先週,5月10日の前後に,多くの鉄道事業者から今年度の事業計画,あるいは設備投資計画が発表された.各社それぞれに興味深い内容だったが,関心の的は,やはり新造車輛計画ではなかろうか.
最初は,今年10月から営業運転開始を目標とする近畿日本鉄道(近鉄)8A系.同社としては20数年振りの新形一般車である.
20m級4扉,L/C座席装備で奈良・京都線用だという.目を惹くのは系列名.これまでの近鉄の番号体系からは大きく逸脱した命名法である.単なる思いつきとは思えないから,これまでの単純な4桁番号が飽和状態となっていることもあっての設定なのに違いない.“8”といえば奈良線では800系以来のイニシャル数字.その新体系の最初ということで“A”なのだろう.でもこれだけでは形式や車号は表現できないから,きっと,例えば第1編成は8A101~8A401,第10編成は8A110~8A410……? 編成輛数が変わったり主制御装置が変更されたら,AがB,C……と続くのだろう.アルファベットなら数字より“包容力”があるから,変化への備えは万全.
では他線区用は……大阪線用は2A,名古屋線が1A,南大阪線が6A……さて,当たっているか外れるか.
先頭車の外観と客室.よく描き込まれたイメージ図だと思ったら,近畿車輌構内で撮影された“本物”だそうである.この車体の様子から,ステンレス鋼ではなくアルミ合金製であることがうかがわれる.内装で気になるのは画面右端の緑色の腰掛.写真:近畿日本鉄道
これはなにかといえば,すみっこぐらし……ではなくて乳母車をはじめ,大形荷物を持っている乗客が安心して過ごすことができる“やさしさ”を確保した“やさしば”と呼ばれるスペースである.
客室全景.車椅子スペースと優先席は,“やさしば”とは別に用意されている.大阪線用ではトイレも用意されるのだろうか.写真:近畿日本鉄道
大阪線と奈良線では,どちらも山越えがある.けれど大阪線の榛原から長谷寺へかけての30‰以上の連続上り勾配や,多少緩和されたとはいえ“青山越え”などは勾配とその距離が桁違い.だから別系列とせざるを得ないのだろう.
なお,この仕様では京都地下鉄への乗り入れはできないはずである.それはまた,別に企画されるのに違いない.
8Aの営業運転は10月から.ということは,夏には訓練運転が始まっていなければならない.さらにいえば,早ければ5月中にも近畿車輌からの搬入が行なわれるのではないか.
ちなみに現在のところ,この8A系は4輛編成12本,合計48輛が今年度中に製造されることになっている.
来年度には引き続いて9編成36輛が投入されるほか,大阪線用の4輛編成2本8輛,名古屋線用の4輛編成3本12輛,南大阪線用4輛編成3本12輛の新造が計画されている.
続いては名古屋鉄道.新形式ではないが,大幅なモデルチェンジを施された9500・9100系が登場する.
正面の扉が中心からオフセットした非常用から,中央に位置して幌を取り付けることができる貫通扉に変更されたのである.写真:名古屋鉄道
これは営業運転中の車内で異常事態が発生した場合,併結する他の編成へ避難することができるよう配慮したものである.
これがオリジナルデザイン.趣味的には別形式といってよいほどの変貌ぶりである.やっぱり“顔”は大切なのである.新川検車支区 2019-10-1
今年度は9500系(4輛編成)が3本,9100系(2輛編成)が2本製造される.改めて採り上げる必要があるかもしれない.
東京では京王電鉄の2000系が発表された.2000系というから1000系に続く井の頭線かと思ったら京王線用だった.京王線は5000系が一般仕様で装備されるのかと思っていたのだが,あの顔は“京王ライナー”専用として,ブランドイメージを高めようとしているのかもしれない.
で,2000系.総合車両製作所で製造を担当するステンレス鋼製で,20m級4扉ロングシート……なのだが.
