今年ももう9月下旬.次のNo.124の予告も公表したところでの,No.123のご報告である.

今回の第一テーマは,なんといっても“セノハチ”.山陽本線の瀬野と八本松の間の,いわゆる“セノハチ”.この区間の勾配への挑戦については,昭和の初めのC52投入から現在のEF210-300番代まで,連綿と語られ続けている.
 今回は昭和30年代半ばから電化完成寸前まで,個性豊かなD52たちが最後の輝きを見せていた時代の写真と物語である.
 写真と文章を披露してくださったのは相澤靖浩,宇田賢吉,三品勝暉,そして八木邦英のみなさん.いずれも昭和30年代に青春時代真っ盛りだった,熱烈な蒸気機関車ファンである.なかでも宇田さんはこの区間で蒸機の加減弁を握ったエキスパート.
 写真が超一級であるのは間違いないが,お話も最高に密度が濃い.巻頭から60頁に亘って繰り広げられたグラフと文章によって,読者は濃い煙に巻きこまれることだろう.

そんな中から,ちょっと趣の変わった写真を1枚.トリミング違いで表紙と11頁に掲載した,三品さん撮影の,昭和35/1960年3月の瀬野機関区風景をお目に掛けよう.
 僕には,力闘が展開される中で,ほっと一息つかせてくれる,優れた清涼剤と感じられた情景だった.無理をお願いして,トリミングを違えて表紙に使わせていただいたのは,そんな理由である.
ネガ№1007瀬野駅
この風景で不思議なのは,背景に写っている代用倉庫.どう見ても足回りを失った“だるま”なのだが,車体は木製ではなく鋼製.昭和30年代といえば,まだまだ,木製のワム3500なども現役として大活躍中の時代.そんな時に鋼製貨車が代用倉庫って…….なお,トリミングは表紙とも本文掲載写真とも異なり,有蓋貨車の車体に焦点をあてている.写真:三品勝暉

最初はワ12000と思ったのだけれど新しすぎる,ではワ22000かしらとも思ったのだけれど,扉が違う…さらに観察してみれば側板のディテールからはワム23000ではないかという結論に達した.しかしこれとてデビューは昭和13/1938年だから,もったいないことには変わりない.どういういきさつだったのだろうか.今となっては全てが謎の中であるとは思うが.

紹介したい写真はたくさんあるが,ここではもう1枚だけお目に掛けよう.
相澤A37
相澤さんが遭遇した,D52の重連牽引貨物列車.セノハチの重連といえば後補機が頭に浮かぶのだが,希にはこういう運用もあったそうである.昭和35/1960年1月1日 写真:相澤靖浩

第2テーマは,佐藤久さんのアルバムから,国鉄パシフィックキのハイライトシーン.昭和一桁の秋田から昭和29/1954年の小倉まで.セノハチの力強さに対して各地の優美なパシフィック機をお目に掛けた.その中で白眉は…….
018_67
上越線渋川付近の利根川橋梁を駆け下るC57.今も変わらぬ名撮影地の,もっとも古い時代の写真かもしれない.なにより雪をかぶった山々と客車の取り合わせ,そして手前の道路橋…大正橋…の欄干を取り込んでの構図は,とても偶然の産物とは思えない.印画紙からの製版なので紙目などがでているが,そんなことは問題ではなく作品に惹き込まれてしまう.昭和22~23/1947~1948年頃 写真:佐藤 久

そして締めくくりは西 和之さんによる,英国式100フィートポニーワーレントラス桁の考察と観察.

明治初頭から末年頃まで,170連もの多くが普及したこのトラス桁.数が多かったからといってしまえばそれまでではあるものの,今もなお22連もが現存し,鉄道橋として現役の桁も5例あるということに,まず驚かされる.
 西さんはそれら現存ずる桁のひとつひとつ観察し,時代とともに変化した様子を把握し,改造の経緯や手法までもを,理論立てて類推してゆく.
 車輛の歴史を辿る趣味的研究では,古い時代の写真から判明することが多いけれど,橋桁そのものの記録写真が,それほどたくさん遺されているとは,とても思えない.
 そのご苦労はいかばかりか…….あ,いやいや,それこそが趣味の醍醐味ではないか.さらに西さんの稿は,橋梁について詳しい知識を持たない僕のような者にも,とても解りやすい構成と文章で纏めてくださっている.それが,なによりも嬉しいことである.
05伊達橋200ft_DSCN9932
道路橋として現役の国道399号線“伊達橋”.100フィートにしては長いではないかと思われたあなたの目は正しい.昭和53/1978年になって3連の100フィート桁を大改造して誕生した200フィート桁なのである.100+100=200ではないのか? はい,違います.その理由は,本文で,ぜひ!平成29/2017年9月8日 写真:西 和之

現役の鉄道橋としては,なんといっても神戸電鉄の加古川橋梁が立派だと思う.鮮やかなブルーに装われた2連の桁を,最新のインバータ制御電車が渡っていく姿は,ぜひカラーでお目に掛けたくて,裏表紙用として,追加でご提供いただいたものである.
DSC_6116
平成の電車が明治の桁を駆け抜けて行く.時間の積み重なりを実感できる情景である.神戸電鉄加古川橋梁 令和3/2021年9月30日 写真:西 和之


ということで,駆け足でレイルNo.123をご紹介した.
 次のNo.124では,煙三昧から一転して,ヒギンズさんの私鉄電車が第1テーマである.後半には蒸気機関車に関する稿を2編掲載しているが,いずれもが,これまでにない経緯と切り口によるものである.乞ご期待!