まず最初に.今回は異例に長く,写真の枚数も多いことをお断りしておきます.それだけ内容の濃い1日だったのです.

今日,千葉・幕張メッセで開催されている“第7回鉄道技術展”を展観してきた.
 産経新聞社が主催し,2年に一度ずつ開催されているこの展示会,これまでにブログでは2015年2017年2019年の3度,レポートしている.2019年は,本誌2020年1月号のCoffee Cupでもご紹介した.
 その時々で出展社は増減し,入れ替わりもある.例えば今年は,外国からの出展は日本駐在のメンバーばかり.それでもスイスは各社が連合してパビリオンを形づくって展示を行なっていた.国内の会社では川崎重工改め川崎車両三菱重工,新日鐵住金改め日本製鉄日立製作所などは“お休み”だった.
 一方で総合車両製作所日本車両近畿車輌JR西日本とその関連各社,東京地下鉄とメトロ車両などの各社は賑やかに展示を繰り広げていた.
 もちろん,車両メーカーを支える部品メーカー,そして検測機器の専門メーカー,併催の“第4回 橋梁・トンネル技術展”にも数多くの専門会社が出展していた.

いつも通り,まずは会場を一回りして全体の見当をつけてから,二巡目に個別のブースを訪問という段取り.
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最初は東京地下鉄.さまざまな独自技術の解説や車輛の展示模型など,興味津々の内容.ささにその一角には…….
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日比谷線で活躍していた03系の歩みを振り返る展示があり,その前に2輛編成の北陸鉄道仕様03系が走っていた.

これは東京地下鉄が,同社で新形車に置き替えられた車輛を活用する事業をアピールするのが目的で,子会社であるメトロ車両のセクションで展開されていたものである.実は編集部あてに,この車輛作品を製作し展示に協力された鹿倉明祐さんご自身から連絡があったので,平野編集長から“ぜひ撮影させていただくように!”と命じられていたものである.作品の出来栄えは,もちろんいつもの鹿倉作品らしく,端正な出来上がりであった.

続いては近畿車輌.つい前日,JR西日本のDEC741の報道公開でお邪魔したばかりだから,なんとなく惹かれるところが…….
 東武鉄道70000系や東京地下鉄13000系の大形模型を展示していたほか,車輛開発に際してのプレゼンテーション用バーチャルリアリティ(VR)システムのデモンストレーションを展開していた.
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デモ中の車輛開発VRシステム.京都市交通局20系と近鉄80000系“ひのとり”の,とりわけインテリアの開発シミュレーションを体験することができる

車輛メーカーでは日本車両の“NS台車”目を惹いた.2017年の第5回展示で,小田急70000形GSE向けの現物を展示していたが,今回は“N-QUALIS(エヌクオリス)”と名付けられた,同社の車輛製造全般についての次世代プラットフォームの一端を担うパートのひとつとして,側梁が展示されていたものである.
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完成状態では見ることができない,この台車の構成方法が一目瞭然であった.

台車の次は屋根上…というわけでもないが,今では2社となってしまった,国内でパンタグラフを製造する会社のひとつである工進精工所では,前回に引き続いて独自技術による試作パンタグラフが展示されていた.
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上昇は空気,下降は自重でというのは前回と同じ……その上昇が,エアベローズに依るというのが最大の特徴のようである.来年には走行試験を実施という.さて,いつ,どこで行なわれるのだろうか.楽しみなことである.


もうひとつのメーカーである東洋電機製造でも新形パンタグラフが展示されていた.
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なにが新しいのかといえば,同社の自社ブランドとしては初めて,アームを丸パイプに変更したことにあるそうだ.角パイプでは折り畳み高さを低減できるなどのメリットがあるのに対して,丸パイプでは雪が積もりにくいということからの採用とのこと.どこの鉄道の何形で最初にお目見えするだろうか.

部品メーカーでも力のこもった展示をたくさん見ることができた.例えば前照燈のコイト電工……
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と,思ったら,今回初の,腰掛の展示が大きなスペースを占めていた.

京急1800形1890番代や,しなの鉄道SR-1系ライナー車のロング・クロスシートが同社製であることはMODELERS FILEにも記したが,実は同社の座席製作には長い歴史と実績を有しているのである.今回はJR東日本E261系“サフィール”やJR東海N700Sなどの現物が展示されていた.

スイッチ製作の専門会社であるNKKスイッチズも地味ながら意欲的.
 近年,都会地の通勤電車でも見かけることが多くなった半自動側扉の開閉スイッチ.年を経て数が増えるとともに見栄えがよく,扱いやすいタイプが開発されてきたが,今回の展示では,ベゼルの色調に工夫を凝らして色覚に障碍のある乗客にも正しい色で認識してもらえるように改良した製品を展示していた.模型製作でも,微妙な色遣いに影響が出るかもしれない.
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ベゼルの上にフィルターをかざして,ちゃんと色を認識できるかどうかのデモンストレーション.
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スイスパビリオンの一角に展示されていた,シュタッドラー(STADLER)製初の本線用ディーゼル機“SALi”の模型.これまで中・小形電車を得意としてきた同社ではじめて開発された機関車である.電気式で出力は約2,000kW,2019年にはボリビアの1,000mm期間用が輸出されている.

と,駆け足で巡っているうちに,午後2時半になった.“第7回レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(RDE)”の開始時刻である.

この催しは,鉄道技術展の機会を利用して鉄道技術者,デザイナーが集う機会を作ろうということで始まり,今回で7回目.今回のテーマは“どうして鉄道は,人を惹きつけるのか”.内容は,基調講演,パネルディスカッション,現役デザイナーによるプレゼンテーション,そして親睦の場という構成.基調講演は月影デザインコンサルティング代表の山田晃三さん. パネルディスカッションのメンバーは,元名古屋鉄道副社長の柚原 誠さんと鉄道模型趣味誌編集長の名取紀之さん,フリーアナウンサーの久野知美さんというユニークな取り合わせで“鉄道の趣味とは?”論が繰り広げられた.
 そしてプレゼンテーションは川崎車両の小菅大地さんと近畿車輌の杉本信広さん,そして日立製作所の野末 壮さんから,それぞれに興味深い論が展開された.
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鉄道はなぜ人を惹きつけるのか.3人のパネリストに加え,車輛をデザインし製作する立場である近畿車輌の南井健治さんがモデレーターとなり,“あれも同感,それも同感”と,話は尽きなかった.

外に出たら,もうとっぷりと日が暮れていた.そして夕食もそこそこに,このレポートを記している…….
 デザイナーズイブニングは残念ながら今晩だけの催しだが,催しは26日の夕方まで.興味を持った方は,ぜひ幕張へ!


この鉄道技術展.趣味人対象の催しではないが,来場資格に制限はない.入場料は2,000円で,ウェブで事前登録すれば無料となる……当日でも大丈夫だと,思う.

また,来年5月には,初めての大阪展が開催される.
会期は2022年5月25日(水)~27日(金).会場はインテックス大阪 4・5号館
詳しくは専用ウェブサイトをご覧いただきたい.

※なお,ここに掲載した写真は,報道用として撮影したものです.

※:2021.11.26:大阪展に関する記述追加.追加に際して表示に不具合が発生したので別エントリに移動.その結果URLがアップロード直後と比べて変更された.

※2021.11.30:東洋電機製造の新形パンタグラフ写真説明を加筆.