なんとも愛らしく,まぁるい顔である.側面はステンレス鋼無塗装仕上げだから無機質になるのはやむを得ないところ,けれど,せめてということか,まぁるい模様のラッピングが各所に施されている.写真:京王電鉄
車椅子や乳母車,大形荷物などに対応するためのスペースが設けられる.写真:京王電鉄
同様の設備は西武40000系を皮切りとして,京都市交通局20系でも備えられているが,今回の特徴は先頭車ではなく中間の5号車だということ.京王線ではこの部分がエレベーターに近い位置,なのだそうである.それとともに,かつて6000系に組み込まれた5扉車も中間車だった.ということは,最混雑ゾーンでもあるのだろう.
2026年1月に最初の1編成10輛がデビューし,続いて3編成30輛の合計40輛の投入が発表されている.
しかしそうなると,京王線では“早くも”7000系の引退が始まることになる.なんとも時の流れは残酷である.
そして我が(?)西武鉄道.これも新形車ではない.40000系である.けれど,鉄道事業計画に盛り込まれたのは“8輛編成”だという.なにしろ“3編成24輛”と明記されているのだから.48000番代ということになるのか?
現在の10輛編成40000系.そういえば,8輛編成は池袋線か新宿線か.写真はそうッ俊の夕陽を正面に浴びて反応を目指すロングシート第9編成.富士見台 2023-3-14
同じ投資計画には,来年度以降の計画として新宿線での有料着席サービスの刷新,という項目が記されている.“特急車輛の”と書かれていないところに深い意味づけを感じるのは僕だけではないはずである.さらに写真説明に“置き換え対象の10000系”と記されている.今の40000系による“Sライナー”ではない,別のプログラムなのだろう.興味津々である.
大手私鉄だけではなく,既に本誌の“いちぶんのいち情報室”でお伝えしている通り,四国の高松琴平電鉄では令和7年度に,伊予鉄道では今年度末に7000系という,いずれも新造車の導入計画が発表されている.日本全国,目を離すことができない.
最初は,今年10月から営業運転開始を目標とする近畿日本鉄道(近鉄)8A系.同社としては20数年振りの新形一般車である.
20m級4扉,L/C座席装備で奈良・京都線用だという.目を惹くのは系列名.これまでの近鉄の番号体系からは大きく逸脱した命名法である.単なる思いつきとは思えないから,これまでの単純な4桁番号が飽和状態となっていることもあっての設定なのに違いない.“8”といえば奈良線では800系以来のイニシャル数字.その新体系の最初ということで“A”なのだろう.でもこれだけでは形式や車号は表現できないから,きっと,例えば第1編成は8A101~8A401,第10編成は8A110~8A410……? 編成輛数が変わったり主制御装置が変更されたら,AがB,C……と続くのだろう.アルファベットなら数字より“包容力”があるから,変化への備えは万全.
では他線区用は……大阪線用は2A,名古屋線が1A,南大阪線が6A……さて,当たっているか外れるか.
先頭車の外観と客室.よく描き込まれたイメージ図だと思ったら,近畿車輌構内で撮影された“本物”だそうである.この車体の様子から,ステンレス鋼ではなくアルミ合金製であることがうかがわれる.内装で気になるのは画面右端の緑色の腰掛.写真:近畿日本鉄道
これはなにかといえば,すみっこぐらし……ではなくて乳母車をはじめ,大形荷物を持っている乗客が安心して過ごすことができる“やさしさ”を確保した“やさしば”と呼ばれるスペースである.
客室全景.車椅子スペースと優先席は,“やさしば”とは別に用意されている.大阪線用ではトイレも用意されるのだろうか.写真:近畿日本鉄道
大阪線と奈良線では,どちらも山越えがある.けれど大阪線の榛原から長谷寺へかけての30‰以上の連続上り勾配や,多少緩和されたとはいえ“青山越え”などは勾配とその距離が桁違い.だから別系列とせざるを得ないのだろう.
