福井鉄道の福武(ふくぶ)線といえば,なんといっても連節車モハ200形が憧れの存在だった.現役時代最後の邂逅は,2013年7月.えちぜん鉄道へ移籍した,元のJR東海119系を取材中のことだった.
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田原町から発車待ちの一瞬.先頭はモハ203-1.入庫のための回送だったのが実に残念だったけれど,あわただしい取材の合間の偶然だから,贅沢はいえない.2013-7-23

この時点で既に,福井鉄道オリジナルの古豪はおろか,静岡鉄道から譲り受けた300形も引退し,主力は名古屋鉄道岐阜軌道線からやってきたモ780とモ880に代替わりしていた.

そればかりか,福井鉄道とえちぜん鉄道三国芦原線との間で実施される予定の相互直通運転用として,新潟トランシスからADtranzタイプの連節車F1000形が既に搬入済みで,もしかしたら営業運転開始直後だったかもしれない.けれど,僕は遭遇することができなかった.
 2016年3月から,相互直通運転はスタートした.けれど福井訪問のチャンスはなく,7年近くを経過した2023年2月,ようやく再訪を果たすことができたのだった.
 目的は,次世代の主役となるだろう“FUKURAM LINER”ことF2000形のお披露目.
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お披露目の場である北府(きたご)の車庫へ向かうために福井城址大名町の駅で電車を待っていたら,反対側に到着したのがF1000形だった.オレンジに装われた第1編成である.

午前10時に始まった報道公開では,最初に検修庫の中での“外観”撮影が行なわれた.“できれば屋外がよいのだけれど……”と思っていたら,なんと,屋根の点検台やピットの下へ降りての“外観”撮影だったのである.
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パンタグラフは武生方に取り付け.東洋電機製造製のPT7158-B.アームは上下とも角パイプ製である.

パンタグラフの周囲には,空調装置はもちろんのこととして,やはり東洋電機製造製の主制御装置RG6053-A-Mをはじめ,ありとあらゆる機器が搭載されている.この艤装のやりくりが,超低床電車の設計に際してのポイントである.
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武生方の動力台車.形式はFS710.定格出力60kWの主電動機を2基取り付けている.福井方台車は形式がFS711であり,主電動機は1基のみ取り付けている.

なお,中間台車にはモーターはない.ボルスタレスで形式はSS17.60kW×3の180kWが,この車輛にとっての最適出力であり,なおかつ主電動機も特注することなく調達することができる出力のものを活用した,というのが,両台車で主電動機の数が異なる理由なのだそうである.

写真で判る通り,この台車には車軸がある.超低床車といえば車軸レスの車輪を使う……というのが“常識”ともいえたが,いろいろな意味で,車軸はあった方が扱いやすい.でも超低床構造には大きな制約となる.それを両立,それも1,067mm軌間で実現させたのが,アルナ車両の“リトルダンサー”シリーズである.
 その始まりは鹿児島市電の1000形.続いて伊予鉄道の2100形,長崎電軌の3000形……続々と新機軸を採用したライトレール車輛(LRV)が世に送り出された.
 そういえば1000形を取材するために鹿児島を訪問したのは2002年.もう20年前のことになる.時が経つのは早い…….

ということで,このF2000形はアルナ車両製である.

そしていよいよ屋外での車輛外観撮影.
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TV局のために車庫内を何度も往復させながら,折り返し待ちの間に撮影した1カット.福井方から見た全景である.なによりの特徴はエッジの効いた正面の造形.ブルーとグリーンは,現在の福井鉄道の“テーマカラー”である.

写真の行先表示が“たけふ新”となっているのに違和感を覚えるか親近感を抱くか,年代によってそれぞれだろう.僕には“たけふ新”,もっといえば“武生新”が,もっとも親しみのある駅名であるが.
 来春に控えた北陸新幹線の新しい駅が,これまでの福井鉄道の“越前武生”と実質的に同じである“越前たけふ”と決定したことによる“再改名”なのである.そしてその実施日が2月25日!,この日ということなのである.

そして室内.
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オールロングシートである.画面左端に見える跳ね上げ式腰掛けは車椅子スペース.一部の側扉上には,福井鉄道としては初めての情報表示装置が設置されている.中間車大部部分は車輪をクリヤーするため腰掛け部の床が一段高くなっている.
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運転席.マスコン・ブレーキハンドルは左手操作式.メーターはアナログ指針式.各部に鏡が取り付けられていて,安全の確保に配慮されていることが判る.

運転席の床面は,台車のスペースを確保するため客室より一段高くなっている.しかし,実質的には“完全”超低床車といってよいのではなかろうか.

こうして新車の取材は終わった.駅へ戻る途中,復元整備作業中のモハ200形とご対面.まだ正面のシンボルが取り付けられていなかったりはするものの,ほぼ完成状態に思えた.
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福井方から見たモハ200形.こちら側はモハ203-2である.春にはお披露目の予定だという.楽しみ!

満ち足りた気持ちで福井へ戻る途上,往路で気になっていた,赤十字前……聞き覚えのない駅名だ……元の福井新だった……に留置中の木造電気機関車デキ11を,ちょっと観察.そういえばこの車輛,2軸単車をボギー台車に取り替える(!)という大改造が施されているとはいえ,もとはと言えば福武電鉄が1923年に梅鉢鉄工所に作らせた車輛なのだから,立派な“生え抜き”ではないか!それも,引退を迫られながらしぶとく生き永らえている強者!
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運転室部分は鋼板製だが,中央部は木造である.側扉もあって電動貨車の趣きであり,実際,新造時はそうだったらしい.でも今ではデキ10形11という,電気機関車である

ということで,さらに気分をよくして,福井駅方面へ向かった僕である.F2000形が営業運転に就役したら,きっとまた福井へ来る!

※2023.03.06:新幹線駅名訂正