これを書いている8月20日の夜が明けたら,とれいん2026年9月号の標準発売日である.
 特集テーマは,すでに告知させていただいている通り“日本のハイブリッド車”.
 北は岩手のHB-E220系から南は佐賀・長崎のYC1系まで,仲間といえるBEC819系やその姉妹車であるEV-E801系を含め,9形式のMODELERS FILEがずらっと並ぶことになった.
 いまのところ日本で唯一のハイブリッド機関車であるJR貨物のHD300は,僕の報道公開時の写真をベースに,川崎大輔さんが纏めてくださった.
 JR東海のHC85系とJR東日本のEV-E301系は,デビュー時のMODELERS FILEからまだそれほど時間が経っていないので,今回は再録しなかった.
8FA_6370
仙石線のHB-E211系.MODELERS FILEの冒頭写真と同じ場所だが,仙石東北ラインとしては仙台からの一番列車である5561D.画面左の防音壁が気になっての不採用写真である.この区間,地震による津波で線路は跡形もなく流され,そればかりか撮影地の近くの野蒜では205系が2本が津波に遭遇,うち1編成が犠牲となった.元来は海岸線に見える護岸の辺りを走っていたのだが.陸前大塚-東名(本誌では方向表記が逆になってしまった) 2025-6-29

このHB-E210系,世界初の営業列車用ハイブリッド車とされる,JR東日本のキハE200形に続いて仙台地区に登場した車輛で,不幸で特異な事情に拠るきっかけでの誕生とはいえ,交流電化区間と直流電化区間を,高価な交直流電車を使わずに結んで直通運転を実現した,運転面でも画期的な存在である.

さて,鉄道車輛における“ハイブリッド車”の定義については,理解していたつもりではあったのだが,それでも誤解は残っていた.巻頭の“ハイブリッドをはじめとする新しい動力源を持つ鉄道車輛について”の冒頭で明確に記されている通り,“2つの動力源を有効的に組み合わせて効果を発揮させる”システムを有する車輛である.
 だから,近年増加しつつあるGV-E400系や第三セクターの気動車は,動力源としては内燃機関と組み合わせられた発電機からの電力“だけ”で走っているのだから,単なる電気式気動車である.
 ならば架線から集電した電気と蓄電池からの電気という,2つの動力源を持ってるJR九州のBEC819系やJR東日本のEV-E301やEV-E801系はハイブリッドなのでしょ,と思うけれど,それらは架線からの電気と蓄電池からの電気を“切り替えて”いるだけだから,ハイブリッドではない,のだそうである.交直流電車をハイブリッドとは呼ばないでしょ?といわれると,うなづけるだろう……僕の頭の中ではハイブリッド車であると誤解していた…….鉄道会社も,“ハイブリッド”とは一言も謳っていない.
 ただ,これら3形式は,かつての鉄道省AB10や鉱山で愛用されている機関車のような,単に蓄電池を積んで車輛基地で充電して走るシステムではなく,パンタグラフから得た電気を走行とともに蓄電池にも蓄えるというシステムが新しい.だから“切り替えて”走っているけれど,ハイブリッドシステムと,かなり近いシステムといえるだろう.
 BEC801系とEV-E801系は,JR九州とJR東日本という,別の旅客会社の車輛でありながら,ほとんど双子ともいえる姉妹車輛であることも,趣味的には極めて興味深い.今月号で採り上げることにした理由のひとつである.
DSCN6469
今回の特集の取材はBEC819系から始まった……正確にはハイブリッドではないわけだが…….写真は夕暮れの若松駅で発車を待つBEC819系.かつて多種多様な蒸気機関車がたむろし,石炭車が所狭しと集まっていたこの駅だが,今ではたった2本の線路が残るのみ.でも最先端の技術を内に秘めた車輛が走ることで,再び注目の存在となった.1/4秒というシャッタースピードでは流石に手振れしてしまった.2020-11-19

さて,対象車輛を決めてからの手配が大変だった.昨年から今年にかけて登場した形式以外のほとんどは,報道公開に参加していなかったから.各鉄道会社には遡って資料提供をお願いし,個別の取材申請が難しい車内の写真は,何人もの方々からスナップ写真のご提供をいただいたり…….真横や屋根上などの細部写真のほとんどは,僕自身が出向くことになった.
 さらに昨年末にはJR四国から3600系が,6月にはJR西日本と嵯峨野観光鉄道からDEC743が公開された.
 嵯峨野観光鉄道は締切入稿直前に客車の写真も公表されたから,勢いで組み込んでしまった…….DEC743については,いずれバラスト撒布車や客車の全容が公開されたら,改めて詳しくご紹介しようと思っている.乞うご期待!
260804_★プレスメイン使用画像.jpeg
嵯峨野観光鉄道の新客車.制御客車はSK140.その後ろにSK1301……SK1101と続くのだろう.どこかで見た台枠形状と思ったらJR西日本テクノスが製造途上のレポートでコキ200が種車であると明らかにした.写真:嵯峨野観光鉄道

