6月6日朝9時前,東武鉄道浅草駅は,時ならぬ熱気に包まれていた.外国からの観光客による賑わいは,この春以降再びの日常風景となりつつあるわけだが.それとは全く異なるオーラを発する人々が100人近く…….そう,SPACIA Xの試乗がお目当ての,報道関係者である.

このSPACIA XことN100系電車のことは,2年半前のここで,その構想を採り上げたのを皮切りとして,インテリアデザイン発表とそれに続いてモックアップによるインテリアの展示会が催され…今年の4月には,いよいよ現車のお披露目が行なわれた.昼間の試運転も間もなく始まり,松本フォトグラファーが春の風景を走るこの電車の姿を届けてくださった.
 そして.
 営業開始を,ほぼひと月後に控えた6月6日と7日の2日間に亘って試乗会が催されたという次第.あぁ,前置きが長い.

前置きばかりか,本編もすっかり長く大幅の紙数オーバーとなったので,そのおつもりでお付き合いいただけると幸い.
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10時16分,待望の列車が姿を見せた.画面左側は,SPACIA Xの専用ホームとすべく大改装中の5番線.

試乗会といえども,車庫で撮影することが叶わなかった部分写真や,窓の外に沿線風景が映り込んだインテリアの取り合わせなどの撮影も課題であり,贅沢な座席にふんぞり返っているわけにはゆかない.
 しかも,なにしろ“たったの”6輛編成に100人近くの人たちが群がって取材するのだから,きめ細かな時間管理が必須である.東武鉄道の広報部のみなさんの“腕”は,南栗橋での撮影でも大いに実感していたから,まったく心配はしていなかった.
 そしてその“腕”は,今回も存分に発揮された.
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僕たちが最初に割り当てられたのが6号車.コックピットスイートと個室のある車輛である.写真は,折しも隅田側の中路トラスを渡り切らんとするタイミング.

このチャンスは9分間で終了し,続いては1号車のコックピットラウンジ&カフェなのだが,こちらは新大平下を過ぎてから.約50分間の余裕がある.そこで,その間に,南栗橋で見逃したシーンがないか,車内を探索.
 同時に,あちこちで腰掛に座ってみて,各号車ごとの走行音や揺れ,座り心地そのものを少しずつ味わってみる…….
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交通系ICカードを使ってロックする大形荷物置き場も体験してみる.ボタンを押してカードをかざして…ロック!同じことを繰り返してアンロック! “テタレ(手のモデルさん)”はRJ社のTさん.
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プレミアムシートの電動リクライニングやテーブルの大きさなども再検証.背摺のさらに外側に“バックシェル”構造の外皮(?)が.これのお蔭で,思いっきり背摺を倒しても後ろの人に圧迫感を与えずに済む.
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カフェカウンターでクラフトカフェとクラフトビールをサーブするスタッフ.

この試乗の翌日,カフェカウンターの名称が公表された.名付けて“GOEN CAFE SPACIA X(ゴエンカフェ スペーシアエックス)”

そして,このゴエンカフェスペーシアエックスで用意されるアイテムの詳細も発表された.それによれば,珈琲は“日光珈琲”,ビールは“Nikko Brewing”のブランドで提供され,それぞれにオリジナルのアペタイザーやスイーツが組み合わせられる.
 そのほかに車内限定パッケージによるスイーツや日本酒,コーラなども多数用意される.
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酒粕のジェラート.どんな味のコンビネーションが口の中で展開するのだろうか.写真:東武鉄道
ホット珈琲と羊羹
羊羹といえば淹れたての日本茶と思い込んでいる,頭の固い僕には,これも異色の取り合わせ.家人に聞けば“最近のトレンドだよ”だそうだが.写真:東武鉄道

そしてあっという間に東武日光へ到着した.
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本来なら留置中は尾燈となるはずのストップ側ながら,ご配慮で前照燈,それもハイビームにしていただいての撮影となった.

さて,試乗はここまで.でも,せっかく日光まで来ていながら,そのまま戻るのもつまらないだろう,と,東武広報と日光の地元の人々は思ったのだろう.オプションのプレスツアーが用意されていた.そのひとつが,日光金谷ホテル見学.
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本館入口.用意されたヒストリーブックで知ったのだが,最初は2階建で,のちに3階建となったこの建物,上へ,ではなく,地面を掘り下げて3階建にしたのだそうだ.

なぜ?を解く鍵は隣りにある別館にある.地形の関係から,この別館の1階と,本館の2回の高さが異なっていたのを揃えるために地面を掘った……なんという発想の転換.
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その別館,7月15日(SPACIA X運転開始の日!)の完成を目指して大幅改修中.銅板葺きの屋根が眩しい.

この改修ではエレベーターが新設されるほか,一部の客室で床面積の拡張をはかり,客室22室の“別館ROYAL”と名付けてのオープンになるという.
*1)なお日光金谷ホテルと東武鉄道では,このリニューアル竣工当日の7月15日発で,東武トップツアーズの企画として“スペーシアXコックピットスイートに往復乗車して日光金谷ホテル 別館ROYAL・スイートルームに宿泊”というツアーを限定おとな2名(1組)で募集している.申込期限は6月16日(あと1週間だ!).トップツアーズの特設ページで申し込みを受け付けている……という案内をいただいていることを失念していて,今朝(9日)になって思い出したので追記.東武日光到着後は日光金谷ホテルによる至れり尽くせりの,おもてなしが待っている.浅草発着で,おひとり様150,000円.読者の皆様に,お薦め!
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今や日本では貴重品になった回転扉の脇でお客様の動きを見守る総支配人.約30分を掛けての館内ツアーで,もっとも印象に残ったシーンだった.

いや,もちろん建物そのものや調度品などには以前から大いなる興味を持っていたし(だからこのツアーに参加した),いずれも溜め息の出る品格(ちょっと変な日本語?)であったのは当然のこととして,である.

そして次は……
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金谷ホテル創業150周年記念ランチ.“ランチ”といったって,昼のフルコースである.お一人様10,000円.

なのだが,“ミニチュア版”がワンプレートに仕立て直しの上で用意された.
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左奥から,伝統仕立てコンソメスープ ロワイヤルを浮かべて,日光虹鱒のソテー 金谷風,とちぎ霧降高原牛 フィレ肉のステーキ ペリグーソース.手前左から金谷ホテル自家製キャビア&熟成ジャガイモのピューレ,キルシュ風味のクレーム・ブリュレ 明治時代のレシピ“プディング・ド・金谷”を再構築して……そして奥が百年ライスカレー 薬味添え.

日常の料理とは全く別世界の,素材(食材などとは呼びたくない)のあしらい方や味付けの技の片鱗を味わうことができた,至福の午後であった.でも,どうせならフルサイズで味わいたい……金谷ホテルに泊って………(理想は,だけどね…とは家の中からの).
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そして家路の旅は,“日光詣”仕立ての新宿行きスペーシアだった.古い友や新しい若人などとともに,至福の2時間を楽しんだことである.

※2023.06.09:一部記述修正及び7月15日のツアーについて追記