さて,新しい年を迎えて早くも10日が過ぎようとしているが,元旦に神田方面へ出掛けた以外は,住まいと会社の往復が続いている.これまた,40年も続く月刊誌編集屋の宿命である.
 ということで,昨夏,久し振りに訪れた国鉄奈良駅本屋の今をご紹介しようと思う.

国鉄奈良駅の本屋といえば,寺院作りの風雅な建物を思い浮かべる人が,いまでも多いことだろう.しかし現実には,もう10年も前に奈良駅が高架化され,現役を引退しているのだ.
 僕が前回,奈良駅を訪問したのは平成17/2005年の晩春のこと.5インチゲージで製作された,本当にエンジンで回転させたプロペラで走るレールカー“シーネンツェッペリン”を取材するために法隆寺の小川精機レイアウトを訪ねた時である.だからもう10年近く経つことになる.その取材結果は,同年9月号(通巻369号)に掲載した.扉ページがプロペラのクローズアップだったから,普段は庭園鉄道に縁の薄い方でも記憶してくださっているかもしれない.

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中村常明さんが製作された,5インチゲージの“シーネンツェッペリン”.小川精機の星型エンジンを動力源としてエンドレスを快調に走っていた.日付は5月8日だった.デジタルカメラのデータは,こういう時に便利である

さ て本題.その頃の奈良駅は,高架化工事が本格的に始まったところだった.昭和9/1934年の建築である2代目駅舎は役目を終えてまだ間がなく,奈良機関 区(運転所)は跡形もなかったものの,駅構内はすべてまだ地上で,中学生のころにD51やC58,C12を見るために初めて奈良駅に降りたった頃の面影は 充分に偲ぶことができた.
 それから9年.目に馴染み深い駅本屋は,ほんの僅かに位置を移していたものの,美しく整備されて健在だった.

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旧駅本屋の外観.バックはホテル日航奈良.左手では奈良市の事業としての駅前広場整備が始まったところだった.

“奈 良市総合観光案内所”という表札の掲げられた扉から一歩中に足を踏み入れてみたら,そこには,新築直後かと見紛うばかりに復元整備されてた天井や壁や床 や,そしてそれぞれの装飾が出迎えてくれた.しかもこの建物は,東西の自由通路の一部ともなっていて,地元の人が,普通に往来している.早くも町の風景 のなかに取り込まれようとしているのが,とても好ましく思ったことである.

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みごとな壁と天井と柱の装飾.現役時代は意識して観察するチャンスに恵まれなかった僕には,とても新鮮.

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そして駅南に位置する宿から見た高架の新ホーム.ホテル日航奈良の手前に拡がる西口駅前広場あたりに,かつての扇形庫があったのではないかと思う.それでこの宿の立っている場所は,貨物扱所だっただろうか.

まだ完成までには少し時間が掛りそうな国鉄…JR奈良駅の周辺.次に来る時には,さらに魅力溢れるエリアになっていて欲しいものである.