列車が走るのに欠かせないパーツの第一に思い浮かぶのはレールである.そのレールをしっかりと固定しているのが枕木である.その下にはさらに道床や路盤があって,それらがしっかりと揃って初めて列車が安全に走ることができるわけだが,今日は要をなす,枕木のはなし.
今では“枕木”といっても自然木の枕木はどんどん数が減っていて,木製枕木のことを,わざわざ“木枕木(きまくらぎ)”と呼んで区別する必要があるほどに
なった.“枕木”という言葉そのものも“マクラギ”などと表記されることが少なくない.それでは本来の意味が解らなくなるじゃないかと思うのだけれど.
日本の鉄道でどのぐらいの数の枕木が現役として使われているのか,想像もつかないけれど,それなりの数の会社がそれぞれに供給しているのだから,結構な需
要はあるのだろう.とはいえ,コンクリート枕木の平均的な耐用年数は50年だというから,そこに外国の会社が新規参入する余地はあるのか?
というのが,今回,フランス大使館企業振興部から“コンソリス日本支店開設”という案内が届いた時の,率直な感想だった.
鉄道とはいえ,普段はあまり縁のない分野ということもあり,興味津々であるとともに,ちょっと気後れしつつ,フランス大使館へ向かったことである.

記者会見でプレゼンテーション中のピエール・ブルース(Pierre Brousse)社長兼CEO.挨拶からすべて,英語によって進行.かつてのフランスでは考えられなかったことで,ちょっとびっくり.内容的には,もっと意外なことがらが…….
まず,日本に支店を開設した理由だが,直接的に日本に自社製品を輸出したいということではなさそうなのである.では,日本の既存メーカーと提携して日本国内の鉄道に供給したいのかといえば,“それは目的の中に含まれます”とはいうものの,主題ではなさそう…….
提携先には,日本の既存メーカーだけでなく鉄道事業者も含まれるというのだから,さらに解らない.
コンクリート業界の新聞社からの質疑応答から,ようやく見えてきたのは…….
日本の枕木メーカーや鉄道事業者が持っているプラクティスを学び,それを元に自社製品のクォリティ向上をはかりたい.そして,それらを元に新しい製品を開発して,日本を拠点としてアジア地域への足掛かりとしたい…….
深慮遠謀というかなんというか.まどろっこしいぐらいの慎重さ.

日本の枕木市場には存在しない分野が,20トン以上の軸重や,1,200トン以上の列車重量に耐える枕木.写真はスウェーデン向けの35トン以上の軸重を想定したモノブロック枕木.Photo:ConsolisRail
コンソリス(Consolis)と いう会社,フランスとフィンランドの100年以上の歴史を持つセメント・コンクリート会社が合併して成立した会社.新しい社名は concrete+solutionを足して略した合成語.建築,土木,そして鉄道土木の分野が専門.日本支店はこれらのうちの鉄道部門が進出したものだ という.

同社の誇りの一つは,フランス国鉄の速度記録574.8km/hが,同社製の高速鉄道向け枕木上で達成されたこと.写真は高速新線での使用状況.Photo:ConsolisRail

併用軌道向けとして高さ12センチという,超薄型の枕木も開発している.写真は左右のコンクリートブロックを鋼材で結んだタイプ.左右及び一定の長さをモノブロックで成型したタイプもある.Photo:ConsolisRail
もうひとつの大きな驚きは,想定マーケットに中国大陸が入っていなかったこと.インドや豪州,ベトナムなどは含まれているのに.
記者会見でその理由を訊ねたのだけれど,どうも要を得ず,続いて催された支店開設記念レセプションの場でも重ねてブルースさんに質問.鉄道部門副社長のイ
ヴ アントニーニ(Yves
Antonini)さんを交えていろいろ説明してもらった結果,少し見えてきたのは,“中国大陸で要求されている枕木のクォリティは,我々には興味がな
い.数は問題ではない.その数だって先が見えている.縮小傾向にあると考えている”.
本当に中国大陸の市場が縮小傾向にあるのか,僕には納得できるものではない.それをいうなら,日本なんて,完全に成熟市場ではないか.それを問うたところ,“解っています.だから,日本は足掛かりと申し上げているわけです”
現状,相手先の要求に合致した規格の製品を送り込んで売り上げと利益を確保し,並行して自らが持つ高品質の枕木を提案すれば……と思うのだけれど,プライドが許さない,ということなのだろう.その志,貴いと思う.

レセプション会場はフランス大使館内の会議室.“本当に会議室?”と思ってしまうほどにお洒落な内装は,さすがにフランス.供された料理も,日本風でありながらフランスのエッセンスが加味されて…….
そ してこのレセプションの参加メンバーは,枕木メーカー各社,JR東日本,JR東海,東京地下鉄…….ただし,いずれも土木関係の専門家であって,面識のあ る方は,残念ながら皆無.このあたりが“気後れ”の理由だったのだけれど,勇気を出して,何人かの方に“この会社の進出方針は受け入れられる可能性,あり ますか?”と質問してみたところ,答えは概ね,“議論を重ねてお互いに納得できる方策が示されたなら,充分に可能性があります”だった.
日本での活動が長く続くことを祈り,そして願いたい.
なお,フランス鉄道産業協会とフランス大使館企業振興部では共同で“ワンクリックで、フランスの鉄道製品を発見!”という英語のサイトをこの春から開設している.興味のある方は是非訪問を!