大穂孝悦さんは,僕の長いつきあいの友人の一人であり,うちの会社の出版物に写真などの作品をくださる寄稿者でもある.
 最初に逢ったのが 何時どこだったのか,もう思い出せない(最近はこういうことが多くなった…)ほどだが,恐らくは,中国大陸の機関車に関する集まりかなにかだったのではな いかと思う.僕が中国大陸の地を初めて踏んだのは1980年代終りの初冬のこと.“とれいん”とキヤノンツアーズの共催による“広田尚敬さんと行く中国蒸 機撮影の旅”で北京空港に降りたった時である.大穂さんはといえば,それより5年も早い1985年に,自身が音頭取りとなって友だちに声を掛けてプライ ベートツアーを組み,彼の地を訪問しているのだから,筋金入りである.

1985年…今年は2015年だから,もう30年もの時間が流れたこ とになる.その間に世の中は大きく変化し,さすがの中国大陸でも,本当の意味での現役蒸機は姿を消した.その間の動きは“とれいん”でも“レイル”でも, 度々採り上げてきたわけで,とりわけ,蔵重信隆さんによる“レイル”での“現代中国蒸機の世界”は,平成19/2007年のNo.61から平成24/2012年のNo.81まで5年20回に及び,その終焉までをお伝えしてきた.
 レイルでは,大穂さんも平成16/2008年のNo.48で“芭石(bashi)鉄路”と題して四川省の奥地に生き永らえた炭砿鉄道を紹介してくださっているし,No.86では,現在の黒龍江省に存在した日本企業経営による森林鉄道の謎の解明に取り組まれた.

その大穂さんの写真展である.
 会場は東京調布市にある富士フォトギャラリー調布.富士カラーの直営(子会社とはいえ)現像所の一角,建物の2階に設けられている.

 会場に入っての第一印象は“懐かしい!”
 同じ趣味を持って機関車を追い掛けていたあの頃の自分が,甦ってきた.とはいえ,もちろん,単なる懐古主義者ではないつもりの僕である.“いま”と“あした”への糧として,“きのう”を大切に思っている,ということである(回りくどいなぁ,我ながら).

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会場入口に最も近いスペースには,黒龍江省の南岔(Nancha)から分かれる路線で繰り広げられた前進形の重連や重連プラス後補機付き列車が並べられ,いきなりの迫力に圧倒される.

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ここは,20世紀も終わり近くになって,内蒙古自治区に突如登場した前進形の王国,集通(jitong))鉄路情景を集めたコーナー.この頃になると,道路や宿泊施設の整備も進みはじめ,冬の大陸行も少し気軽になったようではある.

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大 穂さんは,兄弟揃っての鉄道趣味人.写真に向かって左はお兄さんである大穂耕一郎さん,右が孝悦さん.間に立つマネキンが纏っているのは,1980年代に 冬の中国大陸で必須だった羽毛たっぷりの防寒装備.足許はソレルというメーカーの防寒靴.首からさげているカメラはモータードライブ付きのニコンFM2… かな?

冬の撮影行では,自分自身の防寒はもちろんのこと,カメラの動作環境についても,グリスを抜くなど,前もって準備して から…が必要だった.“電気仕掛け”の機種ならば,電池の保温などにも工夫があって,ボディからリード線を引き出して自分自身の衣類の中に電池ボックスを 取り込んで保温し,電圧を確保していた猛者も,少なくなかった.
 そういえばフィルムだって,下手に湾曲させると“割れる”などともいわれた.
 列車や自動車,そして宿の室内と屋外との気温差も,摂氏30度に達するわけで,レンズが結露したり,その露が凍ったり…….
 人間様も,室内では汗をかくほどの暖かさだものだから,油断して室内着のまま一歩屋外に足を踏みだしたとたんに凍傷…などという騒ぎもあった.

と,いろんな出来事や聞いた話が頭の中に次々と湧き出してきた.
 行ったことのある人にも,行きたかったのに実現できなかった人にも,ぜひ,見ていただきたい写真展である.

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会場の“富士フォトギャラリー調布”入口.折悪しく外壁の整備中.敷地が広くて入口が何ヵ所もあるから,この写真の風景を網膜に刻んでから,お出かけくださいませ.

大穂孝悦写真展 凍煙有情IV
2015年11月20日(金)~12月2日(水)

富士フォトギャラリー
〒182-8686
東京都調布市柴崎1-67-1
TEL   042-481-8049
FAX   042-481-8084

入館無料

■開館時間
月~金   10:00~18:00
土日祭   11:00~17:00
展示最終日(隔週水曜日) 10:00~15:00
※営業時間は変更される場合がある
■休館 隔週木曜日(作品入れ替え日のみ)・年末年始

■アクセス
京王線柴崎駅下車徒歩8分(各駅停車のみ)
つつじヶ丘駅下車徒歩12分(急行停車)
※駐車スペース20台完備

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