今年は新橋と横浜の間に鉄道が開業してから150周年の節目である.本当ならばもっと以前から,さまざまな企画で盛り上がっていただろうに,にっくきCOVID-19感染拡大のあおりを受けて,すべてが“自粛モード”の中,具体的な催しの発表が本格化したのは,ようやく春を過ぎるころからとなった.
 当然のことながら,鉄道発祥の地である東京と横浜では歴史展示などが数多く企画され,横浜の横浜市歴史博物館企画展示室では早くも3月から“みんなでつなげる鉄道150年 鉄道発祥の地よこはまと沿線の移り変わり―”が始まっている.
 一方の東京方で,日本の鉄道の起点である新橋では,お馴染みの旧新橋停車場鉄道歴史展示室において,昨日から“新橋停車場、開業!”がスタートした.
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館の前の歩道橋から見た旧新橋停車場全景.完成してから20年近くを経て街路樹も生長し,覆い隠される部分が増えてきた.

この旧新橋停車場鉄道歴史展示室は,このブログでは,開館から5年目の夏に催された,“特急“燕”とその時代展”を2009年8月13日付けでご紹介したのが最初だったと思う……実はその前年の“制定80周年 トレインマークの誕生”では,かなりお手伝いしたはずなのに採り上げていない……なんでだ?と思ったら,このブログが,まだ始まっていなかった…….
 その翌年以降“日光道中“,“日本の観光黎明期~山へ!海へ!鉄道で~”,“会津”,“成田へ―江戸の旅・近代の旅”,“富士山と鉄道”,“東京駅開業とその時代”,“鉄道が野球とかかわる時”,“温泉と文芸と鉄道”,“駅弁むかし物語”,……さらにその後,2018年には“没後20年 工業デザイナー 黒岩保美”,2019年には“流線形の鉄道 1930年代を牽引した機関車たち”が催された.このふたつは,どうやら,とれいん本誌で紹介したようだ.ちなみに前者は2018年9月号(通巻525号),後者は2019年9月号“通刊537号)である.
 ところが,その後はぱったりと“新橋”の文字が登場しない.
 それは,やはりCOVID-19の影響も大きく,新橋独自の企画展が催されなくなってしまったからである.

……と,満を持して開催されたのが,今回の“新橋停車場、開業!”ということなのである.

入口から階段を上がる途中の壁面から今回の展示が……と思ったのだが,それは,たまたま更新された展示物が,今回のテーマに近いものが多かったというだけだそうだ.
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入口から眺めた展示室の,ほぼ全景.右手の壁面からスタートして,室内をジグザグ状に巡るのが正しい順路だそうだが.

実際には目移り著しく,想定とは異なる迷走状態となりそうである.けれど,それはそれで,正しい企画展の観覧方法の一つだとは思う.一巡してから,振出しに戻れば,新しい視点で眺めなおすことができるわけだし.
 気になるならば,展示説明書きの“序章”から“第一章”“第二章”と巡れば,間違いはない.
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第一章では,実は判然としていない,開業時点での新橋停車場の,もっとも古い時期のものと思われる絵図面が展示されている.出典は兵庫県の九鬼家所蔵図面である.

九鬼家図面といえば,レイルNo.105で中川常伸さんが纏められた“有馬線で使われた機関車とその現況”に登場する鉄道技術者の旧宅に収蔵された図面を思い出す読者も多いだろう.
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新橋駅模型.この模型の見どころは,駅本屋もさることながら,約151mと推定されるホームの長さにある.単なる都市間鉄道ではなく,最初から長距離幹線鉄道を企図していたことが,一目で解るのだ.実は新橋駅の開業時の図面は未発見で.九鬼家文書などの文献と発掘された遺構から推定するしかないようなのである.

展示は横浜桜木町の様子も解説し,そのあと,車輛編に移る.最初の10輛の機関車についての簡潔な,しかし間違いのない説明と写真,そして150形原形と160形の1/80模型も展示されている.
 そしてその横にはバルカンファンドリーの銘板が.150形のものであるのは明らかだが,鉄道博物館で製作されたレプリカだろうと,念のため確認したら,担当学芸員である馬場菜生さんが“本物ですよっ!”と…….
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バルカンファンドリー 製造番号614の製造銘板.本物である.

そして列車は走り始める.
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駅の情景や列車を描いた錦絵が展示室中央のガラスケースに展示されている.これも複製ではなく,オリジナルとのこと.照明が暗めの設定になっているのは,主に錦絵が光によって劣化するのを防ぐためだという.

これらの錦絵は,鉄道博物館収蔵品ではなく,個人蔵とのことで,そういわれてみれば,褪色しやすい赤をはじめとして,色が本当に鮮やかなまま保存されているのが,感激ものである.
 なお錦絵は会期途中で展示替えが行なわれることになっている.繰り返し訪問しなくちゃである.

そして,本当の最終章,しめくくり的に,レイルNo.117でお目に掛けた,松鷹文庫の高輪築堤を走るA8牽引列車と,初代品川駅に停車中する8または9号機の第2次改造前,後の190形の写真が掲げられている.印刷に使ったデジタルデータからのプリントだから,レイルでご覧になった方にも,改めて見ていただく価値は充分以上にあると思う.

旧新橋停車場鉄道歴史展示室
会 期 2022年7月20日(水)~2022年11月6日(日)
会 場 旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
〒105-0021 東京都港区東新橋1-5-3 電話 03-3572-1872

開館時間 10時-17時(入館は閉館の15分前まで)
休館日 毎週月曜日(ただし祝祭日の場合は開館で翌日休館)
入場料 無料

ということで,地元に的を絞ってコンパクトに,しかし密度は充分以上に高く纏められたこの企画展,どうぞお運びくださいませ.

と,思っていたら,とれいん8月号“伝言板”でも掲載した,大宮の鉄道博物館で7月23日に開幕する企画展“鉄道の作った日本の旅150年”のご案内を,改めていただいた.

会期:2022年7月23日(土)から2023年1月30日(月)
   ※前期:7月23日(土)から10月24日(月)
   ※後期:10月29日(土)から2023年1月30日(月)
会場:鉄道博物館 本館2階 スペシャルギャラリー
入場料:無料 ※鉄 道博物館の入館料のみ
 昭和20年8月15日当日の東北本線一ノ関-尻内間の実際に運転された列車状況など,これまで知られていなった資料が存分に展示されることになっている.


注:展示室内は撮影禁止です.ここに掲載した写真は,事前に東日本鉄道文化財団の許可を得て撮影したものです.

※2022.07.27:担当学芸員さんからのご指摘により一部修正.