数えて22回目となった“国際鉄道模型コンベンション”.今年は8月18日から20日の日程で開催された.
 初日の金曜日は月刊誌当月号の配送などに備えての待機で会場入りできず,土曜日と日曜日の訪問となった.
 会場に到着するやいなや,次から次へ“お久しぶり!”と声が飛んでくる.出展しているブースからも,来場者でごった返す通路でも.来てよかったと思う瞬間である.
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いつものとおり,東京ビッグサイト(国際展示場).その東1ホールを使っての開催.写真は日曜日昼頃の様子.

 この催しは,各メーカーや趣味人たちの展示を巡ることに第一義があるのはいうまでもないこと.それとともに,イベントステージやセミナールームで催される講演を聞いて回るのも,欠かせない楽しみである.
 昨年は,8月20日に開催された宇田賢吉さんによる“電気機関車の運転”を聴講し,本誌2022年10月号の“Coffee Cup”で講演内容に加えて宇田さんのお人柄をお伝えした.

電気機関車の運転は,今年も赤城隼人さんとの対談形式.ただし場所はセミナールームではなくて特設ステージ.昨年のような満員札止めを避けるためだろう.
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左が赤城隼人さん,右が宇田さん.赤城さんが手に持つのは,宇田さんが保持している鉄道関係免許証の数々.

話の“枕”が免許証だったわけだが,動力車操縦者運転免許証に始まり,第二級陸上特殊無線技士 無線従事者免許証,労働安全衛生法による免許証…いわゆるボイラー技士免許,そして危険物取扱者免状という4種の免許証で話題が弾む.
 動力車操縦車免許証は甲種電気車のみで蒸気機関車が含まれない.“JR西日本が事務手続き費用を惜しんだから”と,いまもな強いご不満のようす.
 無線従事者免許証はセノハチでの補機との連絡用無線や,その後に普及した列車無線を扱うための免許である.
 ちなみに赤城さんも本職の運転士であり,東京機関区在籍時代に,EF58の蒸気発生装置に限り有効という免許をお持ちだそうである.
 そして危険物取扱者免状というのは,必須ではないものの,持っていれば軽油や重油などの取扱いに便利だということで取得したのだという.
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蒸気機関車のキャブにおいて無線装置を扱っている状況.形式は……D52だろうか.写真:宇田賢吉

高速運転ではEF58が扱いやすかったとか,少しばかりは去年と同じ話題もあったけれど,ほとんどは耳に新しい事柄.気がつけば予定の1時間半は過ぎ去っていた.

さて翌日は蒸気機関車の運転…の前に,三品勝暉さんによる“国鉄車輌技術のあゆみ”という講演があった.
 車種を問わず,国鉄が開発し,使い続けた車輛たちの発展史であるわけだが,“多少の性能面での不利は承知の上で安定性を求めて開発した”ディーゼルエンジンなど,正史にはなかなか出てこない経緯などを随所に織り交ぜた語りは,もちろん1時間で収まるはずもなかった.
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終始着席することなくお話をされた三品勝暉さん.国鉄では客車の冷房改造に始まり,小径車輪貨車の開発などにも携わられ,最後は鉄道技術研究所に勤務された技術者である.大の趣味人であり,“セノハチ”と題したレイルNo.123で,宇田さんをはじめとするお仲間とともに,往年の名作をたくさん披露してくださったのをご記憶の読者も多いだろう.

そして再びの宇田さん.
 この日は蒸気機関車の運転.それも高速運転が主なテーマだった.
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お相手は仙台でC60やC61,C62に乗務された大山 正さん(左).なお,本来は名古屋の川端新二さんも加わっての鼎談のはずだったが,残念ながら映像での参加だった.

大山さんは,いわば“大山 正 作品集”として,東北を中心とする蒸機の風景を“蒸機の時代No.91”でたくさん見せてくださっている.
 蒸機の時代といえば,その次のNo.92は,宇田さんの撮影の,山陽地区を中心とする蒸気機関車作品集である.
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乗務員手帳さまざま.左は川端さんの名古屋局仕様,中央が宇田さんの岡山局仕様,右が大山さんの仙台局仕様.管理局ごとに,そして時代とともにさまざまなバリエーションがあったことだろう.

蒸機の高速運転では,いかに定時性を確保するか(いや,普通列車でもだろうが),なおかつ石炭や水の消費量が少ない経済的な運転を行なうか,それが乗務員の腕の見せ所であるということはみなさん一致した意見だった.
 具体的には,加減弁の開け具合と逆転機の回し具合の組み合わせに,機関士の好みがあったのだそうである.中には逆転機をほとんど回さずに加減弁の操作のみで運転を続行する人もあったとか.
 川端さんからは関西本線の亀山から四日市へ向かう際,亀山を少し高い速度で出発し,あとは“なにも操作しないまま”で四日市へ定時で到着させるのが“当たり前”だったという技も披露された.

高速運転ということは,列車は優等列車であることが多い.ならば機関車はロングラン運用.そうすると途中駅で乗務員だけが乗り継ぎを行なう.
 機関助士は,乗継駅が近づくと火床を整えるのに専心するのだという.なぜならば,荒れた火床のままだと,前との運転に苦労するのが目に見えているから,引き継いだ機関士が,なかなか発車してくれない.いや,発車できない.そのために生じた遅れは前任者の責任だから,帰区して責を問われる…….

話題が尽きないうちに,1時間半は瞬く間に過ぎ去った.
 それでも最後にはいくつかの質問を受け付ける余裕があった.そこで出たひとつが“運転中に生じた障害に対する乗務員の対応方法,今と昔と,どちらがよいと思うか”.
 宇田さんのお答えは“できるだけ自分の範囲で対処できる伎倆を持つのもよいことだけれど,運転指令などと連携して全体への影響を少なくしようとするのが,現代的なのかもしれませんね”というニュアンスであった.
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本物の蒸気ではなく圧縮空気ではあるものの,会場内には今回も機関車が走っていた.羅須地人鉄道協会8号機である.足回りを点検するのは角田幸弘さん.

この8号機は2020年12月製.同協会では,その後もなお次々と蒸気機関車を新造し,“世界最新”を更新しつつある.
 その羅須地人鉄道協会は今年で設立50周年.祝賀の催しは企画されているのだろうか.楽しみ!

※2023.08.29:無線技士免許証名称追記