今月号のとれいんは湘南電車と横須賀線の特集.実物担当としては,JR東日本では最後の113系となった幕張車両センター配置車を採り上げるべく,前納浩一さんなどの協力を得て,年初から記事作成に勤しんでいたのだった.
 僕の受け持ちは,例によって真横写真の撮影.車庫での床下機器撮影と違って,自分が動かずに目の前を電車が通り過ぎるのを撮影するのだから,一見楽そう.でも,撮影好適地を探し出すのが一苦労なのである.かつて訪問したことの線区ならともかく,ほとんどの場合は,ぶっつけ本番での撮影となるわけで,事前に地図や航空写真などで候補地を絞り込んでいても,いざ現場に行ってみれば状況が全く違っていたり線路脇に下草が茂っていて足回りがほとんど見えなかったりで,当てが外れることも多い.それに,同じ場所で何時間も(場合によってはほとんど一日中)陣取ることになるわけで,周辺の人々の邪魔になったり,怪しまれたりしなくて済むようなポイントというのも,結構大切な条件だったりする.
 さて,今回は総武本線と内房線.総武本線は昨年のE259系や211系の取材で訪れた物井と佐倉の間に決まっていたものの(物井川橋梁の橋台発見はその副産物),内房線がまったく未知数だった.
 木更津の千葉方が望ましいということで,もっとも手近なのは蘇我駅のホームということになるわけだが,205系取材の折りの記憶では,京葉線の電車に重なってしまうことも少なくなくて,また,後ろに下がるのも限界がある.そこで線路を順に追っていったところ,最初は五井,続いて巖根の付近が候補に上がった.
 取材に許された時間は,僅かに1日のみ.まだ真っ暗なうちに家を出て,日の出直後に木更津着.そこから線路に沿って北上していったら,なにやら怪しげなカーブを描く空き地が.事前に撮影候補地として上げていたところでもあるので,場所のチェックがてら観察してみたら……なんと,自衛隊への引込み線の跡だったのである.

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場所探しをしているさなかに,突如現われた怪しい空き地.“国有地”という看板が怪しさを倍増させている.

しかも1本だけではなくて,本線から分岐付近の踏切脇に,橋桁が2本,並行してかかっているではないか.手持ちの地図で確認してみたら,大きなカーブを描いて内房線から離れていくのが,陸上自衛隊の木更津駐屯地への引込み線.その線路跡と内房線の間を,ほぼ直線で北上するのが,航空自衛隊の第一補給処への引込み線であることがわかった.
 この引込み線は,不覚にもこれまでノーチェック.僕の頭の中には存在していなかったものである.

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内房線の根切踏切脇の用水路に架かる,2本の橋桁.橋台はコンクリート製だから,それほど旧いものではなさそう.内房線開業時のものなら,煉瓦造りの可能性もあるわけだが.

橋台はどちらもコンクリート製だから,途中で更新していなければ,それほど旧い時代のものではないということになる.
 そこで,ここから先は帰宅してからの調査の結果だが,陸上自衛隊の駐屯地は,もとの海軍木更津航空隊.昭和11/1936年の開設だという.航空自衛隊の補給処も同じ時期の創設で,当初は木更津第二海軍工廠と呼ばれていたらしい.
 ではこの線路がいつごろまで使われていたのかというと…….実はよくわからなかったりする.どなたか,ご存知ないだろうか.

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駐車場と化した,航空自衛隊補給処への廃線跡.画面左は岩根小学校(駅名は巖根だが).線路はこの先,補給処入り口手前で途絶える.

この日の撮影は,結局のところ巖根からさらに北方,袖ヶ浦までの辺りで行なうことになった.結果は……21日に発売の7月号をご覧ください.

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真横写真の撮影場所選定には,ふつうの撮影ポイント探しとは,全く違う苦労がある.だから有名撮影地にはなかなか出向くことができない.写真は内房線を走るE217系更新車.今のうちに,未更新車の記録をしておかなければ.