身近な西武電車の変化などを夢中になって追いかけているうちに,気がつけば2021年も7月下旬に差し掛かっていた.
 そしてレイルはEF65 500番代を第1テーマにしたNo.119が発売となっていた.
 いつもなら発売されてから2ヵ月程度で企画の裏話などをお話しているのだけれど…….丸々,ひと月遅れである.申し訳ありません.

さてそのレイルNo.118だが,最初のテーマは新澤仁志さんのご研究による,国鉄蒸気機関車の運転室における換気環境改善の工夫.
 九州地区ではタンク機関車の背面炭庫に四角いラッパ状の穴が開けられていたのをご記憶の方が多いだろう.
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水郡線常陸大子駅前に保存展示されているC12 187.最終配置は九州と縁もゆかりもない高崎だけれど(高崎は半年程在籍しただけで,実質的には水戸での入換と小運転が最後の活躍場所だった).だけど,ラッパ状の開口部が,その出自を物語っている.
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側水槽の番号板と日本車輌の製造銘板,そして換算標.銘板と換算標が妙に平面的であるのが,ちょっと気にかかった.2019-10-28

しかし本題はそうではなくて.主に山岳路線で使われたD51に装備された換気装置の痕跡探しである.年齢的に,国鉄蒸機の現役時代と縁のなかった新澤さんは,各地に保存されている機関車に残された装置,あるいは撤去された跡を丹念に調査することによって,先人の,血のにじむような努力の歴史を辿られた.
 現存しているのは,長野工場で取り付けられた,篠ノ井線や中央西線で使われた機関車が多い,それらの保存機を丹念にめぐり,ご友人から提供された図面をたよりに推定を重ねる….実に地道な趣味活動である.この,キャブの換気装置が,各施工工場をを網羅して体系的に語られたのは,今回のレポートが最初ではないかと重う.

現役時代の写真は,おもに早川昭文さんのお手を煩わせた.たくさん撮っておられたのだけれど,実は,ごく最近,“蒸機の時代”に発表されたばかりのカットがあって,それらは割愛せざるを得なかった.ちょっと残念.
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淡雪の反射を活かしてキャブ下などのディテールを浮かび上がらせた,秀逸な形式写真.換気装置は太いパイプが1本だけで,ちょっと目立たないのが,残念.贄川 昭和48/1973-1-21 写真:早川昭文

表紙は八木邦英さん撮影のD51 549である.出来上がりだけを見ると凛々しくポーズを取った機関士さんを主題に捉えたように見えるのだが,実は,機関車全体が写っている,立派な形式写真なのである.
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でも,それでは表紙の比率に全く合わないし,ヘッドマークは“篠ノ井線蒸機さようなら運転”である.そこで,八木さんに無理の,またさらに無理をお願いして,大胆なトリミングをさせていただいたというのが,顛末である.長野運転所 昭和45/1970-2-21

まったく,虞を知らない編集者である.

久し振りの蒸機の煙を堪能していただこうということで,ヒギンズさんの作品集は,国鉄蒸機.北海道から九州まで網羅しておられることから,ヒギンズさんの興味の対象は私鉄電車だけではないことを,判っていただけると思う.

その中で1枚,ちょっと説明に不整合が残った写真がある.
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東北本線古間木(現在の三沢)を発車するC51牽引列車,とある.ところが末尾では“奥羽本線のどこかだろう”とも記している.さて.

機関車番号板の読み取りで,新庄や米沢にいたC51 39ではないかと突き止め,そのような説明を書いてから,ヒギンズさん自身によるメモが発見されて,それには“古間木”,とあったためである.どちらが正解なのか,現地に詳しい方の考察を,お待ちしているところである.

その次は,貝塚恒夫さんによる“大津電車軌道”の歴史探究である.
 地元在住の利を生かして……というのはたやすいが,なかなか思うようにいかないことは,自分が住んでいるエリアの鉄道の歴史を調べようと志したことのある方なら,納得していただけることだろう.
 福田静二さんはじめ,ご友人たちの手助けも得たとはいえ,主体は,もちろん貝塚さんの情熱である.路線そのものは今もなお京阪電鉄大津線の一部として盛業中とはいえ,派手なエピソードの少ない路線を,よくもまぁ,丹念に調べ上げられたものと,感心してしまった.
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掲載した写真は,歴史的車輛が主体だけれど,裏表紙を飾っていただいたのは,貝塚さん自身の撮影になる,“びわこ号”塗装の600型である.車体のどこにも電線の影が懸かっていない,絶妙のタイミングでの撮影である.令和3/2021-2-6

最後を飾るのが,高見彰彦さんの“記念写真”.鉄道趣味人というのは,遠征に際しても,存外,記念写真を撮らないものらしい…まるで他人事のように記しているが,僕自身だって,中学生のころにはセルフタイマーで撮影したこともあるけれど,その後はさっぱり….

そんな状況の中で,今回,もっとも印象に残ったのが,この写真である.
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いまはなき東野鉄道の機関区での記念写真.写っているのは機関区の人々とC251機関車,そして高井薫平さんと井口悦男さ
ん.撮影者は竹中泰彦さんである.実に歴史的記念写真といえるではないか.昭和29/1954-3 写真:竹中泰彦


ということで,派手さは少ないですが,読めば読むほどに,深い味わいを堪能していただける1冊に仕上がったと思っています.どうぞお手元に1冊!

※2021.07.23:C12 187に関する記述など一部修正補筆