“野球”といえば,なにを思い浮かべるだろうか.ここの読者ならば.

昭和の大阪育ちである僕には,やっぱり,京阪以外の私鉄が持って いた球団の数々とか,そして全国区としての国鉄スワローズだろうか.もっとも,僕の頭の中ではプロ野球はその辺りで歴史が止まっていて,現代の選手名を挙 げられても,かなりの部分が“ちんぷんかんぷん”.下手すれば球団名すら怪しいかもしれない体たらく.

一方,野球そのものではなくて,高校野球の応援団のための臨時列車に熱をあげた人は,きっと少なくないと思う.JRが発足してからでも,会社間の枠を乗り越えて全国各地から大阪や神戸を目指して臨時列車が仕立てられていたのだから.

とはいえ,この企画展“野球と鉄道”は,それらのことを直接的に採り上げるという,単純なものではない.なにしろ旧新橋停車場歴史展示室での企画展なのだから.これまで,ここで紹介してきた数々の企画展をご覧いただいている皆さんなら,簡単に想像がつくことだろう.例えば“東京駅開業とその時代”のように,東京駅開業を,その“時代”から眺めてみるとか…….

…4月から始まっていたこの企画展.なにしろ“新橋は近くて遠い”.今年は4月も5月もあっという間に過ぎ去ってしまい,やっと訪問することができた.でも,まだあとひと月以上ある.ということで,ようやくご紹介の次第.

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いつもと変わらぬ旧新橋停車場の入り口.折りしも近代建築物ファンと思しきお嬢さんが建物全体や各部分の写真を撮り終えて展示室に駆け上がっていくところだった.画面左奥に見えるガラス張りの建物はパナソニックリビングのショールーム.

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展示室に入ってすぐの右側には,大きな大きな写真パネルが.これまでの企画展で最大サイズだという,甲子園球場大銀傘の写真.それも戦前の.スタンド最上段 にもずらりと並んだ立ち見の観客にも圧倒される.展示ケース内の蛍光燈照明を廃止して天井からのLED照明に統一したことによる色合いの変化など,さまざ まな変化も発見できる,今回の企画展会場である.

巨大な写真に圧倒されつつ会場に踏み込んだ,その次の瞬間には,新たな驚き にとらわれる人も少なくないはず.なにしろ出てくるのが,平岡 煕(正しくは臣の左ににすい).あの平岡工場…のちの汽車会社東京…の創始者なのだから. その平岡がなぜ?と思うのも無理はない.日本に野球を普及させた功労者としての平岡の姿を知っている鉄道趣味人は,どのぐらい存在しているだろうか.それ をこの企画展は,丁寧に教えてくれる.

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平岡の,野球に対する功績を語る一章.展示された写真や停車場平面図の,どこかで野球を楽しんでいたという.その平面図のタイトルが“新橋”ではなく“東京”であることに注目.明治14年現在を描いたものだという.

そして“各論”に入るわけだけれど,鉄道と野球とは,意外な面でさまざまに触れ合い,絡み合っていることが次々と紹介される.
  僕にとって最大の圧巻は,三鷹駅北方にあったという武蔵野競技場と,観客輸送用の支線,さらには競技場へのたくさんの鉄道敷設計画,さらには実質的には僅 か1年ほどしか使われなかったにもかかわらず,ちゃんと現存している“三鷹-武蔵野競技場前”の方向板.もっといえばその方向板が鉄道博物館ではなくて野 球殿堂博物館の収蔵品であること.
 究めつけが,その支線に,レイルでおなじみの三宅俊彦さんが乗車し,休止状態の路線を探訪しておられたという事実だった.

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武蔵野競技場関連の展示コーナー.三鷹駅構内配線図や車内補充券や,鉄道路線敷設計画図や,開業記念アーチの写真や……よくもまぁ,ここまで探し出したと,感心するしかない.担当学芸員さんの情熱の注ぎ具合の一端を,うかがい知ることができよう.

新聞綴りに纏められた昭和10年代の“国民新聞”で報じられる野球関連の記事を,“原寸大”で閲覧できるとか,まだまだ紹介しきれないアイデアに満ち溢れている.
 そもそも,日本の野球を,球団毎に切り取るのではなくて,球場のロケーション別に切り取るという,新しい料理方法そのものが,これまでにはない,新アイデアといえる.
 そのおかげで,会場内を,ただただ順路に従って巡るのではなくて,あっちこっち“つまみ食い”しながら,いつまででも楽しむことができるのだった.

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そんな会場の一隅には,西宮北口のダイヤモンドクロッシングのエピソードもちゃんと抜かりなく紹介されている.展示されている写真は,縁あってほんの少しながらお手伝いすることになった,僕の撮影.

さて,来たる6月21日には,冒頭の写真でご紹介したパナソニックリビングショールームのビルの5階で,JR東日本東京野球部出身のプロ野球選手だった,赤星憲広さんの講演会が開催される.参加費は500円.事前申し込みは旧新橋停車場歴史展示室でだけ受け付け.すなわち,この企画展を,是非見にきてくださいね,ということなのである.興味のある方は,是非.詳しくはこちらをご参照

会 期 2015年4月7日(火)~2015年7月20日(月)
会 場 旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
〒105-0021 東京都港区東新橋1-5-3 電話 03-3572-1872

開館時間 10時-17時(入館は閉館の15分前まで)
休館日 毎週月曜日(ただし祝祭日の場合は開館で翌日休館)
入場料 無料

※ここに掲載した写真は,このブログに掲載するために予め許可をいただいて撮影したものです.会場内は撮影禁止です.