先週のここで,レイルNo.113をご紹介した.その中で,昨年10月に刊行したレイルNo.112についてのご案内が抜けていたことを記した.
 まったく迂闊なことで,とっくにご紹介したと思いこんでいたのである.思いこみは,怖い.申し訳ありませんでした.

さてそのレイルNo.112.トップは国鉄交直流電車の顔.“こだま形”と呼ばれることが多い,そのスタイルだが,交直流電車ならではの制約から,ボンネットから運転室にかけてのブロックと,客室部のブロックの接合部(?)に,少し捻じれを見ることができるのだ.これに気づかされたのは,中学生のころ,恐らくはTMS(鉄道模型趣味誌)の誌面だったと思う.471系に始まる…関西人にとっては…交直両用電車は,パンタグラフ周辺の屋根が低くなっていること,そしてその理由が高圧電流に対応するための背の高い概史や高圧機器を搭載する必要によるものであることは,大阪駅などでちょっと眺めただけで,子供にもすぐ理解できた.では特急形では低くする必要がないばかりか,高くなっているのは,“なんでやねん”である.
 正解は,今,ここをお読みの皆さんならば既にご存じのことだろう.床下に変圧器などのかさばる機器を取り付けなければならないから…である.
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クハ481-17(レイルでの説明ではクハ487-17となっているが,もちろん謬りである)運転室側窓の後方,屋根に差し掛かる部分が少しくびれているのが判るだろう.151系ではすらっとした柔らかいラインで結ばれている.このあたりが,151系と481系とでファンの好みが別れるところである.写真は,交直流電車であることを示すためボンネットに赤いヒゲが加えられ,スカートは60ヘルツ用であることの証しとして赤ベースにクリーム帯となった頃の姿.京都 昭和43/1968年9月29日.写真:福田静二

さてこの“こだま形”は,寝台特急電車581系で高運転台貫通タイプへと発展する.電化区間の延伸とともに柔軟な分割併合運転を目指したものだというが,実際には活用されることなく,けれども481系…その頃には485系に進化していた…にもそのまま採用されることとなった.
 そして変らず実用されないままに,非貫通へと変化する.
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その最終形ともいえるのが,北海道向けとして開発された1500番代だった.運転室屋根上の前照燈が2燈に強化されたのが特徴.顔の部分は非貫通の300番代とほぼ同形.郡山 昭和56/1981年6月6日 写真:早川昭文

貫通扉がないのにドアレールが残っているのは,点検用梯子掛けということだが,趣味的には,ほどよいアクセントであり,表情を引き締めるのに効果的なアクセサリーだったと思う.ATCを装備した高運転台の103系が,前面窓下にステンレス帯をあしらっていたのと同様に.あちらは本当の装飾であったようだが.

高運転台クハ481とクハネ581,クハネ583の変化については,ふちい萬麗さんが思い入れたっぷりの稿をくださった…というより,この稿が,今回のテーマ決定の基となった.

あれほど全国各地を駆け巡った481…485系も,寝台特急電車581・583系も原形の車輛は現役を退いて久しい.481系登場から半世紀以上,581系も半世紀近くを経過した今,形式図や特徴的な前面の詳細図とともに,その活躍を振り返っていただければ幸いである.

二番目は,昨年,新たに国重要文化財となった鉄道省ホジ6014に関する,小野田滋さんの解説.地味な存在ではあるが,我が国の鉄道車輛製造史に欠かせない蒸気動車の構造と,重要文化財指定の意義について,しっかりと理解していただけるものと思う.
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リニア・鉄道館で保存されている現在のホジ6014.特異な構造だけに,日本では普及しなかったが,諸外国の実例を参考にしつつ,よく国産化したものと思う.写真:小野田滋

三番目は,国鉄城東線…現在の大阪環状線の駅名標譚.高見彰彦さんが駅名標研究にのめり込む端緒となった寺田町駅の駅名標に,読者の森本 寿さんが新たな“証拠写真”を寄せてくださった.そこで高見さんが“振り出し”に戻り,城東線について再度の探究を試み,さらに城東線のほかの駅にも話題を拡げたのが,今回の稿である.
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玉造駅の改修中に撤去されてしまった動輪マーク.城東線高架化に際して描かれた(取り付けられた)ものだろうに.令和元/2019年8月2日 写真:高見彰彦

そして締めくくりを飾るのが,荒井友光さんの作品集.戦時下に撮影された名古屋市電である.車輛にしても市街地の情景にしても,よくぞ記録されたものと,ただただ感心してしまう写真ばかりである.ここではそれらの中から,親子電車の走行風景を,ご紹介しよう.
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円上付近を走る“親子電車”.昭和19/1944年に古い4輪単車を電装解除して大型ボギー車に牽引させ,輸送力増強をはかったものである.昭和19/1944年の撮影である.これを基調といわずして,なにが貴重だろうか.写真:荒井友光

ということで,もうNo.114は完成間近で今月20日過ぎには店頭に並びはじめるし,今年の国重要文化財も京都の,いわゆるN電が答申された今ごろになって…….本当に,申し訳ありませんでした.この一文を読んで,興味を持たれた方は,お近くの書店や模型店,あるいはネットショップ e-shumi.jp に,ぜひご注文を!

※2020.04.05:大阪環状線駅名訂正および一部表現追加