“とれいん11月号”や,弊社ウェブの新刊案内をご覧いただいた方は既にご承知のことと思うが,川上杜人(かわかみもりと)さんの写真集が出来上がった.
本の完成が発売のお知らせと同時になったにもかかわらず,模型店を中心として,早くもご注文がたくさん舞い込んでいて,担当者としては本当に嬉しい.
さて川上杜人さんといえば,日本型軽便鉄道の車輛やレイアウトセクションの名手として記憶しておられる方が多いと思う.だから今回の写真集も,“軽便鉄道の写真集ですか?”と問い返されること,しばしばであった.
けれど川上さんによれば,
“違うんですよ,私は鉄道写真撮影が元々の趣味であって,模型は,国鉄の現役蒸気機関車がなくなってしまったから,次の趣味としてスタートしたものなんです”
だそうである.
実際,形式シリーズのD51(申し訳ないことに今では絶版状態だが)には,川上さんが撮影された写真が何枚も掲載されている.
津和野の街角を行くD51.今回の本のカバーを飾っている写真だが,実は昭和57/1982年12月に発行された形式シリーズD51の第3巻91頁が初出.
川上さんから“写真集を出版したいのだが”と相談を受けたのは,もう2年前のことになるだろうか.ちょうど松木壽雄さんの写真集“山形の鉄道情景(上) (下)”が組み立て段階になっていて,単行本のチーム(といっても,僕とDTP担当の脇と秋山の合計3人なのだが)の手が詰まりつつあるところであった.その後の松木さんの本の進行については,上巻が出来あがって間もない平成23/2011年9月23日のここで記した通りの事情で,予定よりだいぶ遅れての刊行となったわけで,その影響は川上さんの本にも大きく影響を残すことになったのだった.
蒸機を求めて北から南へ……といっても,遠征ばかりではない.当時としては身近な路線の風景も気合を入れて撮影されている.お目に掛けるのは昭和45/1970年7月,八高線の高麗川橋梁.当時普及しつつあった“自家用車”とそのオーナー家族がさり気なく画面に活きる.
年が明けて今年の春,毎年恒例の“欧州新製品情報”の纏めを終えた4月から本格的に着手,月刊誌やレイルの編集の合間を縫いながら川上さんとのやり取りが頻繁に続き,8月にはようやく纏まったのだった.目標は東京雑司が谷で開催される,川上さんのお仲間による“鐵樂者写真展”に間に合せて,そこで販売開始! だったのだが,惜しいところで間に合わず,ならば,ということで,奥付を10月14日の鉄道記念日にし,今月の発売となったのだった.
弊社としては,実質的に初めての経験となる個人出版写真集のお手伝いだった.基本的な作業は通常の単行本と同じではあるものの,あくまでも川上さんのご本ということで,僕自身は裏方に徹したのだった.いや,そうするのが,当然のこと.
価格も,川上さんの強いご希望を反映しての設定である.だから,通常の出版物とは,全く異なる計算方法となった.
写真の仕上げについては,川上さん自身が引き伸ばされたプリントをたくさん用意してくださったのを参考にしながら,主に脇が作業したのだが,最後の最後で“目から鱗が落ちる”ような閃きがあったらしく,さらに仕上げに磨きがかかった.
その結果は……現物を手に取っていただければ,すぐに理解していただけるだろう.
完成した本をご覧になった川上さんから“すごくいい!全部の写真が気に入った!”とのお言葉をいただいた時には,本当にほっとしたものである.
とはいえ,レイルと違って,一般の書店には配本されないから,そんなチャンスが少ないのは申し訳ないことだが,撮影者自身の“満足した”という感想からご想像いただければ幸いである.
風景写真ばかりではなく,機関車の逞しさや優しさを捉えた作品も随所に配されている.雪の小樽築港機関区で休むC62 3.“おやすみ”という題名が,いかにも川上さんらしい.