旧新橋停車場では,その鉄道歴史展示室を使い,ほぼ3ヵ月のサイクルで企画展を開催している.前回の“野球と鉄道”に続くテーマは“温泉と文芸と鉄道”.なにやら三題噺のような.どんな風にしてそれらが絡み合っているのか,興味津々,出掛けてきた.

古来,温泉への湯治客を輸送するための鉄道は日本に数多存在した.調べるまでもなく思いつくのは,有馬鉄道,神有電車,山中馬車鉄道,山代軌道,粟津軌道,片山津軌道.信松本電軌,上田温泉電軌,草軽電鉄,菊池軌道,温泉軽便鉄道,四日市鉄道,定山渓鉄道…….
 そして東北と関東には,花巻,塩原,伊香保,箱根,熱海などの名だたる温泉地に,誘客を目的とした鉄道が存在した.塩原のように早々と姿を消した路線もあれば,人車軌道から蒸機の軽便,省線の支線,幹線,新幹線にまで大出世した路線も,ある.
 そんな路線は,どのように生まれて歴史を刻んだのだろうか.

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エ ントランスから会場の中をのぞむ.今までと印象が大きく異なるのに気づく.その理由を探ってみれば,壁面に答を求めることができた.展示物のための内壁が 取り払われて,本来の壁や窓が姿を見せたから.右手壁面には“ごあいさつ”に続いて明治後半の熱海温泉風景が掲げられ,さらに西洋医学の見地から日本の温 泉を評価し研究したドイツ人医師ベルツが紹介されている.

今回の企画の発想の原点は宮澤賢治と花巻温泉にあったというが,展示そのものは熱海に始まり伊香保へ続く.伊香保といえば,昨年春に復元された伊香保電車27号を採りあげたレイルNo.91が記憶に新しいが,その時にたくさんの写真を拝借した田部井康修さんの写真はもちろん,タブレットや行き先札など,普段は目に触れることのできないコレクションも,展示されている.

伊香保といえば連想される草津…草軽電鉄のセクションには,堤一郎さんの作になる“L電とその列車”が展示され,観覧者の目を惹きつけている.

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会場のほぼ中央に鎮座する,堤さん製作の草軽電鉄列車と草軽車輛竣功図表.画面奥の壁面には田部井さん撮影になる写真を中心とする伊香保温泉の資料が掲げられている.

上州の温泉が続いた後には,進路が東へ振られて塩原へ.

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昭 和初期に早くもバスとの競争に負けた塩原軌道…塩原電車.残された写真資料は数が少ない.手前のガラスケース内右は昭和初期に制作された紅葉狩りの勧誘チ ラシ.その左の3冊は,右から運輸省監修の“温泉案内”,鉄道省刊行の“温泉案内”,そして松川二郎著の“名勝温泉案内”.

松川二郎という名前は,実は僕はこの展示室で初めて知った.聞けば,明治後期から昭和初期に旅行案内を多く著した文筆家という.いわば“元祖トラベルライター”だろうか.
  旅行案内はもちろん,今回の企画展のテーマのひとつである“文芸”も,会場には綺羅星のごとく散りばめられている.ただ,“あちら”に足を踏み込んでしま うと,このブログの収拾がつかなくなりそう…全くの門外漢でもあるし…ということで,ただ1点,山口誓子が昭和22/1947年に詠んだ
“堤燈(カンテラ)を 地に置き寒夜 転轍手”
が,強く心に響いたということだけを記しておくことにする.

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山口誓子の句とともに展示されている写真とカンテラ.こういう組み合わせを,サラリと自然に実現してしまうことができるのは,担当学芸員さんの力量と“思い入れ”のあらわれである.

展 示は最終コーナーを巡り,ようやく,“きっかけ”となった宮澤賢治と花巻にたどり着く.“鉄道”については花巻電車だけでなく,宮澤賢治には欠かせない岩 手軽便もふんだんに登場する.旧安奉線のボールドウィンCタンクに加え,花巻駅の情景写真は客貨車の様子や駅構内の線路配置を確認するためにも興味深い一 点といえよう.

そして掉尾を飾るのは,鉄道とも温泉とも関係のなさそうな,蒲郡と鳥羽を結んだ連絡船会社のポスター.なんとも妖艶な(?) 女神を中央に据えたアールヌーボー調の仕上げ.宮澤賢治が修学旅行の際にこの会社の船に乗ったのだという関連性はあるが,もしかしたら,それとは関係な く,担当学芸員さんがこのポスターに惚れてしまったのかも…….ぜひ,新橋へ出向いてお確かめいただきたい.

会 期 2015年8月4日(火)~2015年11月23日(月)
会 場 旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
〒105-0021 東京都港区東新橋1-5-3 電話 03-3572-1872

開館時間 10時-17時(入館は閉館の15分前まで)
休館日 毎週月曜日(ただし祝祭日の場合は開館で翌日休館)
入場料 無料

※ここに掲載した写真は,このブログに掲載するために予め許可をいただいて撮影したものです.会場内は撮影禁止です

※2015.08.28:堤燈の読み方を修正.