半世紀以上に亘って近鉄特急のシンボルとして君臨し続けてきた12200系“新スナックカー”は,2021年2月に定期運用から退いた.しかし,その後も団体臨時列車などで活躍し,それが終了してからも,何編成かが解体されずに各地の車庫に留置され続けてきた.
 2021年11月には,それらの中から4輛1編成を活用した新しい観光特急“あをによし”の具体的な構想が発表され,12200系の新たな活躍場所が明らかになった.
 この“あをによし”は,観光列車として大阪と奈良,京都を結ぶのが目的であり,これまでの同社のさまざまな観光列車の経験と実績を活かした工夫が凝らされることになった.
 先々週のここで記した“次の題材を求めて長駆の移動”とは,この電車の撮影取材のことであった.

まずは外観.特徴的な貫通路とそのカバーは撤去され,非貫通となった.車体塗色は“紫檀(したん)メタリック”と呼ばれる濃い茶色……紫とも……すごくデリケートな色合いとなった.
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京都方から見た編成全体.系列名は19200系.“ひのとり”の次ということで9000番代,新スナックか-から200番代を引き継いでの19200系……だろうか.貫通扉跡には,往年の“羽根付き”特急マークを連想させる,砲金製のオーナメントが取り付けられている.写真全部 東花園車庫 2022-4-23

各形式は京都方から4号車19200,3号車19351,2号車19251,1号車19301.
 システム的には12200系から変わらず,自重なども,さまざまな改造にもかかわらず数値は同じである.外観的には,前述のとおり全面が非貫通となり,それに伴って連記連結器が撤去されたことが大きな変化.あとは室内のアコモデーションや大形車椅子対応トイレ新設に伴う側扉の移設と幅の拡大だろう.

その室内だが,客室の基本は2号車を除く全車に設備される“ツイン席”.2号車は“サロン室”.車椅子スペースは3号車にあり,車椅子対応トイレもこの車輛にある.
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“ツイン席”は,京都線において西側,奈良線において南側が間にテーブルを挟んだ向い合わせ席.通路を挟んだ反対側は,窓に対して45度の角度で腰掛が備えられている.間に挟まるテーブルは二等辺三角形ということになる.2号車以外の3輛には大形荷物置き場も備えられる.
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2号車はサロン席.グループ客向けの半個室で,1室定員4名の部屋を3組備える.京都線での西側,奈良線での南側にあり,側窓は近鉄随一の寸法となる,縦1.2m×横2m.

京都方の約1/3のスペースには,これまた往年のスナックコーナーを彷彿させる販売コーナーがある.カウンター内の棚には,スナックカーのロゴプレートが,さり気なく飾られている.
 またインテリアの調度品は“贅を凝らした”と表現するのがふさわしい豪華さで,どこまでも上品な雰囲気を追及している.
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そのサロン席を持つ2号車の外観.超特大の側窓に,いやがおうにも目を惹き付けられる.

車体側面にはもうひとつの特徴として,大胆なラッピングが施されている.これは正倉院御物のひとつである“螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんごげんびわ)”の花柄が,金色に輝く.

愛称の“あをによし”は,奈良に掛る枕詞である.万葉集にも27首に用いられており,例えば巻5の798,“悔しかもかく知らませばあをによし国内(くぬち)ことごと見せましものを”という山上憶良の詠がある.
 このことから,この列車は三都市を結ぶとはいえ,目的地は奈良であることが,明らかといえよう.
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奈良方先頭車19301.撮影取材時,隣りには12200系の12253+12353が訓練用として留置されていたので,オリジナルと改造後の比較も可能だった.それにしても正面中央のオーナメントの立派なこと!

なお,この19200系の種車は,12200系の中でも最後に新造された1974年製の12256+12156+12056+12356である.ちなみにこの編成は御召列車への起用やエリザベス女王のご乗車という,誉れの経歴を持っている.

さてこの“あをによし”.4月29日から営業運転を開始した.いまのところ予約状況は極めて好調とのことである.なお運転時刻や運転日は,近畿日本鉄道ウェブサイトの特設頁で公開されている.