このところ,日本の鉄道車輛メーカーの,外国への進出活動が著しい.なかでも日立製作所は,鉄道始祖の地である英国で活発に事業を展開している.
 既に各種車輛やメンテナンス設備,信号システムなどを受注して実績を上げていることは,TVコマーシャルなどでも盛んにアピールされているし,本誌でも何度か採り上げているから,ご存じの方が多いだろう.
……と,思っていたら10月30日に“日立によるフィンメカニカ社の信号・車両部門の買収 について”というリリースが出され,続いて11月2日には“日立によるフィンメカニカ社の信号・車両部門の買収が完了”と発表された.
 フィンメカニカといっても,こちらはちょっとおなじみのない会社名かもしれないけれど,アンサルドブレダ社の大株主といえば,うなづく方も少なくないはず.
  アンサルド(ANSALDO)は19世紀半ばにジェノヴァに設立された総合機械メーカー.イタリアの電気機関車についての解説書を見れば,随所にその名前 が登場する.ざっと思いつくだけでも,軸配置BBBで,北イタリアからユーゴスラヴィアまでを勢力範囲として,1927年から10年間で約500輛が量産 されたE.626形…ロコやリバロッシの製品でお馴染みだろう.1922年から37輛が製造された三相交流の1D1,大型凸型機E.431形.不朽の名作 映画“鉄道員”に登場するE.424やE.432….すべてにアンサルドが関与している.
 ブレダ(BREDA…イタリア語的に正しくはブレーダ だろうか)はといえば,アンサルドと並んで電気機関車の製造メーカーとして忘れることのできない存在ではある.例えばスイスBLSの半流線形機Ae 6/8もそうだし,そればかりか蒸気機関車だって,数え切れないぐらい製造している.でも,趣味的にもっと忘れられないのは,なんといっても ETR300…セッテベロの主幹製造担当社だったことだ.それ以前にも,ワゴン・リの寝台車や食堂車,プルマン車なども数多く手がけたメーカーとして印象 に残っている方もあるに違いない.

その両社…合併したとはいえ…を,日本の日立が掌中に収めたというのだから,これは大事件.どうなるのかと固唾を呑んで見守っていたら,昨日,今度は“日立がイタリアの鉄道会社トレニと二階建て車両追加受注に関する正式契約を締結”と発表された.
 それによれば受注したのはイタリア鉄道の 2階建客車136輛で,最初の契約は2010年3月に締結されているシリーズの3回目の増備分ということになる.内訳は24輛の先頭車と112輛の中間 車.添えられた写真を見ると,イタリアで“Vivalto”と呼ばれるシリーズの客車.2005年にコリファー(Corifer)で450輛が製造された のを皮切りに,2次増備からは閉鎖されたコリファーに代わってアンサルドブレダが受注,現在まで既に800輛ほどがイタリア各地に投入されている.
 組み合わせられる機関車は片運転台のE.464.最初はABB(後のADTranz…現在のボンバルディアの一部)が開発したインバータ機で,1996年から2013年までに700輛以上も製造されている,現代イタリア鉄道を代表する機関車のひとつである.

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日立レールイタリアが受注したイタリア鉄道の2階建客車“Vivalto”編成.
PHOTO:G. Senese - Creativita' e Broadcasting/DCM/FS Italiane / 日立製作所

で,受注した会社の名前を見ると,日立レールイタリア(Hitachi Rail Italy S.p.A),なのだそうだ.アンサルドやブレダの名前は,残らなかったのだろうか.もしそうなら,少し淋しい.
 でもまぁ,栄枯盛衰は世の習い.日本とイタリアの伝統と最先端技術がどのように昇華されてい行くのか.静かに熱く見守りたいと思う.

で,締めくくろうと思ったら,今日の夕方,今度はインドの鉄道に関する発表があった.
 内容は,デリー近郊から南西へ向かい,西海岸のムンバイまでの貨物専用鉄道建設に際して,約900キロの区間で信号及び通信設備を,その区間を含む約1,300キロの区間で信号設備を受注したというのである.
 日本とインドとの間では高速鉄道を含む各種鉄道の建設や改良に関して協力関係が進められているが,これもそのうちの大切な一部分.
 完成までには6年半とか8年半とか,長期に及ぶ工期が設定されているようだが,順調にことが運ぶよう,祈りたい.

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インドでの信号通信設備受注区間概念地図.提供:日立製作所

※2015.12.11追記:
日立製作所の担当部署から
“日立レールイタリア社はアンサルドブレダ社から修理・修繕事業と既受注案件の一部を除く事業を継承した企業ですので,修理・修繕事業と既受注案件の一部事業はアンサルドブレダ社に残っており,アンサルドブレダ社が現時点で消滅したわけではありません”
という訂正情報をいただいた.ほっと一安心したことを,お伝えする次第.