とれいん6月号のMODELERS FILEは,JR北海道に登場した新形電車737系だった.これまでも,例えば最近では昨年5月号で新形除雪車キヤ291も紹介しているが,僕が自分で北海道へ出かけての取材は,本当に久し振り……2007年11月号での“北海道特集”以来となった.この機会に道内各地を巡って……とまではいかずとも“あそこもここも”と,行きたいところはたくさんある.それぞれについて,プランだけは考えたけれど,実際には前後の日程その他の事情により,最低限の滞在に留まった.
 札幌滞在の最終日は遅い飛行機を予約していて,しかもチケットの加減で変更は一切不可である.だから,まっすぐ空港へ向かうのはつまらないとばかりに,函館本線の岩見沢まで足をのばしてみた.10数年前には暫定開業だった岩見沢駅の“古レール製”駅本屋を観察してみよう,という目論見である.

この駅本屋については,北海道特集の次の号,12月号でRAIL ARTという不定期連載のテーマとして紹介した.
 その時点では,最初にお話した通り暫定開業であり,完成にはしばらく時間を要するとのことだった.16年を経て,ようやく実現した,完成状態の“取材”である.
K8B_8388
札幌方から見た駅本屋前景.土台は煉瓦積み“風”の仕上げ.その上の柱が古レールというわけである.
K8B_8396
積まれた煉瓦.いわゆるフランス積みに見えるが,これは煉瓦を縦にして積んでいるから,ちょっと印象が違う.正確にはどういう積み方なのだろうか.刻まれているのは,建設時に実施された“岩見沢レンガプロジェクト”の参加者の名前である.
K8B_8395
そしてレール.実際にこの建物を担っている部材ではなく,あくまでも装飾であるから,普通にいう“古レール製”ではないが,そのように見える,思わせるデザインが秀逸.

札幌方は岩見沢市の施設となっている.そこにはこの建物に関する資料か何かがあるだろうと見当をつけて探してみたら…….
K8B_8535
2階の一角に展示コーナーがあった.この日は選挙の期日前投票が行なわれていて,写真はちょっと気が引けたのだが,係の人の“どうぞどうぞ”というご厚意に甘えて撮影させていただいた.

壁面にはこの建物の由来やレールについての解説があり,レールにちなんだ話題として,北海道新幹線の整備概要や青函トンネル内のレール敷設方法に関する展示も行なわれていた.

展示コーナーの前には6本のレールが説明付きで展示されている.

その6本とは,1890年の北海道炭礦鉄道向けクルップ製,1900年の北海道官設鉄道向けカーネギー製,1902年のキャンメル製,1903年の北海道鉄道向けボーフムバーロウ製,1903年7月の北海道炭礦鉄道向けボルコウ・ボーン製,そして2601年の八幡製鉄所製である.
K8B_8543
英国イングランドのレールメーカー.北海道では留萌の駅の上屋柱と幌延駅の跨線橋に使われていた例が報告されている.そういえば留萌…….

このあたりの講釈は,例によって“古レールのページ”に全面依存である.

ちなみに,この展示コーナーには,駅本屋に使われている全てのレールの銘についてのパンフレットが用意されていた.労作である.

岩見沢駅の古レール.駅を跨いだ駅の北側にも使われている.その北側には,煉瓦造りの古い建物がある.岩見沢レールセンターというか,さらにたどれば北海道炭礦鉄道岩見沢工場の建屋である.その証しとして,各所に五稜星のマークが残されている.
K8B_8510
南面から見た建屋の全景.この建物の価値が高いと思う理由のひとつとして,今もなお現役として使われていることを挙げておきたい.
K8B_8410
駅前広場の東端あたり,綺麗な石蔵が気になった.気になったけれど,こちらは煉瓦とレールに気を取られて写真を1枚撮っただけ.家に帰ってから調べてみたら“炭鉱の記憶マネジメントセンター石蔵”という施設なのだそうだ.明治42/1909年の築.次のチャンスには,きっと詳しく見に行こう!

そして駅に戻ったら,というか,降りた時から気づいてはいたが,跨線橋と上屋である.
K8B_8575
上屋の屋根の骨組み.近年の古レールの例に漏れず,銘は塗装の膜が厚くて,残念ながら,ざっと見た限りでは判読できたものは,なかった.
K8B_8587
そして跨線橋.通路の天井に梁として使われているクルップ製レールに説明板が取り付けられているというのだが,うかつにも気づくことができなかった.

地上時代の札幌駅には,随所に古レールの説明板が掛けられていたのだけれど,あのレール群は,どこへいったのか.いや,もしかしたら,一部は,現代の岩見沢駅本屋に,生き続けているのかもしれない.

ということで,わずかな時間ではあったが,久し振りに煉瓦とレールに親しむことができて,幸せ一杯に,帰路へついた僕であった.

※2023.06.28:レール製造所名訂正