既にあちこちで折りに触れてお話している通り,歴代の小田急ロマンスカーの中で,1980年末に落成,営業運転を開始したLSEこと7000形は,僕にとって忘れがたい思い入れ深い車輛である.
 なにしろ現車落成前に製作図面のご提供をいただいて詳細外観図面を作製した最初の車輛であり,また,新車パンフレットに僕が描いた図面を使っていただいたのも,この7000形が最初のことだった.というより,パンフレット用への提供が,図面をいただく条件だったのである.
 パンフレット用の図面は,本誌掲載用とは別に仕上げたバージョンを提出したものである.今ではCADによって,図面のアレンジや複製は至極簡単なことだけれど,同時はそんなもの影も形もなくて,大きなトレーシングペーパーを製図板に張りつけてドイツ製の製図用ペン“ロットリング”で描く…さすがにもう烏口ではなかった…のだから,2枚同じものを2枚描くのは,ほんとうに手間が掛かったものである.
 そのパンフレットはおかげさまで好評を得たようで,つい最近にいたるまで,何度も復刻された.お持ちの方は,ちょっと印刷された図面を見てやっていただけると,嬉しい.

そして待ちに待った現車の落成は,EF58に牽かれた甲種輸送列車を小田原まで出迎えに行った.小田急線内で使う無蓋緩急車トフの入換作業の一部が手押しによっていたのが,今でも強く印象に残っている.

そしてお披露目は早朝の海老名検車区で行なわれた.もちろん4×5インチサイズの組立暗箱を抱えての参加だった.天候にも恵まれて,各社スタッフがそれぞれ撮影にいそしんでいた中で,J社のMさんが完全に腹這いになって撮影したのが忘れられない.“バックの電柱を隠すんです”と.以来,この撮影姿勢を,僕も各所で真似をすることになる.

あれから38年.気がつけば,長命と思っていたNSEこと3100形を凌ぐ長命特急車となったLSEだが,今年春には70000形GSEの第1編成がデビューして第3編成が廃車解体,7月には2編成目のGSEが落成して,ついに最後まで残った第4編成も定期運用から退いた.
 ちなみに第1編成は2012年に,第2編成は2010年に廃車解体されている.

この間,LSEの身の上にはさまざまなできごとがあった.1996年からはリニューアル工事が実施された.3号車には車椅子対応座席を設けて側扉を拡幅している.同時に車体色をHiSEと同色に変更した.
 2005年頃からはパンタグラフをシングルアームに取り替えている.
 そして2007年,小田急開業80周年とSE車登場50周年記念として第4編成の車体塗色をオリジナルに戻した.
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7000形を初めてデジタルカメラで撮影したのがこの時.オリジナル塗装へ塗り戻された第4編成である.この塗装は期間限定だったはずだが,実際には第3編成にもほどこされることになり,さらには,最後までこの塗装で過ごすことになったのである.唐木田車庫 2007-6-27

この,塗装塗り戻しのころから引退までの10年間が,ある意味で小田急ロマンスカーが,もっとも賑やかな時代だったといえるかもしれない.なにしろ7000形,10000形,30000形,50000形,60000形と5形式が展開されたのだから.これは小田急ロマンスカー史上,前代未聞のことである.
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MSEこと60000形デビューの年の“小田急ファミリー鉄道展”でのLSE.NSEもSEも一緒にいるけれど,どちらも引退車輛である.海老名検車区 2008-10-20
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今年春,海老名で勢揃いした小田急ロマンスカー.EXEαも加わって,これを別形式と数えるなら6種類ということになる.2018-3-10 提供:小田急電鉄

こうして時は流れ,7月10日には定期運用から退いた.その後は惜別の特別列車が何度も運転されたが,それも10月13日の列車で終了した.
 10月20,21日の両日には海老名で開催された“小田急ファミリー鉄道展2018”で最後のお披露目が行なわれることになった.なんとか行かねばと思っていたら,小田急電鉄から“鉄道趣味出版社向けに撮影取材の場を設けますよ”と,ありがたいお誘いが.万難を排してうかがったのはいうまでもない.
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特別取材では“スーパーはこね”の幕を表示しての撮影となった.展望室にカーテンがないとか,細かいことをいえばきりはない.ここまでオリジナルの面影を残したまま38年間も優等列車に充当された電車は,ほとんど例がないだろう.海老名検車区 2018-10-19
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そして迎えた鉄道展初日.秋の日差しの中,多くの来訪者が,“さがみ”を表示したLSEに別れを惜しんでいたという.2018-10-20 写真:山賀一俊

この第4編成は,一部の中間車を抜いた状態で,建設中の“ロマンスカーミュージアム”で保存展示されることになっている.
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小田急海老名駅西口に隣接する,ロマンスカーミュージアム建設予定地.次にLSEと会うことができるのは,2021年春!