1970年代から1980年代にかけて台湾の鉄道で旅を楽しんだ方なら,きっと思い出に残っているだろう,アルミ製の弁当箱に詰められた鉄路飯盒.特急に乗ると服務員が売りに来る.いやその前に,ガラスのカップにお湯を注ぎに来る.走っている車内で中国茶の葉が乱れないようにお湯を注ぐ技術は,芸術的でさえあった.
 さて弁当いや鉄路飯盒の中身はといえば,主に排骨飯(ぱいこーはん=スペアリブだが骨を抜いた仕様もある)であったが,ほかにも何種類かあったようである.
 当時は食堂車を連結した特急“莒光号”も走っていたが,僕が乗車する区間では,足を運ぶほどの時間がなく,ついに機会を逸したままになった.
 一方,多くの駅で,ホームでの“立ち売り”も多くの駅で行なわれていて,本当に日本の駅弁売りと同じ姿であった.初めて台湾を訪問したのは,当時の東芝EMIから出される予定の“台湾の鉄道の音”レコードのスチール担当としての旅だった.ある駅で駅弁売りの声を採録しようと窓からマイクを突き出した途端,聞こえてきたのは“べんとぉ~”.これじゃあ,全部が日本だよと二人でガッカリ.そうしたら乗り合わせていたお客さんが“そりゃあ,駅弁というか弁当は日本が持ち込んだ文化ですから”と,“日本語で”教えてくださった.余談だが,8620(CT150)のキャブに添乗した時は“しゅっぱつしんこぉ~””.機関車の音は8620そものだし……で,“こういう言い方もあります”と“かいちぇ~(開車)”と言い直してもらった…….

さて台湾の車中食.食堂車=餐車は今世紀初頭までには定期列車から姿を消したという.でも,近年は観光用列車のために座席車を改造した食堂車が再登場しているとも聞いた.そこで2014年の台湾取材では,すれ違いや留置中の客車に注意していたら……七堵駅で発見した.
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35DC 10502とある.DCは食堂車.車内はビュフェ車に近いインテリアのようではあるが.“環島之星”とは,台湾の旅行代理店が運営するチャーター列車の名前.何本かの編成を保有しているようである.

駅弁のホームでの立ち売りも激減したそうである.でも,駅で販売される駅弁は盛況のようで,台北の駅構内に弁当売り場が開業していた.
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看板には臺鐵弁當本舗とある.一緒に撮影した写真には西3門(承徳路)とある.今では地下の新幹線改札横に2号店が開業しているらしい.新幹線以外は客席での食事はできないようだが.

やっと本題.2月22日から,大宮の鉄道博物館で“交流協力企画展 和風×台昧台湾鉄路の食文化”と銘打った企画展が開催されている.
 報道公開には行くことができなかったのだが,折りしも初日には東大宮へ“クモユニ”を見に行く用事があって,その帰り道に展観してきた次第.それは残念ながら訪問することができなかった.

会場は2階のスペシャルギャラリー1.普通の入場料だけで展観することができる.
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最初は,往年の観光号食堂車から見た縦貫線山線の古跡風景.三義駅近くにある煉瓦アーチ橋の跡である.

この煉瓦アーチ橋は1908年に建設され,1935年4月21日の新竹台中州大地震で崩落したもので.電化前はEMDの電気式ディーゼル機関車が喘ぎながら勾配を上る中,じっくりと観察することができた.新幹線の開業によって優等列車が少なくなった今では,意識して見学に行かねばならない史跡である.
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車内で供されるお茶の積み込みと,妙技ともいえる注ぎ方の実際.
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日本統治時代に供されていた駅弁の復元模型.
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丸いアルミ製の弁当箱.四角いのもあったような気がするが,記憶違いか?.
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ホーム上での“立ち売り”風景.日本と同様,各地の駅ごとに工夫を凝らした弁当が制作,販売されていた.

会場には,まだまだまだまだ興味深い展示が盛りだくさん.それはぜひとも現地へ足を運んでいただいて,じっくりご覧願いたい.会期は6月2日まで.時間はたっぷりある.

会場出口付近には,台北市内に建設中の,国家鉄道博物館の案内も展示されていた.
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台北駅のひとつ東隣の松山駅近くに建設されているこの博物館は,台湾の歴史的鉄道車輛を収蔵するだけでなく,今回の企画展で採り上げられた駅弁まで,多角的な資料収集と保存を目指し,2025年に第一期工事が完成の予定.
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そして新世代の食堂車を,観光列車“鳴日厨房”に組み込んで2022年から運行を開始した.台湾鉄路の食文化に新風を吹き込むために.

ああ,台湾に行きたくなってしまったではないか……と思いつつ会場を辞そうと思ったら,この企画展の監修者であり,国家鉄道博物館準備処主任の鄭󠄀銘彰さんが,駅弁シンポジウムを終えて会場へ.“はじめまして!”とご挨拶したら“あぁ,レイル23号の表紙の写真の前里さん! 会えてうれしい!”と.こちらがびっくり仰天であった.そこからひとしきり台湾での鉄道趣味の話に花が咲いたのは,いうまでもないこと.
 やっぱり台湾へ行かなくちゃ!
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会場入り口前で.鄭󠄀銘彰さん.またお目に掛かりましょう!

3月21日,この企画展の図録が届いた.資料的価値も高く,書架に必備の1冊である.頒価は税込みで1,500円.博物館のミュージアムショップのみでの販売である.

※2025.03.22:図録に関する記述を追加
※2025.03.25:煉瓦アーチ橋崩落の日付訂正.地震名追記