※本日は,いつもの倍ぐらいの長さがあります.お含みの上,お読みくださいますよう,お願いします.

今日の昼前,横浜の総合車両製作所横浜事業所で,同社の新ステンレス車輛ブランド“sustina(サスティナ)”の国内向け第1号車として東急電鉄5050系サハ5576が披露された.
 このsustinaとは,本誌昨年11月号の “いちぶんのいち情報室”でも報じた通り,同社が開発した,新しい設計手法によるステンレス車輛に与えられるブランド名.“sustina”とは,ステン レス鋼の略号である“SUS”と,ステンレス車体の特徴をよく表す“支持できる,維持できる,もちこたえられる,耐えうる,環境を破壊しない,持続可能 な”という意味を持つ“sustainable”から作られた造語だそうである.

さて,今日の完成記念式典は,案内を頂いたのが一昨日の夕 刻.実は5月号の締切間際なのでちょっとだけ迷ったけれど,新工法による車輛がどんなものか一刻も早く知りたいという欲求が圧倒的に上回ったので,繰り上 げが可能な仕事を夜なべで仕上げることにし,“伺います”と返信したのだった.

それはさておき総合車両製作所.昨年8月の,E657系の出場式以来の訪問である.
  それで,東急車輛製造の時代にスタートしたこのプロジェクトの最初の果実は,どの鉄道会社向けのどんな車輛なのか.それは“当日までのお楽しみ”だったの で,ワクワクドキドキしながら工場に近づくと,見えてきたのは,一見,これまでと同じに見える東急5050系である.???と思っていたら,先に到着して いたD社のSさんが“中間の1輛だけ,形が違うんですよ.きっとそれじゃないかと思うんですけど”と.本当は人の会社の中なんて,覗き見ちゃいけないのだ けれど,見えてしまうものはしょうがない,ということで観察.確かに違う.
 でも,どこがどのように違うのかは,説明されるまで判らない,“ひみつ”.

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ということで,総合車両製作所社長,宮下直人さんの号令一下,白い布の向こうに見えたのは,1輛だけ,これまでとは全く違って見える東急5050系.さて,どこが?

通 常の量産車の間に新機軸車を挟み込むという手法,昭和53/1978年の軽量ステンレス構造試作車デハ8400形8401と8402を思い出してしまっ た.8000系の編成に組み込まれた全く断面が異なる2輛は,本当に異彩を放っていたものである.この2輛が,後の8090系で結実し,さらに広く日本中 に増殖することになるのである.

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サハ5576の外観全景.先ずは雨樋に注目.これまで車体から大きく出っ張っていた5050系の雨樋だが,側板とほぼ面一になって,往年のモハ72系920 番代を彷彿させる.その分,屋根カーブの端と車体との接合部の処理が,模型化には課題となりそう.ちなみに,この構造変化によって,これまでは少し上すぼ まりだった5000系グループ(JR東日本のE231やE233などのうち東急車輛製造製や新津車両製作所製も同じ)の車体断面は,普通の垂直に戻ってい る.

一方妻板は,これまでは平板だったのに対して,縦にビードが走っていて,ちょっと川崎重工製E231,E233を思わせる外観となった.屋根は,詳しい寸法は未確認だがこれまでと同じようにビード付きの板が張られている.
 側板だが,熔接方法がスポットからレーザーに変更されたことによって,幕板と窓下の継目が姿を消した.
 パーツでは側窓や側扉の縁取りがなくなった.開口部の寸法がこれまでと違って見えたが,それは気のせいで,同寸とのこと.

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側板と側扉と側窓のクローズアップ.窓と扉の縁取りがなくなったので,すっきりした外観となった.台枠との接合は引き続いてスポット熔接となっている.

技 術的には,車体の基本的骨格から新たに構造計算して大幅な軽量化を実現したこと,レーザー熔接の採用によって水密性を向上(同時に気密性も向上する)させ たこと,製造工程を効率化したことなどによって,製造と保守のコストをともに大幅に削減したことが画期的だとのことだが,趣味的にはどうしても目にみえる “カタチ”に目が向く.
 内装ももちろんその“目が向く”対象のひとつ.室内に入って最初に見えるのが“ロールバー”.これも特徴のひとつとされ ている.どのように,なのかといえば,万が一の側面衝突事故に際し,このロールバーによって車体の破壊を大幅に軽減し,乗客の生存空間を少しでも確保す る,というのが目的なのだそうだ,

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まるでレーシングカーのような“ロールバー”は,袖仕切り(これも新デザイン)から握り棒を兼ねて上に伸び,枕木方向の吊り手ステーを兼ねて通路上空を通 り,反対側の袖仕切りまで客室上部を巡っている.荷棚の上部で分岐しているパイプは内張りではなく構体上部に直接接続させることで強度を確保している.そ してこのロールバーは,車端部を除く6ヵ所に装備している.車端部は妻板と隅部の強度を向上させることによって生存空間を確保することができるため必要が ない,とのこと.室内照明は蛍光燈タイプのLEDを採用.画面左中に嵌め込んだのは,ロールバーから分岐したパイプが幕板部の内装材を通り越して骨格に直 接固定されている様子.荷物棚のデザインと構造も新しい.その下に嵌め込んだのはsustinaのロゴ入り製造銘板と車号銘板.

側扉の窓には扉本体との段差をなくし結露を防ぐために複層ガラスを使っている.これは最近の5000系シリーズやE233系も同じだが,それ以外の内装も,例えば荷物棚に見られるように,さまざまな工夫を凝らして美観の向上と製作コストの削減を実現している.

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そして式典後に催された記念写真撮影会.写っているのは,発注主としての東急電鉄の人々,総合車輛製作所の幹部,そしてなにより,2年前からこのプロジェクトに取り組んできたチームの皆さんである.

この5576を含む5050系5176×8の編成は,本誌4月号の “甲種・特大 運行計画”にある通り,4月16日に逗子を出て長津田に向かう.その後,sustinaの性能確認や各種試験を行なった後,5月中旬には営 業運転に投入される予定となっている.早く営業線で走る姿を見たいものである……西武池袋沿線に住んでいる僕にも,乗れるチャンスが,日常的に,ある!  時代は変わり行くものである.