3年半前のベルリン中央駅開業の少し前から,折りに触れて訪問しているブログがある.その名も“ベルリン中央駅”.なにか情報はないかとネットサーフィン(古語?)しているうちに行き当たったのだけれど,これが滅法面白い.鉄道なんて,当時は中央駅建設の進捗状況がレポートされる時こそ出てくるものの,それ以外ではほとんど無縁.
けれど,ベルリンのことを知らないくせに興味だけはある(ほかの町や,ドイツや,それ以外のほとんどの事柄がその状態なのは棚に上げておいてっと)僕にはうってつけのブログだったのである.
ドイツの町々は,都会といえども市街地はそれほど広くなくて,“大都会だなぁ”と感じる町は数えるほどしかない.いや,それこそが僕にとってのドイツのいいところなのではあるのだが,それにしても.
ベルリンは例外中の例外であって,なにしろ鉄道の環状線があって一周するのに何十分もかかる.長距離列車のターミナルが,暫定的とはいえいくつもあって,それぞれの移動には電車に乗っても時間を要する…….おまけに,半世紀もの間分断されていたせいで,地域によって町の表情が全然違っていて…….
僕がはじめてベルリンを訪問したのは,こないだも書いた通り,1988年はじめのこと.結果的には最初で最後の,分断ベルリン体験となった.
それ以来,日帰り滞在を含めれば,1995年,1998年,2006年,2007年と,4回の訪問を重ねたものの,まだまだ全貌はおろか,ほんの通り一遍ですら,この町を識ることができないでいる.“ベルリン中央駅”のブログは,現実のベルリンを訪問できないでいる僕には,疑似体験をさせてくれるかっこうの情報源だった.
ところが昨年の秋,“ベルリン中央駅が本になります”という意味の書き込みが行なわれた.ブログの内容を再編集して纏めるのだろうかと思ったし,実は,今年になってからようやく手にして読んでみるまで,そう思い込んでいたのだけれど,実は,全く違った本だったのであった.
これまでの常識でいえば“旅行ガイド”になるのだろう.実際,本の表紙にも“12のエリアガイド”とあるし,帯には”待望のベルリンガイドブック誕生!”と記されている.けれど,僕の感想はといえば,随筆集.
ドイツのことを理解できる日本人が,ベルリンに住んで記した随筆,とでもいえるだろうか.なにしろ著者の中村真人さんは,独文科出身でベルリン在住歴10年というのだから,本格的.羨ましくもあるが,実際に異国に住むことが(ドイツに限らず)どれほど大変なことか,それは何人もの知人友人から聞かされて,理解しているつもりではある.
ということで,今回紹介するのが,ダイヤモンド社から,地球の歩き方GEM STONEシリーズ37として刊行された“素顔のベルリン 過去と未来が交錯する12のエリアガイド”.
ベルリンという町を知っている人にも知らない人にも推薦できる本は少ない.この“ガイド的随筆集”は,その希有の例といえる.定価:本体1,500円+税 ISBN978-4-478-07103-8.