なお,この仕様では京都地下鉄への乗り入れはできないはずである.それはまた,別に企画されるのに違いない.
8Aの営業運転は10月から.ということは,夏には訓練運転が始まっていなければならない.さらにいえば,早ければ5月中にも近畿車輌からの搬入が行なわれるのではないか.
ちなみに現在のところ,この8A系は4輛編成12本,合計48輛が今年度中に製造されることになっている.
来年度には引き続いて9編成36輛が投入されるほか,大阪線用の4輛編成2本8輛,名古屋線用の4輛編成3本12輛,南大阪線用4輛編成3本12輛の新造が計画されている.
続いては名古屋鉄道.新形式ではないが,大幅なモデルチェンジを施された9500・9100系が登場する.
正面の扉が中心からオフセットした非常用から,中央に位置して幌を取り付けることができる貫通扉に変更されたのである.写真:名古屋鉄道
これは営業運転中の車内で異常事態が発生した場合,併結する他の編成へ避難することができるよう配慮したものである.
これがオリジナルデザイン.趣味的には別形式といってよいほどの変貌ぶりである.やっぱり“顔”は大切なのである.新川検車支区 2019-10-1
今年度は9500系(4輛編成)が3本,9100系(2輛編成)が2本製造される.改めて採り上げる必要があるかもしれない.
東京では京王電鉄の2000系が発表された.2000系というから1000系に続く井の頭線かと思ったら京王線用だった.京王線は5000系が一般仕様で装備されるのかと思っていたのだが,あの顔は“京王ライナー”専用として,ブランドイメージを高めようとしているのかもしれない.
で,2000系.総合車両製作所で製造を担当するステンレス鋼製で,20m級4扉ロングシート……なのだが.
なんとも愛らしく,まぁるい顔である.側面はステンレス鋼無塗装仕上げだから無機質になるのはやむを得ないところ,けれど,せめてということか,まぁるい模様のラッピングが各所に施されている.写真:京王電鉄
車椅子や乳母車,大形荷物などに対応するためのスペースが設けられる.写真:京王電鉄
同様の設備は西武40000系を皮切りとして,京都市交通局20系でも備えられているが,今回の特徴は先頭車ではなく中間の5号車だということ.京王線ではこの部分がエレベーターに近い位置,なのだそうである.それとともに,かつて6000系に組み込まれた5扉車も中間車だった.ということは,最混雑ゾーンでもあるのだろう.
2026年1月に最初の1編成10輛がデビューし,続いて3編成30輛の合計40輛の投入が発表されている.
しかしそうなると,京王線では“早くも”7000系の引退が始まることになる.なんとも時の流れは残酷である.
そして我が(?)西武鉄道.これも新形車ではない.40000系である.けれど,鉄道事業計画に盛り込まれたのは“8輛編成”だという.なにしろ“3編成24輛”と明記されているのだから.48000番代ということになるのか?
現在の10輛編成40000系.そういえば,8輛編成は池袋線か新宿線か.写真はそうッ俊の夕陽を正面に浴びて反応を目指すロングシート第9編成.富士見台 2023-3-14
同じ投資計画には,来年度以降の計画として新宿線での有料着席サービスの刷新,という項目が記されている.“特急車輛の”と書かれていないところに深い意味づけを感じるのは僕だけではないはずである.さらに写真説明に“置き換え対象の10000系”と記されている.今の40000系による“Sライナー”ではない,別のプログラムなのだろう.興味津々である.
大手私鉄だけではなく,既に本誌の“いちぶんのいち情報室”でお伝えしている通り,四国の高松琴平電鉄では令和7年度に,伊予鉄道では今年度末に7000系という,いずれも新造車の導入計画が発表されている.日本全国,目を離すことができない.
※2024.05.17:大阪線勾配区間の記述を補足