春になるとドイツ観光局主催のプレゼンテーションが続く.今年の最初は4月22日の,今年の観光テーマ発表会.
ドイツ観光局のプレス発表会は,毎回,会場設定にも気が配られていて“こんどはどこへ行くことができるのだろう”と,楽しみの一つにもなっているのだが,今回は,原宿の表参道ヒルズだった.
この表参道ヒルズ,東京近郊の方ならご存じの向きも多いだろうが,かつて関東大震災の復興を目的として東京都内各地に建設された共同住宅のひとつ…“同潤
会青山アパート”があった地に建設されたショッピングモールである.“ヒルズ”といっても,六本木のそれのような高層ビルが林立するわけではなくて,低層
の建物が通りに沿って穏やかな佇まいを見せる,僕の好きな街路の一つでもある.
その表参道ヒルズの地下3階,“レストランレーゼンヴァルト表参道ヒルズ店”が会場.“Lesenwald”とは“森の収穫”を意味するドイツ語…と,思う…….“ドイツ自然派料理”を旗印?とするだけあって,入り口は植物園の様相を呈していて,期待は高まる…いやもちろん,プレゼンテーションへの,ですよ.
まるで植物園のような“Lesen Wald”のエントランス.大畑さんをはじめとするドイツ観光局の皆さんが笑顔で出迎えてくださった.
さて今年のドイツ観光テーマ,それはドイツ観光街道,ルーカス・クラナッハ生誕500年,持続可能なツーリズム,ドイツ統一25周年と続き,メインが“ドイツ・伝統と風習”.
直接的にはどれも鉄道と関係ないじゃないかと思われるかもしれない.でも,鉄道というものは,世界中どこでも,伝統と風習の上に成り立っている,典型的な
“経験工学”の具体例.ときどきはその風習を打破しようという試みがなされるけれど,これまでの伝統や風習を省みない考えが,よい結果を生むわけはない.
過去の蓄積をじっくりと研究して学んだ上で上手に活用すべく構築されたプランだけが,新しくよい風を吹き込んでくれると,僕は信じている.
そ
んな過去の伝統や風習を学ぶための,もっとも効果的な行動,それは“旅”.もしかしたら,そのために人は旅をするのかもしれない.たとえ行先がドイツでな
くても.いや,そんなことを言ってたら,今回のブログは成り立たないか.でも,そんなことはない.目的地がどこであっても,それは同じこと.たまたま好き
なドイツの汽車を見るための旅,であったとしても,たまたま降り立った駅で見掛けた建物,人々,食事,飲み物.すべてが,その町や村ならではの得難い体
験.
そして僕たちにとって,目的地は古典的な観光地だけではない.近代だって,既に伝統.日本では昨年,富岡製糸場がユネスコ世界文化遺産に登
録され,つい先日は“軍艦島”や八幡製鉄所を含む明治期の産業遺産が,登録への勧告を受けたばかりだが,ドイツには,18世紀から20世紀にかけての産業
遺産が既にいくつも登録されている.
ザールラントにあるフェルクリンゲン製鉄所(Voelklinger
Hutte)という19世紀創業の製鉄所跡地がユネスコ世界文化遺産に登録されている.Photo:DZT / Gerhard Kassner /
WKV / Tourismus Zentrale Saarland
こちらはルール地方,エッセンの炭砿遺産群.ワイマール共和国時代に建造されたコークス工場は,実用一点張りではなくて,当時のドイツで一世を風靡した“バ
ウハウス(=bauhaus)”様式を採り入れた,“デザイナーズ・ファクトリー”.Photo:DZT / Vinken, Frank /
Stiftung Zollverein
さて,プレス発表会は,レイカート・ケッテルハーケ観光局長などの挨拶のあと,“いつもの”西山さんによる内容の濃いプレゼンテーションが続いたが,今回は,さらにその後に東京ドイツ文化センターの堀口典子さんから,ドイツ文化センターの歴史や日ごろの活動紹介,そして5月22日(金)にドイツ文化会館で開催されるイベントが発表された.それはオーストリア,フランス,ドイツ,イタリア,ポーランド,スペインのヨーロッパ6カ国と日本から,飲み物や飲むという習慣の文化的,社会的背景について共に考える機会を設けたものだという.題して“人と飲み物、そして文化”.
会場では各参加国からの出店やパフォーマンス,特徴ある飲み物や文化を実際に味わうことができるのだそうだ.これらは自由参加で,ほかに事前申込制のシンポジウムも予定されている.
5月のイベントを紹介する東京ドイツ文化センター広報の堀口典子さん.シンポジウムは文化センターのウェブサイトから事前申し込みができる.
プレゼンテーション終了後には,“ドイツの伝統と風習を食文化を通じて体験”.いずれも期待以上に美味だったけれど,南西ドイツ…とりわけシュヴァルツヴァ
ルト地域の伝統的なキルシュトルテトルテ(サクランボケーキ)が最高だった.もちろん自家製.合わせる飲み物は,当然ながらドイツ流のコーヒーなのだが,
お店特撰というミュンヘンのヴァイスビーアやプファルツのリースリングにも思わず手が伸びる,参加者たちであった.