前回は万世橋から須田町界隈の話題だった.今回はそこから南へ下がった東京駅丸の内.
 かつて国鉄……JR東日本の本社が丸の内にあった頃にはほとんど毎週のように,場合にによっては何日も続けて通った丸の内も,各JRの東京事務所が都内各所に移転するにつれて頻度は下がり,JR東日本の本社が新宿に引っ越ししてからは,まったく縁の薄い地域と化してしまった.
 だから見るものすべてが新しく珍しく…….
 直接のきっかけは,さる4月6日に三菱一号館美術館がオープンしたというニュース.煉瓦造り風の古風な建物は,その名の通り,かつての三菱一号館のレプリカ.この辺り一帯が“一丁ロンドン”と呼ばれるようになった,最初の建物である.折りしもNHKの大河ドラマで岩崎弥太郎にスポットライトが当てられて,注目のエリアともなっているようでもある.
 この三菱一号館は明治27/1894年に落成したクイーン・アン様式の建物.この様式はその頃の英国で流行したデザインだという.設計は英国人建築家ジョサイア・コンドル.東京駅を設計した辰野金吾の恩師でもある.

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三菱一号館の外観.元東京都庁,今の東京フォーラム前から見る.この建物のオリジナルは昭和43/1968年に取り壊されているから,周辺を含めた一丁ロンドンを僕は知らない.けれど,昼休みの散歩がてら描いたというスケッチや,目の前を走る都電を絡めた写真は,黒岩さんによく見せていただいたものである.

中庭に廻ってみれば,本当にここは東京なのかと見紛う風情.今のところはまだ全てが新しいから,ちょっと不自然だけれど,何年か経てば,“どこのロンドンの街角か?”ということになるだろう.
 ちなみに美術館のオープン記念特別展は“マネとモダンパリ”.7月25日まで.

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一号館のとなりには,旧丸ノ内八重洲ビルヂングのファサードやその周辺が残されている.昭和はじめの建築で,シックで洒落た全体の雰囲気や可愛らしい塔屋が好きだった.内部は…オフィスビルだったので入ったことはないが,昭和の初めのモダニズムにあふれていたようである.

あえなく壊されてしまって,低層部の外壁や特徴的だった塔屋は残されたとはいうものの,かなりチグハグ感のある保存となった丸ノ内八重洲ビルヂングのすぐ目と鼻の先には,今まさに取り壊し工事中の東京中央郵便局がある……あったというべきだろう.やはり昭和初期の建築だが,保存の要望も空しく壊されてしまったのである.解体工事着手の日には時の総務大臣,鳩山邦夫氏が抗議に現われたというニュースを覚えている方もおられようか.政治的な思惑はともかく,“昭和の建物で新しいから価値が低い”という“古い思い込み”からは,そろそろ脱却すべきだろう.だって,2010年は,もしも昭和が続いていたら,昭和85年ですよ.

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東京中央郵便局の残骸,いや,表面の裏側.なんとも中途半端な残し方をしてくれたものと思う.せめて外壁は全部残してほしかった.新しい建物と,どのようにマッチングさせるのだろうか.そういえば大阪中央郵便局の行く末は?

そうして,中央郵便局のすぐそばには東京駅.ほぼ全面的に覆われてしまってなんとも殺風景ではある.ただこちらは“復原”工事のための覆いだから明日に希望のある風景だが.完成予定は平成23年度末というから,あと2年.着工は平成19/2007年のことだから,およそ5年を要することになる.
 古い建物の修復が,いかに手間のかかるものであるか,この所要時間の長さが如実に物語っている.

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飛び出した角型ドームがなければ,なんの建物か判らない,今の東京駅丸の内側駅舎.2年後にどのような姿を見せてくれるのか,大いに期待したい.