東京の万世橋といえば交通博物館……という常識は,残念なことに薄れつつあるようだ.無理もない.閉館してから7年.大宮で鉄道博物館と名を変えてオープンしてからでも6年の歳月が流れた.
 秋葉原へは用事があっても,そして須田町へ出向くこともあるけれど,その間の万世橋を渡る機会は,めっきりと減った.
 けれどこの9月,万世橋の高架線が再び身近な存在になろうとしている.“mAAch ecute(マーチ エキュート)神田万世橋”と名前を変えて.
 交通博物館跡地再開発の一環としての商業施設なのだけれど,現役の煉瓦造り高架橋をうまく活用し,博物館…もとを辿れば万世橋駅の遺構を保存するという方策が採られたのである.
 再開発のことは,平成22/2010年4月8日のここでも採り上げていて,完成予想図も掲載した.

それから3年.ビルは“JR神田万世橋ビル”として既に竣工しており,引き続いて高架線下の整備に取り掛かったというわけである.この高架線下こそが交通博物館の主展示場だったわけで,東日本鉄道文化財団のプロデュースによって,どのように整備されたのか,7月19日の報道公開には興味津々で駆けつけた.
 その折の様子は,実は今月発売のとれいん9月号“Coffee Cup”で紹介しているのだが,ここでは,本誌で触れることができなかった部分について,補足してみたいと思う(順序が逆だって?それは………).

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昌平橋から見た万世橋高架線.真正面にそびえるのが,JR神田万世橋ビル.20階建のオフィスビルである.四隅の茶色が煉瓦を連想させるほか,内装には自然 石が使われていたりして,万世橋駅をイメージしたデザイン.高架線側壁の下縁に張り出しているのが新設された親水デッキ.高架線下の商業施設通路と合わせ て回廊を構成している.

今回の整備の目玉のひとつは,九万世橋駅ホームまで自由に上がることができること.そのホームへの経 路は,駅開設時に造られた西側の階段と鉄道博物館開設時に造られた東側の2ヵ所.それぞれ構築年から,前者は“1912階段”,後者は“1935階段”と 名付けられた.ホーム上はガラスに覆われた展望デッキとして公開,一部はカフェテラスとして整備される.

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1912階段の踏段と側壁.踏段は茨城県産の御影石,側壁はタイル.タイルの目地は装飾性に富んだ覆輪目地.側壁基部の石にも装飾が刻まれている.

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1935階段.こちらの踏段はコンクリート製.側壁はタイル張りだが目地は通常工法.ガラス越しではあるが,行き交う中央本線の列車を眺めることができる.カフェテラスではゆっくりお茶を楽しみながら…….完成後しばらくは大混雑が予想されるが.

そ のホームの真下は,博物館の展示スペースとして使われていた時には漆喰やモルタルなどで覆われていた煉瓦が,若々しい肌を70年振りに見せてくれている. ここには10数軒の商業施設が展開することになっているが,配線などはすべて床下を通し,壁面は煉瓦と,耐震補強のために新たに打たれたコンクリートが, 不思議な調和を見せている.扉や窓の枠をアルミではなく鉄としているけれど,これも煉瓦を意識したデザインの一部だという.

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商業施設予定地.通路は不思議な形だが,補強のためにコンクリートが打たれているだけで,形そのものはオリジナルのまま.窓や扉の枠は鉄製.煉瓦は画面右外の壁面で見ることができる.

そして高架線とビルの間の公開空き地には,初代と二代目の万世橋駅舎,そして博物館の建物の基礎を“遺構サークル”や,“知る人ぞ知る”的なレールのオブジェなどを見ることができる.詳しい説明は本誌をお楽しみに……いや,現地を訪問していただければと思う.
  そして,僕が本誌に先行してこのブログでこのマーチ エキュートを紹介した理由,それは……“ビールアーチ”.期間限定,8月18日まで,公開空き地にビ アテラスが設置されているのだ,平日は17時から22時,土曜日は12時から22時,日曜日は12時から20時までの営業.明治の煉瓦を愛で,現代の中央 線電車を眺めながらの一杯.きっと乙なものだろう.詳しい案内は,マーチエキュートウェブサイトをご覧いただければ幸い.

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ビールアーチは,公開空き地のほか,高架下にもスペースを確保.交通博物館や万世橋駅を偲び,煉瓦とコンクリートの組み合わせに時の流れを実感しながら寛ぐことができる.ただし,8月16日までの限定!

そしてさらに,8月10日と17日には,東日本鉄道文化財団によって,先行体験会が実施されるというではないか.これも,見逃すテは,ない!