたっぷり.10月下旬の発売を楽しみにしていただきたいと思う.