西九州一円の主力となったYC1系は昨年の秋に撮影することができた.九州に限らないが,最近の線路端は下草の繁茂が著しくて,真横写真撮影ポイントを探すのに苦労した.蒸機時代には長崎本線の喜々津駅には降り立ったものの,早岐機関区は訪問し損ねているから,大村線はまったく初見のはずである.沿線を車内から観察しても思うような場所を見いだせず…….宿をとった大村駅に降り立ってみれば,なんと,駅のはずれの道路から草のないポイントを狙っての撮影となった.跨線橋からの屋根上写真は奇しくも同じ時期に現地を訪問しておられた土屋隆司さん提供によるスナップ.
N8A_6345
YC1系では列車写真の撮影にも苦労した.駅から離れれば,よい場所もありそうだったが,なにしろ滞在時間が限られている.そこでえいやっと降り立ったのが千綿(ちわた).少し彼杵の方へ歩いて行って,入り江の向こうの鼻を回り込んできたところを狙ってみたのだが,並行する道路とその標識,そしてなにより,ホームでの危険を防止するための朱帯が…….2025-11-17

僕自身が撮影した最終は,男鹿線のEV-E801系だった.秋田市内に滞在するのは,D51の履歴簿調べで出向いた昭和49/1974年以来!
 駅構内は,52年前にも既に電化が完成していたから,なんとなく当時の面影を感じることができたものの,駅の建物や駅前は,実質的に初訪問と同じであった.なにしろ“新幹線”が走ってる!
DSCN3785
秋田新幹線! あ,ハイブリッドではありません.単に感激しただけです.

そんなぐらいだから,男鹿線だって初訪問.地図で見当をつけていたとはいうものの,やっぱり撮影場所探しは簡単ではなかった.
 真横は脇本駅の西側に,下草がよく手入れされた直線区間を見つけた.見つけたけれど,別の難問は,列車本数が多くないこと.おまけに!訪問した初日が“設備保守のため一部列車を運休します”の当日だったのだった! 11時から14時半ごろまでの3往復が運転されない.予め判っていたとはいえ…….
8IA_8088
景色のよい列車写真の撮影場所はすぐに見つけることができた.DD51が長い客車を牽引していた頃からの名所である.ここで朝方に秋田へ向かう4輛編成を抑えつことにしたのは,いうまでもない.お目に掛けるのは本誌に使ったのとは別のカットで,寒風山は画面外に追いやられた代わりに,本山をはじめとする男鹿半島の山々が姿を見せる角度.2026-5-16 

いや,最後はEV-E801ではなかった! 7月に入ってすぐの八高線である.
 この日は列車写真だけが目的だから,それほど難易度は高くない.とはいえ,埼玉県の外れの丹荘と小川町の間は,それほど列車本数が多くないから,効率よく移動するには,頭を働かせる必要があった.
 このHB-E220系は,高崎向けは報道公開に参加したが,釜石向けは不参加だった.また,真横や屋根上は,高崎向けはともかく釜石向けでは営業列車での撮影は列車本数が少なくて難儀するだろうと予想し,甲種輸送の途上で撮影した写真を使用した.結果的には,汚れ除けのカバーを除けば,判断は正しかったといえる.広角気味の写真をうまく繋いでくれた脇の伎倆には,いつもながら感謝感謝である.
8JA_0794
時折,駅の様子を観察するため訪問する八高線竹沢駅.初訪問から40年を経て駅本屋は建て替わり,行き違い線路は撤去,跨線橋もなくなって,車輛もハイブリッドとなり,八高線を一気にステンレス色へと塗り替えた.2026-7-10

あれやこれや.これまでにない長丁場の特集取材だった.企画が正式にスタートしてからでも1年半.その間,各方面の皆様には,多大なるご迷惑をおかけし,不義理を尽くしてきた.いや,まだ現在進行形のことがらも,いくつもある.心からお詫び申し上げます.
 そして,今月号を,皆さんが広く受け入れてくださることを,お願いします.

取材先各地での,本当のこぼれ話は,また,追って,追い追いのお楽しみに!

※2026.08.23:一部語句修正