2025年ももう3月が終わりに近づいた.1年に4回の刊行を目標としているレイルは,既に4月発売のNo.134が印刷真っ盛り…….ということは,1月に刊行したNo.133が発刊されてから,早や2ヵ月が過ぎ去ったということになる.
 そのNo.133,東京在住のベテランファンには懐かしいであろう塗り分けの東急電鉄3514が表紙を飾っている.撮影場所は東急電鉄大井町線自由ヶ丘2番線.背後には東横線のガードが見える…….
 そして本文は頁を繰っても繰っても自由ヶ丘,または自由が丘.出てくる電車は東急電車ばかり……ではなく,最近の情景では東武鉄道相模鉄道営団地下鉄西武鉄道の電車も姿を見せる.
 そんなにぎやかな自由が丘の電車風景は,いつ,どのようにして始まったのかを解明したのが,このレイルNo.133なのである.
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この地の鉄道の始まり……ではないが,黎明期には違いない情景の一つ.昭和3/1928年12月に撮影された九品佛駅改良工事落成記念写真である.地平を走るのは東横線の仮線路.画面左に東横線のホームが見えるが上屋すらなく,電車は両運転台車の単行運転である.写真:東急株式会社


何よりの驚きは,駅前だというのに住宅のひと棟さえ見えないこと.逆に,この写真が撮影された時点で,現在の殷賑たる自由が丘を夢見ていた人は,どのぐらいいただろうか…….

その百余年の歴史を詳らかにしてくださったのが,地元に生まれて育った深尾 丘さん.身近な地域ならではの土地鑑というか,愛着というか,そういうものの積み重ねと情熱によって編まれた物語は,学術論文調に陥ることなく,本来の趣味的歴史研究として,余所者にも理解しやすい仕上がりであった.
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自由が丘にかかわりに深い隣接地である,大岡山と緑ヶ丘の間の線路状況.撮影は高田隆雄さん.昭和10年ごろの情景で,手前が大岡山で目蒲線をガードで跨ぐのが大井町線.画面右端に見えるのが緑ヶ丘の駅.

この区間の建設に,とても興味深いいきさつが秘められていたということを,今回の稿で初めて知った.本文には17年前に撮影したプレートガーダーとその銘板が掲載されていて,撮影者は僕なのであるが,建設秘話など知る由もなく,単に“昭和4年 目黒蒲田電鉄株式會社 川崎車輌株式會社製作”という銘に興味を持ったに過ぎない.段違いになった橋台を写しているのは,駅舎の写真とともに,単なる周辺状況説明用であって,段違いになっていることは,深尾さんに指摘されるまで,気づいていなかったというお粗末.
 でもまぁ,気になったら何でも撮影しておくべしというのは“正義”であるということではあった.ちょっと手前味噌ではあるが.
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川崎車輌の銘板.残念ながら改良工事の結果として現存しないようである.写真:前里 孝

自由が丘に関してはもう一編,やはり地元在住の関田克孝さんに昭和20年代からの思い出を語っていただいた.なにしろ実際に体験してきたことなのだから,迫力は充分以上.
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自由ヶ丘から田園調布へ向かう6000系電車.すぐ横を走るのは目蒲線の目黒方面行き電車.昭和38/1963年 写真:関田克孝


それにしても,世の中には偶然の導きというものがある.とれいん誌の2025年1月号での東急特集は,ある意味で連携したともいえる.けれど,まさか世田谷美術館で“東急 暮らしと街の文化”なる企画展が年末から年初に掛けて開催されることになっていたとは…….

また,関田さんの稿に合葉清治さんの若かりし頃のスナップが掲載されているのだけれど,校了間近になって訃報が届き…….

そして,東横線の開通と同時に開店し,100年以上も営業してこられた不二屋書店が,なんと2月20日で閉店してしまった.今回のレイルは,特にお願いしてたくさん仕入れていただき,そして僕の期待以上に売ってくださったのに…….

ヒギンズさんのモノクロ写真は,東急は当然として,相模鉄道と小田急電鉄を採り上げた.解説は,東急電鉄を関田さん,相模鉄道を深尾さん,そして小田急電鉄を深谷則雄さんと宮崎繁幹さん,そして八木邦英さんのお三方にお願いした.それぞれ的を射た内容で仕上げてくださったこと,心から感謝しています.
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第一次の新宿地下駅から姿を見せたNSE.NSEが地下ホームに発着していたのは半年足らずのことだったという,実に貴重な光景.そして周辺の風景は60年を経た今,全く面影をとどめない.レイルとは異なり,ノントリミングでお目に掛ける.昭和38/1963年 写真 J. W. HIGGINS


締めくくりは,ちょうど1年前のNo.129で四半世紀に及ぶ整備の記録が発表された,東洋活性白土の1号機……〈活白ドコー〉の,その後の1年報告.そして宮田寛之さんによる,“ドコービル系機関車”の新発見レポートである.
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春たけなわ.成田ゆめ牧場を快走する〈活白ドコー〉1号機関車.この写真もトリミングなしでお目に掛けよう.写真:高橋卓郎

都会地を高速で走る電車とは対極にある車輛だが,これも趣味,それも趣味.鉄道趣味の幅広さを凝縮してご紹介することができた1冊に仕上がったと思っている.どうぞご覧いただけますよう.

※2025.03.28:最終章の一節が脱落していたので挿入.